百目の迷子センター#1

 『皆が種族や職種に関わらず楽しめる場所』をコンセプトとした超大型複合施設ユグドラシル。


 私の勤め先であるこの施設は毎日、人間で数万人の来客のある人気施設である。


 人気があればあるほどトラブルは発生しやすくなるもので、私の所属する迷子センターも毎日少なくとも十件は迷子になってしまったお客様がやって来る。


「すみません、うちの子の姿が見えなくて」


 慌てた様子で迷子センターに飛び込んできた人間の女性は息を切らせながらそう言った。


「今からお探しいたしますので、お子様の年齢と服装や身体的特徴、はぐれたと思われる場所を教えて頂けますか?」


「はい。娘は3歳で身長は100センチ程度。黄緑色のTシャツと白色のズボンを履いています。気が付いた時には見失っていて……そうだ、娘は歩いている途中でエルフの店員さんに見とれていました」


「ありがとうございます。恐らくすぐに見つかるかと」


 私は目を閉じて、ユグドラシルの各所に設置されている私の瞳かんしかめらに繋がった。


「見つけました」


 私は対象の子供が映った私の瞳かんしかめらの映像をタブレット端末に映し出し、お客様に確認して頂いた。


「間違いなく娘です」


「では、近くの従業員に保護するよう連絡いたしますのでお待ちください」


 私はすぐさま対象の子供が居るエルフ族のローズさんが店主を務める絵本屋ローゼンに連絡を入れ、女性と共に迷子になっていることにも気が付かず床に座り込んで絵本を読んでいる娘さんを迎えに向かった。



10月2日 ダイヤル

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る