第百九十九話 おぞましき真の力

 静居は、仰向けになって倒れている。

 意識を失ったのだろうか。


「やったのか?」


「わからない……」


 柚月達は、荒い息を繰り返しながら、静居に迫る。

 相当、苦戦したようだ。

 傷は、光黎が、癒してくれたが、彼がいなかったら、柚月達は、今頃、命を奪われていたかもしれない。

 そう思うと、光黎がいてくれた良かったと、柚月は、心の底から感謝していた。

 柚月は、静居の元に歩み寄り、草薙の剣を振り上げる。

 静居を殺すつもりだ。

 彼らを止めるには、彼らの命を絶つしかない。

 柚月は、草薙の剣を振り下ろした。

 しかし、突如、まがまがしい気が、一気に、あふれ始めた。

 

「っ!!」


「兄さん!!」


 柚月は、吹き飛ばされそうになるが、朧が、柚月を受け止めた。


――柚月、光黎、大丈夫か?


「あ、ああ……」


 千里が、柚月と光黎の身を案じるが、どうやら、柚月は、無事のようだ。

 柚月と朧は、静居の方を見るが、まがまがしい気が静居を取り込んでいた。

 静居は闇に覆い尽くされたかのように感じる。

 それも、背筋に悪寒が走るほどの。


――何が起こってやがる?


――わからない……。


 九十九も、何が起こっているのか、見当もつかないようだ。

 いや、光黎でさえも、理解できないらしい。

 まがまがしい気を取り込んだ静居は、目を開ける。

 体が震えているが、負の感情からではない。

 まるで、喜びに満ちているようだ。

 静居は、そう感じていた。


「あはははははは!!はははははは!!」


 目を開けた静居は、高笑いをし始める。

 柚月達は、静居を討ちたいところではあるが、彼の元へ行くことさえも、不可能だ。

 まがまがしい気が、柚月達を吹き飛ばそうとしているのだから。

 静居は、起き上がり、不敵な笑みを浮かべる。

 その目は、殺意が宿っていた。


「残念だったな。私が、死ぬはずないんだよ!!」


 静居は、柚月達に、そう告げ、傷を一瞬で癒す。

 夜深の力を使ったかのように思えたが、明らかにそうではない。

 まるで、別の力を発動したかのようであった。


「こ、これは……」


「嘘だろ?」


――気付いたようね。創造主の力を解放したのよ?どう?素敵でしょう?


 柚月と朧は、静居が、何の力を発動してたのか、察し、愕然としてしまう。

 夜深が、二人の様子に気付いたようで、笑みをこぼして告げる。

 なんと、夜深は、創造主の力を解放したのだ。

 つまり、静居達は、創造主の力を封じ込めたまま、死闘を繰り広げていたことになる。

 全ての力を発揮していなかったのだ。


「さあ、絶望を味あわせてやろう」


――まさか、まだ、創造主の力を発動していなかったとは……。


 静居は、にやりと笑みを浮かべ続けている。

 光黎は、絶望に突き落とされた感覚に陥っていた。

 誰も、予想できなかったようだ。

 まさか、静居と夜深が、創造主の力を解放していなかったなど。

 あのまがまがしい気が、創造主の力だというのであろうか。

 まるで、負の感情にとらわれてしまったかのように思える。

 静居は、柚月達に、襲い掛かった。


「朧!気をつけろ!!」


 柚月が、朧に警告する。

 朧も、はっとし、構えるが、静居が、迫ったのは、朧ではなく、柚月であった。

 柚月は、とっさに、八咫鏡を前に出すが、それよりも、早く、静居が、雷撃を発動し、柚月は、八咫鏡で防ぐことすらできず、八尺瓊勾玉で吸収することすらできず、雷撃を浴びてしまった。


「ぐあああっ!!」


「兄さん!!」


 柚月は、絶叫を上げ、前のめりになって、倒れそうになるが、朧が、柚月の元へ駆け付ける。

 静居は、危険を察知したのか、後退し、柚月達と距離をとった。

 柚月は、痙攣を起こしながも、立ち上がる。

 相当の威力があったようだ。


――今のは、雷豪の技だぞ!!


――どうなっている!?


 静居が、発動した雷撃を目にした九十九は、気付いてしまう。

 今のは、妖王・天鬼に仕えていた四天王の一人、雷豪のみが、発動できる技だ。

 なぜ、静居が、発動できたのであろうか。 

 千里も、見当がつかず、困惑していた。

 彼らの様子をうかがっていた静居は、不敵な笑みを浮かべ続けた。


「知らないのか?創造主は、式神を生み出した。神を生み出した。ゆえに、創造主も同じ技を発動できる!!」


「くっ!!」


 静居が、柚月達が抱いている疑問に答える。

 なんと、創造主は、式神や神々の技を発動できるというのだ。

 創造主の力を手にした静居でさえも、可能であるらしい。

 これは、柚月達にとって厄介だ。

 静居が、どのような技を発動するかは、不明であり、予測がつかないのだから。

 しかも、創造主の力を操れる。

 つまり、驚異的と言っても過言ではなかった。


「さあ、まだまだ、行くぞ!!」


 静居は、柚月達に襲い掛かる。

 朧は、柚月の前に出て守ろうとした。

 だが、静居は、一瞬にして、朧の前に現れ、手から、長い黒の髪を生み出したのだ。

 それも、鞭のように操りながら、朧は、九尾の炎で焼き尽くそうとしたが、それすらも、防がれてしまい、鞭は、朧を捕らえた。


「うぐっ!!」


「朧!!」


 朧は、吹き飛ばされ、倒れてしまう。

 重傷を負ってしまったようだ。

 当然であろう。

 静居は、重い一撃を朧に放ったのだ。

 それも、一瞬にして、何度も、打たれたのだ。

 朧は、切り傷を負い、きつく目を閉じていた。


――今のは、黒子の……。


 千里は、静居が、どのような技を発動したのか、察したようだ。 

 今のは、餡里が、使役していた妖・髪の毛を鞭のように操る黒子の技・黒の鞭だ。

 柚月は、朧の前に立つが、静居は、今度は、氷の刃を柚月に向けて放つ。

 氷の刃を破壊する柚月であったが、無数に生み出された氷の刃を全て、破壊することはできず、柚月は、腕や足、そして、わき腹に切り傷を負った。 


――雪代の技まで……。

 

 静居が発動した技を目にした九十九は、愕然としてしまう。

 先ほどのは、四天王の一人、雪代の技だ。

 静居は、いくつもの技を連続で発動する事ができるのであろう。

 傷を負わせることもできず、今や、静居は、無敵状態と言っても過言ではない。

 朧は、ようやく、立ち上がることができたが、無理をしている。

 だが、静居は、容赦なく、柚月達に向けて技を発動する。 

 あらゆる武器を召喚し、放たれた。

 柚月達は、辛くも、回避するが、ギリギリの所であった。


「今のは……戦魔の技か……」


――まさか、神の技まで……。


 静居は、戦の神・戦魔が発動できる刀槍矛戟まで、発動したのだ。

 神の力ですら、模倣できてしまうのであろう。

 これには、さすがの光黎も動揺を隠せない。

 何か対策をとらなければならないが、柚月達は、怪我を負っており、攻撃をかわすのが、やっとであった。


「まだだ!!まだ行くぞ!!」


 追い詰められた柚月達に対して、静居は、容赦なく、技を発動する。

 次に、発動したのは、天鬼の技、煉獄檻だ。

 しかも、静居は、朧を狙って発動していた。

 朧は、回避しようとするが、回避しきれず、煉獄の檻に閉じ込められてしまい、煉獄の炎に焼かれてしまった。


「うあああっ!!」


「朧!!」


 朧が、絶叫を上げ、九十九と千里は、朧の中から出てしまった。

 それも、重度のやけどを負って。

 憑依が、強制的に解除されてしまったのだ。

 柚月は、朧達を助けようと、彼らの元へ向かうが、静居が、柚月の前に現れ、立ちはだかる。

 もはや、彼らを助けることさえも、不可能となってしまった。


「次は、お前だ!!」


 静居は、鬼神・村正の技、悪鬼羅刹を発動する。

 本来、悪鬼羅刹の力は、鬼と化し、鬼のごとく、敵を切り刻む技なのだ。

 柚月は、八咫鏡を前に出し、防ぎきろうとするが、ついに、八咫鏡がはじかれ、無防備となってしまい、静居は、容赦なく、柚月に斬りかかった。


「あああああっ!!」


 柚月は、絶叫を上げ、倒れる。

 光黎も、柚月の中から、出てしまった。

 彼も、重傷を負っている。

 光黎でさえも、食い止められなかったのだ。

 神懸りが、強制的に解除されてしまったのであろう。

 光黎は、柚月達の傷を癒そうとするが、静居が、それを逃すはずもなく、次なる技を発動し始めた。


「さあ、これで、終わりだ!!」


 静居は、最後に、全ての技を繰り出した。

 その名は、夜深の絶望よみのぜつぼう

 創造主の力を得た夜深だからこそ、発動できる技だ。

 逃れる術はない。

 立ち上がる事もできないまま、柚月達は、静居が、繰り出した技を受けてしまった。


「あああああああああああっ!!!」


 柚月達は、絶叫を上げ、吹き飛ばされる。

 やけどを負い、切り傷を負った柚月達。

 もう、誰も、起き上がる事すら不可能に等しかった。


「ははははは!!!勝った!!勝ったぞ!!」


 柚月達が、起き上がれない事を悟った静居は、笑い始める。

 それも、狂ったように。

 自分達が、勝ったと確信を得たのであろう。

 もう、邪魔するものは、いなくなると。

 自分達の願いは、叶ったも同然だと。

 静居は、柚月の元へ迫った。


「さあ、止めを刺してやろう」


 静居は、柚月を魂事消滅させようとしている。

 だが、柚月は、力を込めることすら、もう、できない。

 力が入らないのだ。

 その上、意識が、もうろうとし始めている。

 瞼が、重く感じてきたのが、わかった。


――もう、力が出せない……。


――皆、ごめん……。


 柚月達は、自分達は、もう、勝てないと悟り、敗北したと感じ、意識を手放そうとしていた。

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