第百九十六話 封じられた聖印

 柚月達の最後の戦いが始まった。

 柚月達は、聖印能力を発動し、戦力を上げるつもりのようだ。

 しかし……。

 

「行くぞ!夜深!」


『ええ!!』


 静居は、夜深に命令し、夜深は、術を発動する。

 その術は、瞬く間に、広がり、柚月達を捕らえた。

 そして……。


「っ!!」


「こ、これは……」


 術をかけられた直後、柚月達は、違和感を覚えたのだ。

 聖印能力を発動しようとしても、発動できない。

 柚月は、困惑する。

 何が、あったのだろうか。

 答えは、たった、一つであった。


「聖印の力が、封じられてるのか?」


「そうだ。だが、これも、ほんのわずかな時間だ。どこまで、耐えられるかな?」


 朧は、気付いてしまった。

 自分達は、聖印の力を封じられてしまったのだ。

 これでは、神懸かりも憑依も発動する事ができない。

 痛手だった。

 神懸りと憑依は、柚月達にとって、切り札であり、最大の戦力だ。

 柚月達は、歯を食いしばる。

 もし、静居が、神懸かりを発動してしまったら、勝ち目がなくなってしまうからだ。

 だが、光黎が、柚月達の前に出た。 


『案ずるな。私が、皆を守る』


『あら、じゃあ、やってもらいましょうか?』


 光黎は、柚月達を守ると宣言する。

 夜深は、不敵な笑みを浮かべながら、語った。

 光黎が、柚月達を守れるわけがないと、推測しているからであろう。

 それでも、光黎が、食い下がるわけがない。

 柚月達も、構え、静居達に向かっていった。

 柚月は、静居と対峙する。

 神刀をぶつけ合うが、お互い、ほぼ、互角だ。

 柚月は、聖印の力を発動しなくとも、静居と渡り合えている。

 静居は、予想外だったのか、驚きを隠せなかった。


「お前は、聖印の力を発動しないんだな」


「無力なお前達なら、聖印の力を使わずとも勝てると思ったからな」


 静居は、驚きつつも、余裕の笑みを見せている。

 聖印能力を発動しなくとも、今なら、勝てると予想したのであろう。

 静居は、柚月を吹き飛ばし、体勢を崩した。

 そして、そのまま、突きを放つ。

 深淵が、柚月の心臓を捕らえようとしていた。

 しかし……。


「それが、あめぇんだよ!!」


 九十九が、柚月を守るため、宝刀・紅椿で斬りかかる。

 九尾の炎は、静居には、通用しない。

 だが、宝刀なら、静居に対抗できると推測したのであろう。

 静居は、すぐさま、後退するが、右腕を斬られた。


「ちっ!!」


「俺ら、式神がいるんだぜ?聖印が使えねぇなら、俺らが、守りゃあいいだけだろ」


「九十九……お前……」


 静居は、苛立ったようで、舌打ちする。

 思い通りにならなかったことが、腹立たしいようだ。

 九十九は、紅椿を担ぎ、にらみつけていた。 

 柚月は、驚いているようだ。

 九十九は、自分の所ではなく、朧と共に戦うとばかり思っていたのだから。

 朧は、九十九にとって親友だ。

 ゆえに、九十九は、朧を守ろうとするだろうと推測していた。


「朧の事なら、心配すんなよ。あいつには、千里がいる。光黎も、いてくれるしな」


「助かる」


 九十九が、柚月の元へ来た理由は、柚月は、九十九の相棒だからだ。

 ゆえに、柚月を守ろうとしたのであろう。

 それに、朧にも、相棒がいる。

 千里が、朧を守ってくれると予想したのだ。

 そして、光黎も、いるのであれば、自分は、柚月の元へ行こうと、九十九は、決意した。

 柚月は、九十九が加勢してくれたおかげで、助かった。

 だが、静居は、すぐさま、深淵・楽園を発動し、傷を癒した。


「甘いのは、貴様達だ」


「ちっ。やっぱ、そう来たか」


 静居は、余裕の笑みを見せる。

 深淵がある限り、自分が、傷を受けることはないのだ。

 すぐさま、深淵により、回復してしまうから。

 それは、九十九も、想定済みだ。

 かといって、引くつもりはない。

 柚月と九十九は、静居に向かっていった。


 

 朧は、千里、光黎と共に、夜深と戦闘を繰り広げている。

 やはり、神だけあって、朧達は、苦戦を強いられているようだ。

 朧と千里が、斬りかかるが、夜深は、二人の攻撃を素手で弾き飛ばしてしまう。

 体勢を崩された朧と千里。

 その隙を逃さず、夜深は、技を発動する。

 だが、光黎が、朧達の前に立ち、二人をかばった。


『ぐっ!!』


「光黎!!」


 光黎は、苦悶の表情を浮かべる。 

 どうやら、夜深の技を喰らってしまったようだ。


『案ずるな。これくらい……』


『あら、そうでも、なさそうね。まぁ、当然でしょうけど』


 光黎は、激痛をこらえ、朧達を安堵させる。

 だが、どう見ても、無理をしていることは、朧達も、目に見えて分かっていた。

 当然であろう。

 夜深が、発動した技は、痛みを増幅させ、攻撃する能力を持っているのだ。

 その名は、痛烈無比つうれつむひ

 神と言えど、光黎も、例外ではなく、痛烈無比を受け、激痛をこらえていた。

 夜深は、すぐさま、光黎に襲い掛かる。

 だが、朧と千里が、光黎の前に立ち、光黎をかばった。

 これには、さすがの夜深も苛立ちを隠せないようだ。


「行くぞ、千里!!」


「ああ!!」


 朧と千里は、夜深に向かっていく。

 たとえ、無謀だと言われてもだ。

 光黎に、守られているばかりではない。

 神が相手と言えど、立ち向かっていく覚悟は、できている。

 朧と千里は、地面を蹴り、跳躍し、夜深に斬りかかった。

 しかし……。


『じゃあ、これなら、どう?』


 朧と千里が、迫っても、夜深は、動じることはない。

 それどころか、余裕の笑みを見せている。

 朧と千里の刀が、夜深を捕らえようとするが、夜深は、技を発動し、技は、朧達を追い尽くそうとする。

 朧と千里は、刀で切り裂くが、その直後、ある異変が起こり始めた。


「っ!!」


「か、体が……」


 朧と千里は、体が硬直してしまった。

 しかも、体が、勝手に動き始めたのだ。

 だが、これは、彼らの意思ではない。

 朧と千里は、力を込めようとするが、意思とは、無関係に、光黎に刃を向けてしまった。

 しかも、体を震わせて。


『まさか、お前』


『そうよ。天衣無縫で操ってるの』


 光黎は、察してしまった。

 夜深が、朧達に何をしたのか。

 夜深が、発動したのは、天衣無縫だ。

 朧達は、この技をかけられ、操られてしまったのだ。

 まだ、意識は、乗っ取られていないが、乗っ取られてしまうのも、時間のうちだろう。

 そうなれば、光黎は、劣勢を強いられてしまう。

 夜深は、自分が、勝ったと確信を得て、妖艶な笑みを浮かべた。


『さあ、光黎を殺しなさい!!』


 夜深は、朧と千里に命じる。

 朧と千里は、抗おうとするが、体が言う事を聞かない。

 震えながらも、光黎に迫っていく。

 ゆっくり、ゆっくりと。

 光黎を殺すために。


『朧、千里……』


 光黎は、戸惑い、構えることすらできない。

 仲間を傷つけるなどしたくないからだ。

 それは、朧も、千里も、同様だ。

 光黎を傷つけたくないと、心が叫んでいる。

 だが、どうすることもできず、光黎へと迫る。

 夜深は、不敵な笑みを浮かべていた。

 これで、光黎は、消滅すると思い込んでいるのであろう。 

 自分の手を汚すことなく。

 だが、その時であった。

 突然、朧と千里が、足を止めたのは。


「無理だよ、夜深」


『え?』


 朧は、突然、夜深に語りかける。

 操られている者が、自分の意思で、語ることなどできるはずがない。

 いや、それどころか、なぜ、立ち止まっているかさえ、理解できない。

 夜深は、戸惑い、困惑を隠せなかった。


「俺達が、操られるわけがない!!」

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