異世界プラザ ーユグドラシルー
姫川真
プロローグ
祖父の異世界プラザ①
「世渡」
朝食を食べていると、向かいの席に座るじいちゃんが僕の名前を優しく呼んだ。
「今日から新しい一年が始まる」
「うん、そうだね」
新年の挨拶は起きてからすぐに言ったはずだが、何か忘れていただろうか? 僕はそんなことを考えながらじいちゃんの年相応にしわのある顔を見つめた。
「昨年はようやく世渡も大人の仲間入りをした。そこでじゃ、わしから世渡に渡したいものがある」
20歳のお祝いは昨年の4月10日に受け取ったし、お年玉は昨年の内にもう20歳になったからと受け取りを断った。つまり、僕はじいちゃんが何をくれるのか全く予想が出来なかった。
「ユグドラシル」
「え?」
じいちゃんの口から出た横文字のその言葉はじいちゃんが所有する複合施設の名前で、僕にとって馴染みのある名前でもあった。
「ユグドラシルを今年から世渡に継いでもらいたいと思っている」
「いや、ちょっと待って。ユグドラシルなんてもらえないよ。というかそんな簡単に引き継げるものなの?」
「そう難しいことでは無い。それにわしも十分過ぎるほどの年齢じゃ、そろそろ後継者にユグドラシルを受け渡して静かに余生を過ごしたいと思っていた所じゃ」
本来なら今頃じいちゃんの一人息子である父さんが経営を引き継いでユグドラシルの2代目オーナーとなっているはずだったが、その父さんはいない。つまり、じいちゃんがユグドラシルを継がせようと思ったら父さんの一人息子である僕しかいないという訳だ。
「奏吉さん、いきなり継げと言っても世渡も困惑してしまいます。ここは一度オーナーの仕事を体験してもらえば良いと思うのだけど」
「なるほど。世渡、1か月間だけオーナーの仕事をやってみてくれんか? やってみて嫌だというのならこの話はきれいさっぱり無かった事にする」
僕は60秒の時間を費やして悩み答えを出した。
「わかったよ。とりあえず1か月だけやってみる。後継者になるかはその間に考えさせて」
「ありがとう。世渡」
じいちゃんはしわしわな顔をさらにくしゃくしゃにして微笑んだ。
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