第百四十二話 封印されていた書物

 柚月、朧、九十九、千里、光焔は、月読に呼ばれ、彼女の部屋を訪れた。


「失礼します」


 柚月達は、御簾を上げると、月読が、柚月達を待っている。 

 彼女は、いつものように、冷静な表情を柚月達に見せている。

 懸命に強く生きようとしているのであろう。

 勝吏の分まで。

 柚月達は、月読の心情を感じ取っていた。


「来たか」


「はい」


 柚月達は、静かに座る。

 少し、緊張した面持ちで。

 月読に話があると言われたのだ。

 おそらく、瀬戸に関してか、または、自分の事に関する何かを見つけたのだろう。

 勝吏が、何か残していたのかもしれない。

 そう思うと、いつも以上に緊張していた柚月達であった。


「それで、話と言うのは……」


「勝吏様の部屋から、これを見つけてな」


 月読は、ある物を柚月達に見せる。

 それは、古びた書物のようだ。

 柚月は、その書物を手に取った。


「これは、もしかして、鳳城瀬戸に関することが、載っているのですか?」


「そのようだ。術で、封印されていた。新しく、術が施されていたようだ」


「つまり、父さんが、一度、この書物を読んだってことですか?」


「だろうな」


 柚月の問いに、月読は、答えるが、曖昧な返答だ。

 月読らしくない。

 おそらく、確信を得たわけではないようだ。

 だが、鳳城瀬戸に関する書物なのだろう。

 この書物は、先ほど、月読が、勝吏の遺品を整理していた時に見つけたものだ。

 小包の底に術印が、施されていた為、月読はその術印を解いた。 

 すると、書物が、出現したのだ。

 しかも、最近、解かれた形跡がある。

 勝吏が、この書物を読んだのだろう。


「読んでもいいですか?」


「もちろんだ」


 柚月は、書物を読み始める。

 朧達も、覗き込むように、読み始めた。

 しかし、柚月達は、難しい顔をしている。

 まるで、困惑しているかのようだ。


「なんだ?よく見えねぇな」


「文字がかすれてるな……」


 ほとんどの文字がかすれて読めないのだ。 

 それほど、昔にかかれた物なのであろう。

 暗号化されているわけではない。

 これでは、何の手がかかりも得られない。

 そう思っていた柚月達であった。

 しかし……。


「待って、ここからなら、読めそうだ」


「そのようだな」


 終盤になって、朧は、文字が読めると話す。 

 さすがと言ったところであろう。

 柚月も、文字が、見えるようになったようで、ゆっくりと、読み始めた。


「これって……」


「時の封印の解き方か……。そういう事だったか……」


 終盤は、時の封印の解き方が、書かれてあったようだ。

 勝吏は、これを読み、柚月にかけられた時の封印を解かせたのだろう。

 万城家の聖印能力・時限・時留めを発動する事で、封印を解いたようなのだ。

 時留めは、時を止めるというのに、なぜ、封印を解くことになったのだろうか。

 おそらく、同じ聖印能力をぶつけさせることで、相殺させたのだろう。

 あるいは、解けるように、術が仕掛けられていたのかもしれない。

 術の構造に関しては、柚月達も、読み取れなかったようだ。

 柚月は、読み進めようとして、紙をめくる。

 その時であった。


「まて、何か書いてあるぞ!」


「ん?何が、書いてあるんだ?」


 光焔は、読める箇所を見つけたようで、指を指す。

 柚月達は、凝視するが、かすれて読めない。

 何が書いてあるのだろうか。

 光焔に尋ねると、光焔は、あっけにとられた様子で、柚月達を見ていた。


「読めぬのか?」


「かすれて、読めないんだ」


「わらわには、読めるのだが……」


 光焔に問いかけられた柚月は、うなずき、答える。

 柚月達には、文字が、かすれて読めないのだ。

 だが、光焔には、読めるらしい。

 これは、一体どういう事なのだろうか。

 柚月達も、光焔も、理由がわからず、困惑していた。


「やはり、そうか」


「やはりって?」


 光焔が、文字を読めると聞いた月読は、確信を得るように呟く。

 月読は、光焔が、このかすれた文字を読めるのではないかと推測していたようだ。

 だが、理由が、わからない。

 光焔自身も。

 光焔は、首を傾げ、月読に尋ねた。


「実はな、私も、読めなかったんだ。何か、術が仕掛けられてあるのは、わかった。だから、お前達を呼び寄せたんだ」


 なんと、月読も、文字がかすれて読めなかったというのだ。

 この書物事態に、術がかけられているらしい。

 もしかしたら、勝吏が、柚月の母親の事、瀬戸に関して詳しく知らず、月読が曖昧な返事をしたのは、書物の内容を全て解読できなかったからではないだろうかと柚月達は、推測する。

 だが、もしかしたら、光焔ならば、解読できるのではないかと踏んでいたようだ。


「俺達を呼んだのは、光焔が、この文字を読めるのではないかと思ったからですか?」


「そうだ」


 月読は、推測したようだ。

 光焔は、ただの妖ではない。 

 いや、妖ですらない特別な存在だ。

 ゆえに、この術にかけられた文字も、読めてしまうのではないかと。

 どうやら、月読の読みは当たったようだ。

 光焔は、柚月達や月読でさえも、解読できなかった文字を解読したのだから。


「光焔、読んでもらっていいか?」


「うむ……」


 柚月は、光焔に懇願する。

 光焔だけが、頼りなのだ。

 光焔なら、文字を解読し、瀬戸や柚月に関する情報を得てくれるのではないかと。

 光焔は、緊張した面持ちで、うなずき、静かに読み始めた。

 かすれた文字をたどるように。


「瀬戸の子は、時の封印を施された。だが、万城家でも、長い年月をかけて、封印を維持するのは、不可能に等しい。ゆえに、私は、瀬戸の子を守るために、瀬戸は、封印の核となって、維持することを決めた」


「封印の核?いや、その前に……」


「鳳城瀬戸が、俺を封印したのか?」


 光焔が読み終えると、柚月達は、動揺を隠せなかった。

 なんと、瀬戸は、時の封印を維持するために、封印の核となったのだ。

 つまり、封印が解放されるまで、瀬戸は、柚月を側で見守っていたのだろう。

 長い年月を。

 しかし、誰がこの事を知ったのだろうか。

 柚月達は、疑問を抱いたが、光焔は、ある事に気付いたようで、書物を凝視した。


「これを書いたのは……鳳城成平ほうじょうなりひら


「成平?誰だ?」


「鳳城家の当主であり、裏切り者である鳳城瀬戸を罰した者らしい」


 この事を書いたのは、鳳城成平というものらしい。

 だが、九十九は、成平がどういう人物なのか、わからず、首をかしげる。

 月読曰く、鳳城家の当主であったという。

 しかも、瀬戸を処罰したそうだ。

 同じ鳳城家でありながら、一族を処罰した彼は、一体何者なのだろうか。


「ならば、成平が、なぜ……」


「わからぬ」


 そもそも、成平が、瀬戸を処罰したにもかかわらず、瀬戸に関する記録を記載したのだろうか。

 しかも、術をかけたのは、誰なのか。 

 もし、成平だとしたら、彼が、この世を去った後、術が維持できるとは、到底思えない。

 成平の意思を継ぐ者が、術を維持したとも考えられるが、そうであったなら、勝吏も、詳しく知っているはずだし、術を維持する必要性があったのかと、疑っていても、おかしくはない。

 この事に関しては、光焔でさえも、わからないようだ。


「柚月が、封印されていたのは、本堂の地下みたいだな」


「地下、俺が、封印されていた場所か……」


「けど、あそこは、行き止まりだったはずだ」


 柚月が、封印されていた場所を読み解いた光焔。

 だが、朧と千里は、記憶している。

 かつて、千里が封印されていた部屋は、行き止まりだったはずだと。

 門や戸はなかった。

 もしかしたら、封印されていたのだろうか。

 そうだとしたら、どのように、封印を解けばいいのだろうか。

 光焔は、さらに読み進めると、ある答えが見えてきた。


「鳳城家の地下から行けるみたいだぞ」


「なるほど、裏側ってことか……」


 柚月が封印されていた場所へ向かうには、鳳城家の地下から、行けるらしい。

 光焔が紙をめくると、地下道らしき、構図が記載されていた。

 千里が、封印されていた場所の裏に柚月は、封印されていたようだ。

 千年もの間。

 これだけ、わかれば、一歩前に進んだと言っても過言ではない。

 一度、柚月が、封印されていた場所に向かう事で、何か見えてくるかもしれない。

 柚月達は、そう、推測していた。

 しかし……。


「柚月、鳳城瀬戸の子である証は、持ってるか?」


「いや、もし、俺が、鳳城瀬戸の子だとしたら血で証明できると思うが、なぜだ?」


 光焔は、突然、柚月に問いかける。

 瀬戸の事である証は、柚月は、持っていない。

 だが、瀬戸の子であれば、その血が証明になるはずだ。

 光焔は、なぜ、そのような質問をしたのだろうか。

 柚月は、疑問を抱き、光焔に尋ねた。


「ここに記されてるのだ。鳳城瀬戸に会いたいのであれば、鳳城瀬戸の血筋である証を示せって」


「なるほどな……」


 光焔は、読み解いた一文を柚月達に話す。

 なんと、瀬戸に会えるようだ。

 つまり、瀬戸は、魂の存在となって、この世にとどまり続けているのであろう。

 いや、柚月が封印されていた場所にいるようだ。

 柚月が、血で、証明できれば、瀬戸に会えるのだろう。


「兄さん、会ってみる?」


「そうだな……会いにいこう。鳳城瀬戸に」


 柚月は、瀬戸に、自分の父親に会う決意を固めた。

 自身の出生を知るために。

 

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