龍人の料理店⑦
ラストオーダーの5分前、そのお客様はやって来た。
「いらっしゃいませ」
理科は笑顔でそう言ってお客様にお冷をお出しした。
「あの、注文良いですか?」
「はい、お伺いします」
理科が注文票をポケットから取り出すのとほぼ同時にお客様はメニュー表を開いてチキンドリアを指差した。
「これを」
「かしこまりました」
理科は注文を繰り返して聞き違えていないか確認した後、キッチンに居るソルトさんに承った注文を伝えた。
「ソルトさん、いつもので~~~す」
「わかりました」
いつものでソルトさんが理解できたのは、あのお客様がこの2週間ほど1日も欠かすことなくこのインフィニティにやって来てチキンドリアを注文しているからだった。
「理科さん、持って行って」
「は~~~い」
理科は完成したチキンドリアをお客様のもとへ持って行った。
「お待たせいたしました。チキンドリアになります。ご注文の品は以上でよろしかったでしょうか?」
「はい」
「では、ごゆっくり」
「あの」
チキンドリアをお客様のもとへ運び届け、他のお客様が帰られた後のテーブルを片付けようとすると、ソルトさんと同じ龍人族で見た目は理科と同い年くらいの女性のお客様が理科を引き留めた。
「はい、お伺いします」
理科がそう言うとお客様は他の席をチラチラと見渡した。昨日までに10回ほどこのやり取りが起こっていたが、お客様は10回とも他の席を見た後「なんでもありません」と言っていた。
「今、お話ししても大丈夫でしょうか?」
「え~~~っと……」
理科は店を見渡し、過去10回とは違いこのお客様以外にお客様がいないことを確認して答えた。
「大丈夫ですよ」
「あの、このお店って、アルバイトを募集されていますか?」
「していますよ」
お客様の質問にそう答えたのは、最近の口癖が「もう1人くらい従業員増やそうかな」なソルトさんだった。
「本当ですか?」
「もう他のお客様はいらっしゃらないと思いますのでお時間があればこの後で面接いたしますか?」
「良いのですか?」
「もちろんです」
ソルトさんとインフィニティでアルバイトを志望するお客様は目を輝かせていた。
「では、お食事を済ませたらお声掛け下さい」
「はい、よろしくお願いします」
閉店後、龍人のミリンさんとソルトさんは面接を始めたので理科はソルトさんの代わりに食器洗いと食材の在庫確認をした。
3月2日 旋風理科
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