第百三十六話 雷と鉄の猛攻

 死闘は、未だに続いている。

 静居は、笑みを浮かべてただ、見ているだけだ。

 まさか、想像もしていないだろう。

 月読と矢代が、自力で、呪縛を解き放ったなど。

 柚月の光速移動に反応し、刀をはじく勝吏。

 衰える様子は見えない。

 反対に、柚月の方が劣勢を強いられているように思える。

 勝吏は、雷鳴刃を発動し、柚月も、神威空浄・光刀を発動し、対抗する。

 だが、勝吏は、続けざまに、聖印能力を発動しようとしたため、柚月は、危険を察知し、とっさに後退した。

 柚月は、額から汗を流し、息を切らしている。

 まるで、追い詰められたかのように。

 勝吏は、平然としており、柚月を見下すように、見ていた。


「どうした?お前の本気は、そんなものか?」


「いいえ、まだです!」


 たとえ、勝吏に追い詰められていたとしても、ここで、終わる柚月ではない。

 柚月は、草薙の剣を握りしめ、もう一度、勝吏に向かっていく。

 光刀をその身に纏い、勝吏に向かって、剣を振り下ろす柚月。

 だが、勝吏は、自身の聖印能力を発動し始める。

 雷の輪は、柚月を拘束しようと向かっていった。


「っ!!」


 柚月は、とっさに、後退してかわす。

 これでは、勝吏に近づけない。

 柚月は、焦燥に駆られていた。


――父上の聖印は厄介だ。俺の聖印能力で、解放できるが、今は、静居が、力を送っている。となると、自力で解放は難しい……。


 勝吏の聖印能力は、本当に厄介だ。

 名は、異能・雷輪いのう・らいりん

 雷の輪を出現させ、敵を捕らえ、敵が消滅するまで、放さない。

 つまり、あの雷の輪に捕らえられたら、命を奪われるという事だ。

 以前、柚月は、異能・光刀で、とっさに、打ち破る事に成功したが、打ち破るまでに時間がかかり、重傷を負った。

 それに、今は、静居が、勝吏に力を与えている。

 ゆえに、異能・光刀で打ち破る事は、難しいだろう。

 どうするべきか、思考を巡らせる柚月。

 だが、勝吏が、雷渦を振りおろし、柚月を切り裂こうとした。


「柚月!!」


「ちっ!!」


 光焔が、神の光を放つ。 

 勝吏は、目がくらみ、とっさに、後退した。

 だが、光焔も疲労を隠せない。

 何発も発動する事ができないのだ。

 発動するたびに、体力が、削られているのであろう。


「すまない。光焔」


「良いのだ。けど……」


 柚月は、光焔に謝罪する。

 自分が、油断してしまったがために、光焔に負担をかけてしまったと自分を責めていたのだ。

 だが、光焔は、首を横に振る。

 自分の事は、気にするなと言いたいのであろう。

 それより、今は、勝吏をどうにかしなければならない。

 勝吏は、柚月達にとって、驚異的なのだから。



 虎徹は、朧に殴り掛かる。

 朧は、それをかろうじて回避した。

 これで、何度目だろうか。 

 鉛ノ型・重鉄を発動しても、異能・重鉄を発動しても、朧は、防ごうとはせず、かわすばかりだ。

 これでは、追い詰められてしまう。

 虎徹が、鉛ノ型・重鉄を発動すると、朧は、再び、よけようとするが、生里が右腕をかすめる。

 それだけだというのに、深い傷を負った朧は、顔をゆがめ、後退した。


――おい、朧!かわしてばっかりじゃねぇか!!


――そうだ。俺のことは、気にするな。このままだと、また……。


「わかってる!でも……」


 九十九も、千里も、朧を叱咤する。

 このままでは、朧の身に危険が迫るからだ。

 朧が、防ごうとしない理由は、九十九達が、傷つくのを恐れているからだ。

 そのため、朧は、回避していた。

 逃げるつもりはなかった。


「妖達を守ろうとしているのか?お前さんは、優しいな。だからこそ、負ける」


「そうですね。ですが、犠牲にするつもりなんて、ありません!!」


 虎徹に指摘されてしまう朧。

 確かに、虎徹の言う通りだ。

 朧は、優しすぎる。

 ゆえに、朧は、傷を負ってしまうのだ。

 それは、朧も、十分わかっている。

 だが、九十九達を犠牲にするつもりなどない。

 九十九達は、仲間なのだから。

 虎徹が、再び、鉛ノ型・重鉄を発動する。

 だが、朧は、回避する事もせず、千里に闇の刃を纏わせ、餡枇に炎の刃を纏わせて、同時に放った。

 九尾ノ炎刀と千里ノ破刀を同時に、発動したのだ。

 二つの刃は、混ざり合い、虎徹の鉛ノ型・重鉄を防ぎきると同時に、生里と虎徹が身に纏っている鉄を溶かした。


「参ったねぇ。鉄を溶かすとは……。だから、二つの聖印を同時に発動したのか」


「はい。賭けではありましたが」


 虎徹は、朧が、九十九達を犠牲にするわけではないのに、二つの聖印を同時に発動し、九十九を憑依させ、千里を神刀に変えたのか、理解できなかった。

 朧は、二つの技を発動しようと試みたのだ。

 虎徹の重鉄は、厄介だ。

 神刀と化した千里でさえも、刃が通らず、逆に、千里が、傷ついてしまう。

 腕で、重鉄を防いだとしても、朧と共に九十九が傷ついてしまう。

 そのため、朧は、九十九の九尾の炎、千里の闇の刃を同時に、発動させることで、虎徹の重鉄に対抗しようと考えたのだ。

 だが、成功するかどうかは、定かではない。

 賭けるしかなかったが、どうやら、朧は、虎徹の重鉄を溶かす事に成功したようだ。

 これで、朧達の勝ち目は、見えてきた。


「やってくれる!!」


 虎徹は、怒りを露わにした。

 まさか、朧に追い詰められるとは思ってもみなかったのであろう。

 虎徹は、異能・重鉄を発動しなおし、朧に襲い掛かった。



 柚月は、勝吏に追い詰められる一方だ。

 勝吏は、異能・雷輪を発動して、柚月を殺そうとしている。

 柚月は、光速移動で、回避するが、勝吏は、反応できるため、ギリギリのところで、かわし続けた。

 

――考えろ!考えるんだ!!父上達を食い止めて、静居をおびき出す方法を!!


 柚月は、思考を巡らせる。

 静居をおびき出そうとしているのだ。 

 一矢報いる為に。

 そのためには、勝吏達を食い止める必要がある。

 だが、勝吏は、連撃を繰り出し、柚月は、ほんろうされている。

 迫る事も、できずに。

 これでは、埒が明かない。


――このままでは、父上達が!!


「柚月!!」


 戦いを続けていれば、勝吏達の命を危うい。

 聖印京の人々や妖達も、再び、静居の手に落ちてしまうだろう。

 そうなる前に、柚月達は、決着をつけたいのだ。

 だが、柚月は、勝吏に追い詰められ、電撃が、襲うため、柚月は、火傷を負い始めた。

 その時だ。 

 光焔が柚月の前に出て、神の光を発動しようとしたのは。

 至近距離なら、勝吏を解放できると思ったのだろう。

 しかし……。


「貴様!!」


「待て!!」


 勝吏が、幾度となく邪魔をしてくる光焔に対して、怒りを露わにし、異能・雷輪を発動してしまったのだ。

 柚月は、光焔を守るために、強引に、引き下がらせたが、それと同時に、雷の輪が、柚月を拘束してしまった。


「があああああああっ!!」


「柚月!!」


 雷撃は、即座に、柚月の全身を駆け巡る。

 柚月は、絶叫を上げ前のめりになって倒れ込んだ。

 光焔は、慌てて、柚月の元へ駆け寄り、神の光を発動して、雷の輪を消し去ろうとするが、静居が、勝吏に力を送り込み、力が、上回ってしまったが為に、雷の輪を消す事ができなかった。

 柚月も、異能・光刀を発動したが、雷の輪にかき消され、雷撃は、柚月を苦しめた。


「兄さん!!」


 朧は、柚月の元へ向かおうとするが、虎徹が、朧の前立ちはだかり、鉛ノ型・重鉄を発動する。

 朧は、九尾ノ炎刀と千里ノ破刀を同時に発動し、虎徹の鉛ノ型・重鉄を溶かそうと試みた。

 だが、静居は、虎徹にも力を送ってしまったがために、鉄を溶かすことが、困難となってしまったのだ。


「っ!!」


「おいおい、お前さんの相手は、俺だよ?忘れたのか?」


「……くそっ!!」


 虎徹は、朧を通すつもりはない。

 朧は、焦燥に駆られ、苛立った。

 このままでは、柚月が殺されてしまう。

 父親である勝吏に。


「柚月!!柚月!!」


「うっ!!ぐっ!!」


 光焔は、何度も、神の光を発動するが、雷の輪を消し去ることができない。

 柚月は、うめき声を上げながらも、歯を食いしばり、こらえている。

 だが、その間にも、勝吏が、迫ってきていた。

 柚月達に止めを刺すつもりなのだろう。

 

――兄さんと光焔を助けなきゃ……。


 このままでは、柚月達が殺されてしまう。

 朧は、察したのだ。

 だが、柚月の元へ行こうとすると虎徹が、朧の前に立ちはだかり、行く手を遮る。

 もう、時間がない。

 そう、悟った朧は、突如、憑依を解除し、千里を人型に戻してしまった。


「おい、朧!」


「何してやがる!!」


 九十九と千里は、驚愕し、朧に問い詰める。 

 ここで、憑依化を解除すれば、虎徹の重鉄に朧が耐えきれるはずがない。

 そう、察していたからだ。

 二人は、なぜ、朧が、聖印能力を解除したのか理解できなかった。


「二人は、兄さんと光焔を助けて!!」


「朧……お前……」


「早く!!」


「ちっ!!」


 朧は、九十九と千里に懇願する。 

 柚月と光焔を助けてほしいと。

 自分は、虎徹の相手をしているため、彼らを助ける事が不可能なのだ。

 ゆえに、聖印能力を解除したのだ。

 たとえ、捨て身同然となっても。

 千里は、躊躇してしまうが、朧が、急かす。

 柚月と光焔が、殺されると感じ、焦燥に駆られているのであろう。

 九十九達は、舌打ちをしながら、柚月の元へ向かった。


「一人で、戦うつもりか?」


「兄さんを助けるためなら、一人で戦います!!」


「それが、甘いんだよ!!」


 朧は、柚月と光焔を助ける為に、一人で戦うことを決意したのだ。

 虎徹に敵わない事は、承知の上。

 それでも、覚悟を決めたのだ。

 虎徹は、苛立ちを隠せないのか、すぐさま、朧の鳩尾を殴りつける。

 朧は、回避する事もできず、衝撃を受け、あばらが何本も折れる音がした。


「ああああああああっ!!」


「朧!!」


 朧は、絶叫を上げながら、吹き飛ばされ、畳の上にたたきつけられてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る