第百九十四話 やがて、野望を抱く

「私は、あがめられながら、和ノ国を変える準備を進めていた。赤い月を利用して、災害を引き起こし、人間を滅ぼすこと。妖を操ることを。利用できるものはなんでも利用しようと考えた」


『そしたら、面白いことになったのよね』


「父上の事だな」


『ええ』


 千草は、力を求めていたのだ。

 妻である舞耶を守れなかったことを悔いて。

 だからこそ、静居は、力を欲した千草を利用し、聖印渡しの術を千草に教えた。 

 自分の手駒にする為に。

 静居は、戦力を欲したのだ。


「だた、父上は、自分の思い通りにはならなかった。暴走し、妖人となってしまったからな」


「だから、殺そうとしたのか?母上を利用して」


「そうだ。葵は、邪魔でしかなかった。私よりも、上に立とうとしていたのだから」


 静居が、葵に千草を殺させようとしたのは、邪魔だったからだ。

 葵は、平皇京を救った英雄としてあがめられ、和ノ国の人々から、信頼を得ていた。

 自分よりも。

 だからこそ、愛おしかった葵の存在が邪魔となってしまったのだ。

 葵にとってはうれしかった。

 静居の支えになれていたのだから。

 だが、静居にとっては脅威であった。

 そこで、静居は葵に暴走し始めた妖人を抹殺を命じた。

 その妖人が千草である事は、伏せて。


「結果、封印となったが、それも、良しとした。いつしか、捨て駒として、利用できる日が来るかもしれんと思ったからな」


「貴様……」


 柚月は、怒りを見せた。

 許せなかったのだ。

 葵を傷つけたのだから。


「貴様が、憤りを感じているのは、わかるが、仕方がないことなのだよ。と言っても、葵を大事にしていたことは、確かだ。だからこそ、瀬戸と結ばれた時は、ほっとしたよ」


 静居は、葵が瀬戸と結ばれた事は好機だと考えていたようだ。

 葵と瀬戸が結ばれれば、葵は引退するであろうと考えていたからであった。

 だが、予想外の事が、起こってしまった。

 葵は、神の目で、静居の思惑に気付いていしまったのだ。


「だから、私は、葵達と死闘を繰り広げた。その結果、夜深は、封印されてしまった」


『許せなかったわ。私を孤独にさせる貴方が。だから、怒りで、あの場所を地獄に変えたのよ?』


「……」


 死闘の果てに、静居は、勝利したが、夜深は、封印されてしまった。

 孤独になる事を恐れた夜深は、光黎に対して、憎悪を増幅させ、やがて、その感情は、抑えきれず、地獄と化してしまったのだ。

 夜深を封印する際に、葵は、命を落としたが、静居は後悔していなかった。

 これで、邪魔をするものはいなくなると考えたからだ。

 そして、静居は、瀬戸を殺した成平に褒美を与え、位を上げた。

 これにより、鳳城家は、大将となれたのだ。

 その後、千年もの間、静居は、聖印一族を、聖印京の人々を、そして、妖達でさえも、掌握し続けた。

 と言っても、黄泉の神の半分の力が封印されてしまったことが痛手であった。

 だが、夜深と魂を融合させたことにより、不老不死の力を得ることができた。


「私は、自分が、動きやすいように、そして、思惑が二度と気付かれないようにするために、皇城家を滅ぼした」


「皇城家を!?」


「そうだ」


 朧は、驚愕した。

 皇城家が、突如、滅んだのは、知っていたが、まさか、静居が、滅ぼしたとは、思ってもみなかったのだろう。

 静居は皇城家を滅ぼしたのは、聖印の力を得て、四十年たった時の事だ。

 皇城家を滅ぼした静居は、皇城家は、妖に滅ぼされたと偽り、大将を引退、鳳城家に大将を任せ、自分は、さらに上の官職・軍師となることで、暗躍することとした。

 軍師は、表舞台に立つ者ではない。

 ゆえに、軍師となれば、戦場に赴くことはなくなる。

 指揮を大将に任せればいいと考えたのだ。

 こうして、静居は、暗躍し続けた。

 しかし……。

 

「500年前、予期せぬことが起こってしまった。真城餡里が二重刻印を持って生まれたのだ」


「それは、どういう意味だ!?」


「わからぬか?私にとって脅威的だという事だよ」


 静居は、恐れたのだ。

 二重刻印を持つ者は、強力な力をその身に宿している。

 二つの聖印を同時に扱えるという事は、自分よりも、力を持つと考えたようだ。


「だから、私は、大将に命じたのだ。真城高清に、命じ、人工的に二重刻印を持つ者達を増やすようにと。もちろん、内密でな」


 静居は力を持ち始めた餡里を追放することを考えた。

 と言っても、個人の感情では、追放できないのも事実。

 ゆえに、人工的に二重刻印を持つ者を増やすように大将に命じたのだ。

 もちろん、自分の命令である事は、伏せて。

 そうすれば、事件が、起こった時に、咎められることはないだろうと考えたようだ。

 

「あの時の大将は、何も知らず、高清に命じ、高清達は、研究をしていたな。何も知らずにな」


「……」


 高清達は、本当に知らなかったのだ。

 千年前に、聖印渡しの術が編み出されていた事も。

 静居の思惑も。

 静居は、研究が難航した所で、聖印渡しの術が、記されていた書物を研究所に置いたのだ。

 それを手にした高清は、聖印渡しの術を使用して、実験を行ってしまい、悲劇は、起きた。


「だが、高清達は、行方をくらました。これは、私にとっても、大誤算だ。だから、奴の弟に命じたのだよ。餡里を実験に参加させるようにと告げてな」


「貴様……」


 全ては、静居の思惑からだったのだ。

 餡里は、静居のせいで、運命を狂わされたも同然であった。

 そして、真城家と安城家も。

 実の所、静居は、真城家と安城家を追放したかったのだ。

 真城家と安城家は、力をつけてきたから。

 脅威となり売る前に、追放しようとしたのだ。

 静居は、安城家の聖印を真城家に渡せば、聖印は暴走し、彼らは妖となるだろうと考えた。

 その結果、二つ目の悲劇は、起こった。

 真城家は妖人となり、安城家と共に一族を追放させ、烙印一族とした。 

 餡里を大罪人として、処刑するつもりが、暴走の果てに、封印された。

 だが、それも、静居は、良しとした。

 なぜなら、千里が、地獄に放り込まれたからだ。 

 死闘の果てに、神刀・深淵が、地獄に封印された。

 静居は、千里に、命じたのだ。

 餡里を助けたければ、神刀を手に入れよと。

 そして、千里は、静居の命令に従ってしまった。

 さらに、安城家には生贄になるように命じた。

 地獄の門の封印を維持するために。

 安城家を滅ぼすために。

 この頃、天鬼が、地獄に放り込まれた事を知った静居は、天鬼も、自分の脅威となると、悟り、致し方なしに、天鬼を封印することを決めたのだ。

 

「多少、計画は、狂ってしまったが、それも、良しと考えた。天鬼は、滅ぶと思っていたからな。だが、天鬼は、深淵の門から抜け出してしまったのだ。まぁ、それでも、良いと思ったがな。赤い月を出現させる材料にはなるからな」


 地獄に放り込まれた天鬼は、深淵の門から、抜け出してしまったが、静居にとっては、動揺することではなかったようだ。

 天鬼は、いずれ、妖達を掌握する妖王となるだろうと予測していたからだ。

 自分達と敵対し、そして、赤い月を生み出す道具となると考えて。


「だが、またしても、二重刻印を持って生まれたものがいた。それが、お前だ、鳳城朧」


「……」


 静居は、朧が、二重刻印を持つ者だと、悟ったようだ。

 すぐさま、力は、消えてしまったが、それでも、脅威を拭い去る事はできないと考えたようだ。

 かといって、聖印渡しは二度も通じない。

 どうするべきかと、悩んだ静居であったが、ある提案が浮かんだようだ。

 それが……。


「真谷を内通者として、天鬼と結託させることだ」


「なっ!!」


 柚月達は、絶句する。

 なんと、真谷は、静居の駒として動いていたのだ。

 真谷も知らないうちに。


「だが、天鬼が、気付かないわけが……」 


「天鬼も、私の言う事は、聞いたぞ?」


『まぁ、私が、静居の中にいると知ったから、逆らえなかったんでしょうね』


 柚月は、疑問を抱いていた。

 天鬼が、真谷と簡単に結託するとは思えなかった。

 だが、静居曰く、天鬼も、静居の命令を聞いていたらしい。

 静居は、天鬼の元へ赴き、真谷と結託するよう命じたのだ。

 当初、天鬼は、信じられず、静居を殺そうとした。

 だが、静居を殺す事は、敵わず、天鬼は、気付いたのだ。

 静居の中に、夜深が、宿っていると。

 それでも、天鬼は、致し方なく、静居の命令に従った。

 だが、話を聞くにつれ、興味がわいたようだ。

 退屈しのぎになるのではないかと。


「私は、天鬼に命じた。真谷に妖の卵と妖を召喚させる石を真谷に渡すようにと」


 静居は、真谷と天鬼を使って朧に妖の卵を産ませることによって殺そうと考えたようだ。

 それも、静居は、真谷の野望を知っていたため、天鬼と手を組ませた。

 天鬼には、朧が、死んだら、朧の魂をくれてやると告げていたたため、天鬼は、反論することなく、妖の卵と石を真谷に渡したそうだ。


「だが、計画は、失敗した。貴様らのせいで」


 朧に呪いをかけることには、成功したが、呪いかかき消されてしまったのだ。

 柚月と九十九が、朧の呪いをかき消したから。

 静居は、憤りを感じた。

 邪魔者が、現れたと察して。


「お前達が、どのような人間なのか、この目で、はっきりと見たいと思ってな。御簾から出たのだが、予想外の事が起こった。それが、お前だ。柚月」


 静居は、柚月をにらみつける。

 真谷の悪事が、暴かれ、真谷を追放すると命じた時の事だ。

 真谷が、自分に命じられたと真実を告げないように、自ら表舞台に立ち、追放を命じたのだが、この時、静居は、成長した柚月を目にし、動揺したようだ。


「お前は、葵によく似ていた」


 成長した柚月は、自分の妹・葵によく似ていたから。

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