第百五十話 醜い争いの中で

 総会が始まった。

 まず初めに行われたのは、静居が、皇城家の跡取りになったというの報告だ。

 瀬戸以外は、どうでもよさそうに聞いていた。

 特に、瀬戸にとがめられた当主は、嫌悪感を表わしていたのだ。

 先ほどの事が、よほど気に食わなかったのだろう。

 その後、当主達による話し合いが、行われた。

 上級貴族がどうとか、妖を侵入させない方法、殲滅させる方法などが話し合われた。

 どれも、城家にとっては、重大な内容なのだろう。 

 だが、葵には、それよりも、当主達がいがみ合っているようにも見え、うんざりしていた。

 話し合いが、行われた後は、食事となったが、誰も話そうとしない。

 沈黙が続いていた。

 葵にとっては、居心地が悪い。

 このような総会がいつも行われているのかと思うと、嫌気がさしてくる。

 葵は、何度、ため息をついた。

 静居は、席をはずし、大広間を出たが、いっこうに戻ってこない。

 心配になった葵は、静居を探しに、大広間に出た。

 この居心地の悪い空間から出られたのもあり、少し安堵していた。

 各位を屋敷に囲まれた城家の屋敷は、広い。

 静居を探すのに、一苦労しそうだ。

 そう思っていた葵だったが、あっさりと静居を見つける。 

 静居は、一人、別の部屋で庭を眺めていたのだ。


「静居」


「葵、どうした?」


「静居が、いないから、探していたんだよ。どこに行ったのかと思って」


「そうか、すまない事をしたな」


 葵に呼びかけられ、振り向いた静居。

 葵に迷惑をかけてしまった事を悟り、謝罪する静居であったが、葵は、首を横に振る。

 迷惑など思っていないからだ。

 むしろ、好都合と言ったところであろう。

 決して、口には出せないが……。


「戻らないの?」


「今は、な」


 静居は、嫌気がさしたらしい。 

 戻るつもりはないようだ。


「葵、当主達や大臣たちの話を聞いてどう思った?」


「え?上級貴族の事?」


「そうだ」


 静居は、総会の事について葵に尋ねる。

 尋ねられた葵は、ふと、上級貴族の事について、話し合いがあった事を思い出す。 

 もしかして、静居は、その事について尋ねていたのではないかと。

 葵に尋ねられ、静居は、うなずく。

 さすがは、双子の兄弟と言ったところであろうか。

 お互いの事が、わかるらしい。


「難しい話だと思ってる。「城家」が、上級貴族には、なれないんじゃないかって」


「私も同じことを思っている。いがみ合って、自分達が、頂点に立とうとしているのだからね」


 各家の当主達は、城家が下級貴族から上級貴族になる方法を模索しているようだ。 

 何とも、無謀な事を言っているのだろうか。

 いや、馬鹿げっているといった方が正しいのかもしれない。

 下級貴族が、上級貴族になれるはずがない。

 その理由を葵も、静居も知っている。

 それに、当主達が、いがみ合っている事に関しても、静居は嫌気がさしていたのだ。

 くだらない争いをしていると感じて。


「皇族の血筋である千城家でさえ、上級貴族にはなれない。いや、没落させられたんだ。仕方がないだろう」


 妖を追い返す力を持っている城家が、なぜ、下級貴族であるのか、静居は、察しているようだ。

 皇族の血筋である千城家も、下級貴族である。

 本来なら、上級貴族であってもおかしくはない。

 ならば、なぜ、下級貴族なのか。

 その理由は、没落させられたからだ。

 力を持っているがゆえに、恐れられ、下級貴族と称された。

 自分の配下に置くために。

 自分達を守る道具のように扱ったのだ。

 しかも、討伐もできない事も相まって、罵られている。

 あまりにも、理不尽な理由だ。

 千年前の和ノ国は、醜い人間同士の争いが続いていたと言っても、過言ではなかった。


「すまない、愚痴を聞かせてしまったな」


「いや。いいよ。私は、気にしていない」


「大広間に戻りなさい。私も、もう少ししたら、戻るから」


「はい」


 静居は、葵を大広間に返す。

 これ以上、葵に愚痴を聞かせるわけにはいかないと察したのだろう。

 葵には、苦労をかけたくないと思っているのだ。

 葵は、うなずき、静居に背を向けて、歩き始め、静居は、葵の背中を見送っていた。

 その時であった。


「ん?どうした?」


 静居は、誰かに話しかける。

 だが、その部屋には、誰もいない。

 静居、一人のはずだ。

 静居は、誰かが隣にいるかのように話していた。


「ああ、あの子に、私が、どうするか、話さなくてよかったのかって?」


 まるで、質問があったかのようだ。

 静居は、確認するように、問いかけた。


「あの子を巻き込むつもりはない。この計画は、私とそなただけで、進める」


 静居は、何か、計画しているようだ。

 だが、葵を巻き込むつもりはないらしい。

 静居と「そなた」と呼ばれた者だけで、計画を進めるつもりのようだ。

 静居は、何を考えているのだろうか。


「頼んだぞ」


 静居は、「そなた」と呼んだ者に告げた。

 誰もいない場所で。



 葵は、大広間へと進む。

 だが、その足取りは重い。

 あの重苦しい空気の中に入らなければならないのかと思うと、嫌気がさしてしまうのであろう。

 葵は、ため息をついた。


――本当。なぜ、私達は、下級貴族なんだろうか……。まぁ、わかってる。私達は、異質だ。異質だからこそ、妖を討伐できる。でも、人々にとっては、私達は、妖と同類なのかもしれない。特に、皇城家は……。


 妖と戦えるという事は、人々にとってありがたいことなのではないかと葵は、思えてくる。

 だが、この時代は、妖に命を奪われる事は、滅多にない。

 確かに、妖が襲い掛かり、困ることはあるが、城家に任せておけばいいという判断なのだろう。

 しかも、妖を追い払う力は、逆に恐れの対象になる。

 術とは違う力、それは、未知なる力だ。

 人々にとっては、恐ろしい感じることなのだろう。

 特に、皇城家は、異質とされている。

 人々は、神の存在を信じていなかったからだ。

 城家の者たちでさえも。

 ゆえに、皇城家は、冷ややかな目で見られていた。

 葵は、大広間へとたどりついてしまう。

 その時だ。

 大広間から、瀬戸が出てきたのは。


「あ」


「そなたは、皇城葵殿でしたな」


「は、はい。鳳城瀬戸様、ですね」


 瀬戸と目があった葵。

 瀬戸は、葵に優しく話しかけた。

 瀬戸に声をかけられた葵は、会釈をし、話しかけるが、どこか、ぎこちない。

 緊張しているのだ。

 自分でも、気付いている。

 瀬戸は、位の高いお方。

 ゆえに、話しかけられる事さえおこがましく思えてしまうのだ。


「様は、つけなくていいですよ」


「え?でも……」


「お願いを聞いてもらえませんか?」


 瀬戸は、様をつけなくていいと言うが、葵はためらってしまう。 

 自分は、位が低いのだ。

 そのような事は、決してできるはずがない。

 だが、瀬戸は、優しく、尋ねる。

 これでは、断ることもできない。

 瀬戸は、微笑んではいるものの、多少、強引ではないかと思えるほどであった。


「……わかりました。なら、私も、気軽に葵と呼んでください」


「ありがとうございます、葵」


 葵は、困惑しながらも、承諾し、自分も呼び捨てでと懇願する。

 承諾してもらえたのが、うれしいのは、瀬戸は、嬉しそうに微笑んでいる。

 その笑顔は、疲れ切っていた葵を癒しているかのようであった。


「少し、疲れていらっしゃいますね?」


「はい。総会は、初めてでしたので」


「無理をしてはいけないですよ。肩の力を抜きましょう」


「はい」


 瀬戸は、葵の事を気にかけてくれたようだ。

 おそらく、緊張しているように思えたのだろう。

 初めて出席した総会は、醜い争いに見えて嫌気がさしたのかもしれない。

 瀬戸は、そう、察していたのだろうか。

 葵は、瀬戸に励まされた気分になり、心が落ち着いた。

 しかし、ある事が気になり、葵は、瀬戸に話しかけた。


「あの、瀬戸」


「はい」


「その、敬語は、使わなくていいです。私は……」


 葵が、気になっていたのは、瀬戸が、自分に対して、敬語を使っているところだ。

 位が高いというのに、なぜ、敬語で話すのだろうか。

 葵は、気になって仕方がなかったのだ。

 戸惑いながらも、葵は、懇願する。

 どうか、敬語を使わないでほしいと。


「わかりました。なら、貴方も、敬語はなしにしましょう」


「で、ですが……」


「無理だというのであれば、私も、敬語にしますよ」


 ここでも、瀬戸は、少々、強引な手を使う。

 葵も、敬語ならば、自分も警護で話すというのだ。

 果たして、どちらがいいのか。

 葵は、困惑しながらも、少し、考え、答えを出した。

 

「わかった。けど、貴方と二人の時だけにさせてほしい」


「もちろん。鳳城家の者は、うるさいからな」


「うん」


 葵は、お互い敬語はなしにしようと言う答えにした。

 だが、それも、二人の時だけ。

 もし、ほかの者に見られてしまっては、また、冷ややかな目で見られてしまうからだ。

 葵は、それを恐れていた。

 もちろん、瀬戸も、わかっている。

 だが、自分とは、気楽に接してほしいと考えたのであろう。

 だから、強引だったのかもしれない。

 でも、不思議と嫌ではない。

 葵は、その感情が何なのかは、わからなかったが、瀬戸といると、心地よいと感じていた。



 総会が終わり、葵は、皇城家の屋敷に戻り、眠りにつく。

 葵は、疲れ果ててしまったのか、すぐに眠りについたようだ。

 そのころ、静居は、一人、部屋で考え事をしているかのように、じっと、うつむいていた。

 しかし……。


「さて、そろそろ、頃合いなんだな」


 誰もいないというのに、静居は、また、誰かと話しているかのように呟いた。


「深淵の門の力は、弱まっているのか。ならば、向かわなければ、ならないな」


 そう、呟いた静居は、神刀を手にし、立ち上がる。

 深淵と呼ばれた神刀を。


「行くぞ、夜深」


 静居は、歩き始め、闇の中へと消えていった。

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