第百四十三話 彼らの前に現れたのは

 柚月は、綾姫達を鳳城家の離れに呼び寄せ、鳳城瀬戸に関しての情報交換を始めた。

 綾姫達は、鳳城瀬戸が、柚月を守っていたという話を聞いて心底驚いていた。

 同時に、それほどまでに、柚月を大事に思っていたのだろうと気付かされて。

 光焔は、鳳城瀬戸の魂に会うことができると綾姫達に説明。 

 綾姫達は、真相を知る為に、鳳城瀬戸に会いたいと懇願し、柚月も同じ意見だと承諾した。

 それは、柚月の為でもある。

 柚月は、まだ、うちに力を秘めているようだ。

 その力は、正体不明であり、制御できなければ、柚月の命を奪ってしまうかもしれない。

 だが、瀬戸に会えば、そのうちに秘めた力を知ることができるであろう。

 柚月達は、光焔の案内で、鳳城家の地下へ向かった。


「こっちなのだ!早くなのだ!」


「ま、待ってくださいまし!光焔ちゃん!」


 光焔は、柚月達を急かす。

 鳳城瀬戸に会いたがっているようだ。

 初瀬姫は、慌てた様子で、光焔の元へ向かうが、柚月達は、あっけにとられた様子で、光焔の元へ急いでいた。


「光焔の奴、何をそんなに慌ててるんだ?」


「わからない。何かを知ってるのだろうか……」


 透馬は、なぜ、光焔が、慌て始めたのか、見当もつかない。

 それは、柚月達もだ。

 光焔が慌て始めたのは、書物に記されていた文字を解読した時からだ。

 光焔は、何かを知ったのだろうか。

 あの文字を解読できたのは、光焔だけだ。

 ゆえに、柚月達は、理由を探る事は、できなかった。


「まぁ、行ってみるしかないんじゃない?」


「そうですね。行きましょう、柚月様」


「そうだな」


 考えたところで答えは出ないだろう。

 光焔が、答えない限りは。

 答えは、鳳城瀬戸に会ってから出もわかるはずだ。

 そう感じた和巳は、光焔についていくしかないと話した。

 夏乃も納得したようで、柚月に光焔についていくよう促す。

 柚月は、少し、戸惑いながらも、進み始めた。



 しばらくすると、柚月達は、巨大な門の前に着く。

 どうやら、この門を開けなければ、先に進めないようだ。


「着いたのだ!」


 光焔は、嬉しそうに柚月達に告げた。

 瀬戸は、この奥にいるようだ。

 早く、瀬戸に会いたいと内心、願う柚月。

 だが、門を開くことはできない。

 押しても、引いてもだ。

 それは、なぜなのか、ここにいる全員が、気付いたようであった。


「結界が張られてるよな?」


「そのようだな」


 朧は、そっと門に触れると、違和感を感じた。

 どうやら、結界が張られているようだ。

 それも、綾姫や初瀬姫でも、解くことができないほどの強力な結界が。

 この結界を解かなければ、先には、進めない。

 だが、柚月達は、手詰まり状態というわけではななかった。


「柚月、頼むのだ」


「ああ」


 光焔は、柚月に懇願し、柚月は、前に出る。

 書物に「鳳城瀬戸の血筋である証を示せ」と書かれてあった。

 おそらく、ここで示すのだろう。

 柚月は、草薙の剣を鞘から引き抜き、自分の腕に押し当て、引く。

 腕からは、血が流れ、柚月は、その血を門に垂らした。

 血が門に垂れた瞬間、門は光り始め、大きな揺れと音を立てて、開き始めたのだ。


「結界が、解かれたわ……」


「じゃあ、柚月は、本当に……」


「鳳城瀬戸の、息子……」


 門が開いたことにより、朧達は、確信を得た。

 柚月は、鳳城瀬戸の息子なのだと。

 綾姫と瑠璃は、確認するかのように呟き、柚月は、ついに確信を得た。

 自分は、鳳城勝吏と鳳城月読の子ではなく、鳳城瀬戸と聖印一族の女性の間に生まれた息子なのだと。

 その時であった。


「その通りだ。青年よ」


 門が開き、大広間が見え始める。

 すると、さらに奥の部屋に青年が、柚月達を待ち受けるかのように立っていた。

 彼は、魂だけの存在であった。

 その青年は、凛々しい表情であり、柚月よりも、背が高い。

 漆黒の髪は、柚月の髪の色とよく似ていた。


「貴方は、誰?」


「もしかして、鳳城瀬戸なのか?」


 瑠璃は、青年に問いかける。

 彼は、何者であるかを。

 柚月は、目の前にいる青年が、自分の父親であり、鳳城瀬戸ではないかと推測し、問いかける。

 だが、青年は、目を閉じ、首を横に振った。

 それも、切なそうに。


「いいや、違う。私は、鳳城成平だ」


「鳳城成平?」


「そうだ」


 柚月達の目の前にいる青年こそが、鳳城家の当主であり、鳳城瀬戸を処罰した鳳城成平だったのだ。

 目を見開き、驚きを隠せない柚月達。

 まさか、鳳城成平に会うとは、思いもよらなかったのであろう。

 成平は、微笑み、柚月達を出迎えてくれた。


「鳳城成平って、瀬戸を処罰した者だったでごぜぇやすな」


「貴方が、どうして、ここに?」


 高清と柘榴は、確認するように成平に尋ねる。

 なぜ、鳳城瀬戸を処罰した者が、ここにいるのか、理解できなかったからだ。

 何か、理由がるというのだろうか。

 いや、あるとするなら、知りたい。

 柚月達は、瀬戸についても、成平についても、知らなければならないのだから。


「ここを守ってきたからだ」


「俺と鳳城瀬戸を、か?」


「そうだ」


 成平は、柚月達が抱いていた疑問に堂々と答える。 

 柚月と瀬戸を守ってきたからだ。

 それでも、納得できない事がある。

 なぜ、彼は、柚月と瀬戸を守ろうとしたのか。

 なぜ、あの書物に瀬戸に関することを記録したのか。

 いや、瀬戸は、なぜ、裏切り者扱いとなっているのか、成平なら知っているかもしれない。

 だが、成平は、それ以上答えようとしない。

 瀬戸のことに関しては、言えないのだろうか。

 柚月は、成平に問いかけようとした。

 しかし……。


「鳳城瀬戸に会いたいか?」


「ああ」


 成平は、柚月が問いかける前に、柚月に問う。

 父親である鳳城瀬戸に会いたいかと。

 柚月は、堂々とうなずいた。

 会えるのであれば、会いたい。

 会って話がしたいのだ。


「この奥に鳳城瀬戸の魂が眠っている。お前を待っていた」


「ならば、会せてくれないか?会って話がしたい」


 やはり、奥の部屋で瀬戸の魂は眠りについているらしい。

 それを聞いた柚月は、懇願した。

 瀬戸に会せてほしいと。

 そのために、柚月達は、ここへ来たのだ。

 成平は、ふと、笑みを浮かべた。

 穏やかな表情で。


「それは、お前自身の出生を知ることになる。その覚悟は、できているか?」


「覚悟は、できてる」


 成平は、柚月に問いただした。

 瀬戸に会うという事は、己の出生を知るという事。

 それは、残酷な真実かもしれない。

 それでも、柚月は、覚悟していた。

 自分の両親にどのような結末が起こっていたとしても、受け止めると。

 柚月は、真剣なまなざしで、成平に答えた。


「ならば、その覚悟を証明してもらおう」


 成平は、柚月の答えに満足したようだ。

 そう思っていた柚月達。

 だが、その直後、成平は、覚悟を証明せよと告げて、誰もが予想できない行動に移った。


「え?」


 朧達は、目を見開き、驚く。

 なんと、成平は、鞘から刀を抜き、柚月に向けたのだ。

 何が、起こっているのか、状況を把握できない朧達。

 それは、柚月も同様であり、戸惑っていた。


「私と戦い、勝て。そうすれば、鳳城瀬戸に会せてやろう」


「ちょ、ちょっと待て!なんで、お前と戦わねぇと行けねぇんだよ」


「そうだ。戦う必要はないだろう」


 成平は、自分と戦い、勝つことで、覚悟を証明できると柚月に告げたのだ。

 勝てば、瀬戸に会せると。

 だが、九十九と千里は、反論する。

 戦う意味などないはずだと。

 なぜ、戦って勝つことで、覚悟を証明できるのであろうか。

 誰もが、理解できず、戸惑っていた。


「いいや、ある」


「なぜ?」


「心の強さを知りたいからだ。その強さを証明できれば、お前を認める。ここで、証明できなければ、静居に勝てないだろうからな」


 成平が、戦わせようとしている理由は、柚月の心を強さを知りたいというのだ。

 心の強さこそが、覚悟を証明できると考えているのであろう。

 それに、もし、ここで、成平に勝たなければ、静居にも勝てない。 

 成平の言う事は、一理ある。

 だが、そのような時間はない。

 こうしている間に、静居は、和ノ国を滅ぼす準備を整えているかもしれない。

 一刻の猶予も残されていないのだ。

 柚月にこれ以上危険な目に合わすつもりはない。

 朧達は、なんとしてでも、成平を止めようとした。

 しかし……。


「……わかった」


「兄さん!!」


 柚月は、成平と戦うことを承諾した。

 朧は、驚愕し、止めに入ろうとする。

 それでも、柚月は、前に出て、鞘から草薙の剣を引き抜き、切っ先を成平に向けた。


「証明してみせる!」


「いい目をしている」


 柚月は、真剣なまなざしで成平を見ている。

 もはや、誰も止められないのであろう。

 それほど、柚月の決意は固い。

 柚月の心情を察したのか、成平は、笑みを浮かべていた。


「ならば、一戦交えるとしよう」


 柚月と成平は、構えた。

 自分の決意をぶつける為に。

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