世渡のよろず屋⑨
「サファイアくん、良かったらこの後インフィニティでご飯でも食べて行かない?」
「世渡さん申し訳ありません。このサファイア、ご一緒したいのは山々なのですが今日はどうしても外せない用事があるのでお先に失礼させていただければと」
「そうか、用事なら仕方ないよ。それじゃあ、また明日よろしく」
「はい、失礼します」
よろず屋の前でサファイアくんと別れた僕は1人で料理店インフィニティに向かった。
「いらっしゃいませ~~~って、世渡じゃん。ぼっち?」
「僕は一応、お客として来ているのだけど」
「細かいことは気にしないで~~~ご注文は?」
夕飯を食べようと思ってきたのはいいけれど、来るまでの間に決めていなかったことに気付いた僕はメニューを手に取った。
「ソルトさ~~~ん、また新鮮な空中魚が手に入ったって言っていましたよね?」
理科は僕の手からメニューを取り上げて厨房に居るソルトさんにそう聞いた。
「オーナー、良ければお寿司食べて行きませんか?」
「じゃあ、お願いします」
「は~~~い、空中魚の握り入りました」
インフィニティの雰囲気に合わない奇妙なほどに高いテンションで理科がそう言った。
「お待たせしました~~~空中魚の握りです」
「えっ?」
僕はお皿の上に乗せられた10貫のお寿司を見て顔を引きつらせてしまった。
「そうだよね~~~そんな顔になるよね~~~」
「ね、ねぇ、理科。何なのこの食欲を減退させるほどに鮮やかな青色や緑色をしたお寿司は」
ソルトさんに聴こえないように小さな声で僕は理科にそう尋ねた。
「気持ちは分かるけど、見た目で判断しな~~~い。さぁ、食べて」
「ちょ、ちょっと理科! 何しているの!」
僕がどんな恨みを買ってしまったのか分からないけれど、理科は本来醤油を入れるはずの小皿にソースを入れた。
「騙されたと思って食べてみて」
色的な意味でも、味的な意味でも、口にして大丈夫なのだろうかという不安を強く心に抱きながら僕はお寿司をソースにつけて口に運んだ。
「あれ?」
お寿司を口に入れた瞬間、僕の心の中に抱かれていた不安は一気に消え去った。
「美味しい」
僕は芸能人ではないので上手くこの味を表現することは出来ないけれど、まず言えることはこのお寿司はソースにつけて食べるからこそ美味しいのであって詳しい説明は出来ないが人間界で親しまれているお寿司のように醤油で食べるのは間違いなのだと思う。
このお寿司にはワサビが入っていないのだが、それも醤油ではなくソースで食べるようにワサビの辛さが無いという事がこのお寿司が美味しい一つの要因なのだと思う。
「オーナー、空中魚のお味はいかがですか?」
「毎日でも食べたいほど美味しいです」
「それは良かったです。空中魚は日によって仕入れられない事もあるのでメニューには入れることは出来ませんがもし入荷したらこっそりお教えいたしますのでまた食べに来てください」
僕は出された時に感じた嫌悪感が恥ずかしくなるほどに空中魚の虜になっていた。
3月11日 不知火世渡
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