第129話 全力
空を蹴り勢いを着けた僕は、一軒家ほどある大きさの暴食に剣を振り降ろす。小細工など何も要らない、ただただ純粋に持てるだけの力を剣に込め。
キィィィィィィィィィン
薄らとぼんやり光る剣と、空間に穴が空いているような漆黒の暴食が互いにぶつかった瞬間、世界が歪むほどの甲高い音が響いた。
その頭が割れそうになるほどの音だけでも決して軽くない衝撃波を引き起こすだけの力を持っており、その発生源に一番近いところにいる僕は、身体を押し流されそうになるほどの突風にも似た圧力を感じる。
それでもそんなのは気にもせず、暴食と力の押し合いへし合いをする。
「――――ッ!!」
ついさっきまで斬っていたソフトボールサイズのものは、剣を握っていた手が痺れるほどの手応えはあったものの、ほとんど抵抗なく切断できた。
しかし、今回は痺れるとか抵抗とか、そんな程度の比では無い。まるでダイアモンドで出来ている大山に剣を突き立てているようだ。
「――――!?」
それに加え、剣が目に見えてその光を失ってきていた。先ほどの月の例に換算すると、二日月ぐらいの零細な光となっている。まさしく風前の灯火だ。
(……真冬くん、あと10秒も持たないッ!!)
ウィルは喘ぐように念話で言った。
念話は思ったことを直接伝えることが出来る。なので感情は蓋をされたように、その声に乗ることはない。しかし、今のウィルの念話はその蓋を押しのけるほど感情、苦しさや頑張りが乗っており、それが直に伝わってきた。それほどウィルも切羽詰まっているのだろう。
「――――」
今までは全力と言ってもその先のことを見据え、9割ほどに力を抑えていた。しかし、この巨大な暴食を斬れば、あとは膝を地に着けているベルーゼに何でも良いから攻撃を当てれば勝てる。だからここで完全燃焼しても――
(ウィル、全開で行く!!)
(うん!!)
ウィルが10秒というタイムリミットを宣言してからもうすでに5秒は経っている。この局面においての命綱である剣が壊れる前に決着を。
「――――」
握っている剣を再度握り直し、全身に力を込めた。
「「はぁぁぁぁ!!!!!!」」
光る剣の闇化はジワジワと速度を上げ進行していく。その影響からか、先端から剣が徐々に崩れていっている。だが、その代償として暴食にも次第に光のヒビが入っていく。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」
剣の崩壊が進行していくにつれて、暴食に入っていくヒビも大きさを増し、範囲を広げ進んでいく。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」
剣の刀身と言える場所全てが崩壊しきるすんでのところで、暴食に入っていたヒビが巨大な球体の全範囲を囲み、そこから眩いほどの光が溢れ出す。
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」
そして、最後に僕とウィルはラストスパートを掛け、なけなしの力を声の限り叫ぶことによって絞り出した。
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
全てが闇に包まれた剣の刀身が完全に崩壊した瞬間、一軒家ほどの巨大な黒い塊――暴食は花が開くように散り散りに拡散していきながら、バラバラに砕け散った。その欠片一つ一つの大きさは僕を超える大きさもあれば、拳大程の大きさもある。が、しかし脅威は去ったと言えよう。
そして、巨大な障害物がバラバラになって事によって開いた隙間から、地に膝を着けているであろうベルーゼの姿を一瞥する。
「――――!?」
僕は予想していた。ベルーゼが驚愕している表情をしていると。何故ならばベルーゼからすれば、僕たちに暴食を退けられれば自身の敗北を意味することとなるからだ。
しかし、その予想は裏切られた。
――ベルーゼは
まるでまだ切り札は残っているかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます