悪魔の洋服屋#1

洋服屋デビライズはこの十数年という短い期間で一つのブランドとして確立された店であり、その第1号店はオレが店長を務めるユグドラシル店である。


 デビライズというブランドは黒を中心とした暗色をメインとして使っている。


 中でもゴシック・アンド・ロリータというジャンルはデビライズとの相性が非常に良く、デビル族やエルフ族、最近ではヒト族の女性から人気を得ている。


「すいません」


「はい、ただいま」


 オレを呼んだヒト族の女性は試着室で腰回りに三本の細いベルトの付いたワンピースを試着していた。


「どう?」


「よくお似合いです」


「そんな事はわかっているから、この服を着た私に合いそうな小物を教えてもらえません?」


 大きな声では言えないが、大体の場合においてゴシック・アンド・ロリータが似合っていないお客様が多い中、こちらの女性は小物で飾り付ける必要などないほどゴシック・アンド・ロリータが似合っているのだが、それでは納得してもらえそうにないのでオレは女性の持つ魅力を邪魔しないアクセサリーを選んだ。


「こちらはいかがでしょうか?」


「買います」


 ほとんど見てすらいないのにもかかわらず女性は即答した。


「ありがとうございます」


 会計を済ませて女性を店の外まで見送りに行くと、女性は足を止めて言った。


「私、ヒトとエンジェル族のハーフなんです」


「そうでしたか」


 ヒト族とエンジェル族の間に生まれるハーフエンジェルは相手の本音を聞き取る力があるらしいが、オレは何故女性がいきなりそんなことをカミングアウトしたのかよく分からなかった。


「また来るので、今度は店長さんのおすすめコーディネートを教えてください」


 女性はそう言うと、嬉しそうに帰って行った。



4月10日 ユースケ

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