第135話 階段の攻防
ギルドに入り、中には顔見知りも多いためより一層深まった生暖かい視線、あるいはニヤニヤとした表情とが入り交じったものをどうにかこうにか耐えながらも、頼りの綱であるフランさんを探し視線を巡らせた。
「はぁ……」
見渡した結果、一階ではフランさんの姿が見えなかったため、二階にいるのだろうと階段の前まで来た。だが、横抱きしているウィルで両手が塞がった状態、かつ二人を脇に携えて段を登ることの困難さに、気は重く、自然とため息が溢れた次第だ。
後ろからは見なくても分かるほどの生暖かさが漂ってきており、その視線をもろに浴びることを考えたら、階段を前に引き返すことはおろか、振り向くことさえ
「どうしようか……」
どうしたものか、と文字通り立ち往生していると背中に当てられていた温い温度が急に無くなり、代わりに後ろから突如としてざわめきが沸き立った。その中の感情は実に様々なもので、尊敬、畏敬、畏怖、恐怖など色んな種類が混じっていることが背中越しでも分かった。
しかし、正直なところ急に沸き立った後ろのざわめきよりも、前の階段の方が問題だ。
今目の前にしている階段は二、三人が通れるぐらいの幅しかなく、普段の僕であればその前に立ち塞がっていても避けて通れないことはない。が、今の僕は子どもサイズのウィルを一人横抱きにして、なおかつさくらとみゃーこの二人が横に抱きついているため、階段の全幅を完全に塞いでしまっている。
「――――」
ダンジョンから何とか逃げ仰せた時でさえ結構疲れていたのに、ダンジョン前からギルドに向かう道中のさくらとみゃーこの邪魔の所為で、体力は底が見え始めていた。なので、その疲労がもたらす心情的な問題から、通常では何てことの無い階段でも一度で上りきりたかった。
しかし、それを実現するためにはかなりの気合いが必要となり、加えて階段を塞いでいることもあるので早々に一度で登ることを断念する。そして、作戦としては最初にウィルを上に連れて行き、後からみゃーことさくらを抱えて登る、そんな感じでいこう。
そう思った矢先、コツコツという軽やかながらも積み重ねてきたような重みのある足音と共に、大勢の様々な感情の乗った視線が徐々にこちらに向かってきた。
「――――!!」
とりあえずさくらとみゃーこをギルドの中に設置してあるイスに座らせようと、後ろを向こうと思った瞬間だったが、視線と足音が近付いてきているのを察知してしまったため、振り向きかかった身体を直し、咄嗟にまた階段と向き合ってしまった。そして、それは再度階段の前を塞ぐことを意味していた。
紛れもなくこちらに確かに近付いてくる足音と、時間が経つにつれて視線が僕の方に集束する感じに今更動くことなど出来ず、僕は逃げ時というものを完全に逃してしまった。その結果、軽いはずなのに一歩一歩明確で重厚な意志を持っている足音が僕の後ろで止まり、ギルド中の視線をその一身にかっさらっているであろう人物が、階段の前を陣取り、行く手を阻む僕の真後ろに立ち止まった。
「そこ、通して欲しいんだけど」
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