エルフの絵本屋さん⑩

 今朝、突然ローゼンにニコニコとした笑顔で訪れた魔女のアンコさんはワタシに分厚い紙束を渡してきた。


「どうかな?」


「ん~」


 びっしりと文字がつづられた紙束とにらめっこをしてかれこれ1時間が経ち、ようやく半分を読み終えるとアンコさんは前のめりになってワタシにそう聞いて来た。


「あの、アンコさん」


「何かな?」


「ワタシは前に絵本のネタになるような話があれば教えてくださいとアンコさんに言ったことがあります。よく覚えています。でも、これを絵本にするのはなかなか難しいかと」


 まだ半分しか読んではいないけれど、紙束には若い男女の角砂糖を5つ入れた紅茶よりも甘々な恋物語がつづられていた。


「これをもとにして絵本を描くとなると、絵本よりも少女漫画になってしまいます」


「だよね~ オバサン張り切りすぎちゃった」


「あと、読む人が読んだら登場人物のモチーフが誰かわかってしまいますよ」


「やっぱり?」


 少なくともユグドラシルで働く人たちが読めばアンコさんの身近な魔女見習いと魔法使い見習いの現在進行形の状況に尾ひれを付けてつづったことはわかってしまうだろう。


「絵本は無理か。なら、折角こんなに書いたから小説にでもしようかな」


「やめてあげて下さい」


 とは言いつつもこの続きを読んでみたいワタシもいた。きっとこの気持ちはにやにやしながらワタシを見つめているアンコさんには見透かされているのだろう。


「忙しいのに病気になるほど甘いノンフィクション……じゃなかったフィクションストーリーを見せちゃってごめんね。お詫びに今度はちゃんとしたネタ持って来るから」


「ありがとうございます」


 チョコちゃんが恐ろしい未来が見えてしまったとワタシに相談にやって来るのはそれからすぐの事だった。



3月19日 ローズ

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