第百十八話 和ノ国を生み出した神

「死掩達を殺さない限り、夜深の力は失われないというのは、どういう意味だ?」


 柚月は、言葉の意味が理解できず、笠斎に尋ねた。

 柚月達にとっては、見当もつかない事だ。

 なぜ、死掩達を殺さなければ、夜深の力は、減少しないのか。

 死掩達と夜深は、一体どういう関係なのだろうか。


「あいつらは、夜深に生み出された神々だ」


「なるほど、彼らは、夜深の力を使っている。だから、消滅でもしない限り、夜深は、彼らと力を共有できるってことか」


 死掩達は、夜深が生み出した神々のようだ。

 つまり、彼らは、夜深の力をその身に宿している。

 朧は、そう理解したようだ。

 死掩達が消滅しなければ、夜深は力を発動し続けることができる。

 ゆえに、彼女の支配からは、誰も逃れられない。

 笠斎は、そう言いたいのであろう。


「そうだ。あいつらは、復活したから、夜深は、全ての人間や妖を操ることができたんだ」


 夜深が、平皇京の人々までも、操れるようになったのは、死掩達が復活したからだ。

 それまで、天衣無縫の効果は、聖印京に住む人々と妖のみであった。

 だが、死掩達が、復活した事により、夜深は力を取り戻してしまったのだろう。

 彼らとは、力でつながっているのだから。

 そのため、天衣無縫の効果は、和ノ国に住む人々と妖にまで範囲が広がってしまったのだ。


「でも、夜深は、黄泉の神でしょ?いくらなんでも、そんな事できるとは、到底思えないんだけど……」


「そうでごぜぇやすな。それに、人や妖を操るなんてことも、そう簡単にできるとは思えねぇでごぜぇやす」


 笠斎の説明を聞いた景時と高清は、疑問を抱く。

 夜深は、黄泉の神だ。

 ゆえに、黄泉の神は、魂を黄泉へと送り、人や妖と言った生命に生まれ変わらせることができる力を持っていたはず。

 その黄泉の神が、神々を生み出す力や人々や妖を操る力をなぜ持っているのか違和感を覚えたようだ。

 まるで、全知全能の神のようだと。


「まぁな。お前達が、言いたい事もわかる。だが、夜深は、光の神と同様に、強い力を持ってる。だから、神々を生み出す事は、造作もないんだよ」


 笠斎は、景時と高清の疑問に答える。

 確かに、夜深が持つ力は、黄泉の神とは思えないものばかりだ。

 だが、黄泉の神と光の神は、強い力を持っていたらしい。

 ゆえに、自身の神の力で神々を生み出す事は造作もなかったのであろう。

 しかし、なぜ、二柱の神は、強い力を持っているのかは、笠斎は、答えなかった。


「と言っても、本来、黄泉の神は、魂を黄泉に送りだすことが役目だった。人や妖を操る力は持ってねぇ。昔はな」


「じゃあ、なんで、今は、持ってるんだい?」


 神々を生み出す力はあっても、人々や妖を操る力は、夜深は、持っていなかったようだ。

 だが、それも、遠い昔の話らしい。

 ならば、なぜ、夜深は、その力を得たのだろうか。

 和泉は、疑問を抱き、笠斎に問いかけた。


「奪ったからさ。力を」


「奪ったって、誰からですの?」


 笠斎曰く、夜深は、力を奪ったらしい。

 それゆえに、操る力を得たというのだ。

 だが、誰から奪ったというのであろうか。

 神であろうと柚月達は、推測するが、見当もつかない。

 初瀬姫は、思考を巡らせるが、思い浮かばなかった。


「和ノ国を生み出した創造主からだ」


「創造主?」


 なんと、夜深は、和ノ国を生み出した創造主から力を奪ったという。

 だが、柚月達が、創造主がいたという事も、その者が、和ノ国を生み出したことも、初耳だ。

 今まで、知り得なかった情報を得た柚月達は、困惑している。

 創造主は、神である事は間違いないだろう。

 だが、和ノ国を生み出し、操る力をその身に宿した創造主とは、一体どのような存在だったのだろうか。


「おう、和ノ国を治める神ってところだな。神々を生み出すこともできたんだぜ。最初に生み出した神は、光の神と黄泉の神だ」


「そうだったのか」


「おう、光の神と黄泉の神は、重要な役割を授けたんだ。だから、強い力も与えた」


 創造主は、和ノ国を治める神であったらしい。

 加えて、その創造主は、神々を生み出す事も、できたらしい。

 しかも、光の神と黄泉の神を最初に生み出したという。

 光の神と黄泉の神は、重要な役割を与えられたがために、強い力を持っていたようだ。

 その重要な役割と言うのが、光の神は、その力で人々から災いを守り、浄化する事であり、黄泉の神は魂に安らぎを与え、魂を生まれ変わらせることだったという。 


「創造主は、全知全能だったんだ。和ノ国や神だけじゃねぇ。人も、こいつらも、生みだすことができた。夜深に力を奪われるまではな」


 創造主は全知全能の神であった。

 それゆえに、和ノ国も、神々も生みだせたのだ。

 そして、人や妖までも、生み出したという。

 だが、なぜ、妖を生み出したのかは、笠斎は、説明しない。 

 何か、秘密があるとみて間違いなさそうだ。

 創造主は、夜深に力を奪われるまでは、全知全能の神として、和ノ国を見守り続けていたという。


「夜深が創造主の力を奪ったから、夜深は、人々や妖を操る力までも、持ったのか……」


 笠斎の話を聞いていた千里は、理解した。

 夜深が操る力を得たのは、創造主の力を奪ったからに過ぎないのだと。

 そして、その力を死掩達にも与えたらしい。

 彼らを強化するためだ。

 夜深は、創造主の力を得たがために、その力を使用して、和ノ国を滅ぼし、静居と共に支配するつもりなのだ。

 だが、夜深は、なぜ、そのような暴君に出てしまったのだろうか。

 静居が、なぜ、和ノ国を滅ぼそうとしているのかさえも、不明だ。

 静居と夜深の過去にいったい何があったというのであろうか。


「悪用されちまったんだ。情けねぇことにな」


 笠斎は、うつむきながら呟く。

 夜深が力を奪い、悪用してしまった事に対して、嘆いているようだ。

 だが、まるで、自分にも非があるようにも聞こえる。

 彼は、夜深や創造主と何らかの関係があるとみて間違いなさそうだ。

 本人は、語るつもりはないかもしれないが。


「んで、その創造主ってやつは、どこにいるんだよ」


「さあな」


 九十九は、創造主がどこにいるのかを、笠斎から聞きだそうとする。

 夜深に力を奪われたとしても、消滅したとは考えていないようだ。

 どこかで、身をひそめ、力を奪い返そう機会をうかがっているのかもしれない。

 だが、笠斎は、首を横に振る。

 どうやら、笠斎も創造主の行方を知らないようだ。

 その後、どうなったのか、わからないのであろう。


「死掩達を討伐するという事は、創造主の力を消滅させることにつながるってことか?」


「いや、そうじゃねぇんだ。創造主の力を奪還することができるはずだ。ま、どっちにしろ、夜深の力を奪うことになるってことだな」


「そうなると、どうなるのじゃ?」


 死掩の討伐は、すなわち、創造主の力を消滅と言う事を意味しているのではないか。 

 千里は、そう予想したのだが、実際は、そうではないらしい。

 死掩達が、消滅すると、創造主の力を奪還することにつながるというのだ。

 つまり、創造主が力を取り戻すということになるのであろう。

 どちらにしても、夜深が力を失うことには変わりない。

 しかし、力を失ったにせよ、そうなると、どのような事が起こるというのだろうか。

 春日は、想像もつかないようで笠斎に問いかけた。


「そりゃあ、もちろん、人間や妖を解放することができるってもんだ」


 夜深が、力を失うという事は、人々と妖が解放されることにつながるらしい。

 つまり、天衣無縫の効果の範囲が縮小されるという事なのだろう。

 となれば、聖印京以外に住む人々や妖達を解放することになるのであろう。

 笠斎は、これを狙っているようだ。

 そのため、大戦を仕掛け、神々をおびき寄せ、死掩達を討伐しようと考えたのであろう。


「なるほどねぇ。そりゃあ、いい案だ。けど、もう少し、やり方を変えたほうがいいんじゃないか?」


 笠斎の提案は、最善だ。

 夜深の力を減少させ、人々と妖を解放できるのだから。

 和巳は、納得するが、大戦を仕掛けるというのが、どうにも、受け入れられない。

 人々や妖達を巻き込むことが、解せないのだ。

 自分達の目的の為に、大戦を仕掛けるのは、静居達と同じ卑劣なやり方になってしまう。

 和巳は、そう、考えているのであろう。

 それは、柚月達も、同じだ。

 ゆえに、別の方法があるのではないかと模索していた。


「そうしたいところだが、あいつらをおびき寄せるには、大戦を仕掛けねぇといけねぇんだ。それに、小作は、もう通用しねぇ。そうだろ?」


「確かに、そうですね」


「何、心配は、いらねぇ。ちゃんと、考えはある。命を奪わないで済む方法がな」


 ほかの方法では、神々をおびき寄せる事はできない。

 それに、静居を欺けることは、もう、不可能に等しいであろう。

 美鬼は、納得するが、やはり、不安に駆られているようだ。

 だが、笠斎は、予想もできなかった言葉を口にする。

 なんと、大戦を仕掛けても、命を奪わないで済む方法があるというのだ。

 柚月達は、目を見開き、驚愕した。

 笠斎は、どのような策を考えているのであろうかと。


「だったら、真っ向から挑んでやろうじゃねぇか!」


 笠斎は、笑みを浮かべた。

 その表情は、自信に満ちていた。

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