第140話 もう一つの武器

「僕に剣技を教えられる人を紹介してください」


 普段数え切れないほどの人たちと接しているであろう冒険者ギルドの職員ということで、冒険に身を置いてる人だろうが、そうではなかろうが、剣術に対して一家言ある人へのコネと伝手を持っているだろうと踏んだ人物、フランさんに向けて僕が今し方発した言葉だ。


 冒険者にクエストを斡旋する仕事柄、応対する冒険者の実力など目の前の者がどの程度かは事前、その場などに関わらず知っておかなくてはならない。


 基本的には冒険者としてのランクでそのクエストを受けられるか受けられないかが決まってくるが、そのランクが本当に適切なのかは実際に現場に行ってみないと知ることが出来ない。


 そして、ランクという物はこれまでのクエストデータに基づいてこんなものだろうとある程度で決まるため、同じランクでも、あるいはたかが一段上だろうが、難易度が比べものにならないぐらい差が付いていることが往々にしてある。


 そのためにもクエストを受注して良いのか否か、最終的に判断を下すのは、クエストを統括する受付嬢ということだ。


「――――」


 それで何故その受付嬢であるフランさんに本来の役回りであるクエストの斡旋ではなく、人の紹介を頼んだのかというと、先述の通りただ単純に顔が広いと思っているからだ。


 目の前の人物の実力を量るのに必要なものは何だろうか。持ち物や顔つきなどの見た目?どれだけ周囲に気を張っているか分かる佇まい?それとも戦いで一線を越えた物にしか得られないはずの考え方?


 答えはそれら全てだ。もっと言えば他にも腐るほどある。


「――――」


 人は見た目が9割とよく言われるように、ぱっと見で分かるヴィジュアルは最重要項目と言えよう。しかし、いくらダンジョンで魔物を狩り続け強くたくましくなっていても、あらゆる仕事を引き受ける冒険者という仕事上、時には人をも相手にしなくてはいけないことがある。それは護衛の任務で賊から人を守ったり、裏であるとされているらしい暗殺だったり様々だ。


 どの任務であろうが人間と敵として相対した時に人が取る行動は主に三つある。

 一つは同じ種族である人間に攻撃など出来なくて、逃げる者。一つは攻撃こそ出来ないがパニックに陥り、闇雲に武器を振り回すかあるいは腰が抜けて動けなくなる者。最後は強者と言われる、慣れ親しんだ魔物を倒すが如く冷静に、そして冷酷に任務に徹する物。



 その三者三様の様子は、ぱっと見のヴィジュアルだけでは到底分からないだろう。そして、佇まいや考え方などは更にその人をよく知らないと分かるはずもない。


「――――」


 そこで冒険者の表面には現れない実力のことを知ろうと思ったら、ある程度の会話をしなくてはならなく、その会話を一日行なっている受付嬢は顔が広いはずという予想だ。


「えーっと別にそれは構わないけど、とりあえず真冬くんの剣の実力を知らないことには……」


「そうですよね……」


 早い話、剣の実力を見るならば、スキルのレベルを参考にすればあっという間に分かる。しかし、先ほども言った通り、この世界では見た目や数値に現れない強さなど五万とあるのだ。


「誰か模擬戦してくれる人でもいないかな……」


 フランさんが顎に手をやり悩ましげに呟いた一言が部屋に木霊した瞬間、まるでその時を待っていたと言わんばかりに唐突に、この部屋に来訪を知らせる扉を叩く音が聞こえた。


「――――」


 普段よく話す人物たちはこの場に揃っている。それにも関わらず極親密な人しか知っていなく、来ることも出来ないはずのこの部屋に来た扉を叩く人物に、僕たちは不安を感じられずにはいられなかった。


 そのためフランさん、みゃーこ、ウィルの視線は自ずと僕一点に集まった。


「……どうぞ」


 入室の許可の声が届く頃、余裕がある強者の歩みの如く、緩慢な動きだが確かな意思を感じられる扉の開け方に僕たちは息を呑んだ。そして、扉が全部開け放たれたその場所に立っていたのは――


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