第130話 流星
微かな隙間から覗くベルーゼの唇は間違いなく嗤っていた。その嗤いは自身の敗北に対しての自嘲的な物ではないと思えた。それにしてはやけに歪み過ぎている。
「…………」
では、その嗤いはどこから来るものなのだろうか。
僕はどうしてもその表情を見過ごすことは出来ないと思い、何故なのかを確認するために周囲を見渡し、自分たちが置かれている状況をしっかりと確認する。
目の前には大小様々に砕け散った暴食の欠片たち。それらは力を失ったかのようにその場にただただ浮かんでいた。丁度宇宙に浮かぶ星々のように。
「まさか……!!」
ベルーゼがしていた歪んだ顔は以前にも見たことがあった。僕にとっては非常に見慣れた表情だ。
それは、悪意を用いて他者を陥れるときのような嗤いだ。言い換えれば、嘲笑とも言えるだろう。向こうの世界で嫌と言うほど、逸らしてしまいたくなるほど向けられた純粋な悪意に塗れている|嗤顔(えがお)。
「……不合格だ」
ベルーゼと僕たちの距離は依然としてまだ程遠い。しかし、耳元で囁かれたようにはっきりと聞こえたその声は、僕たちの
そして、理解が及んだ瞬間、夜空に浮かぶ黒い星々は、一等星や六等星関係なく、僕たちに現実の厳しさと非情さを持って、その鋭く尖った牙を剥いてきた。
(――――)
ウィルからの反応は無い。
ウィルはここから出られる最小限の力を温存しなくてはいけないため、念話をする体力も今は惜しいのだろう。もしここで温存すべき力を使用してこの局面を辛うじて切り抜けられたとしても、どっちみちベルーゼが掌握しているこの世界に踏みとどまらなくてはいけないので、所詮は時間の引き延ばし程度にしかならない。
かといって満身創痍である僕が、この流星群を掻い潜ってベルーゼの元へと辿り着ける可能性は万に一つも無いだろう。
刀身さえも残っていない剣、満身創痍な僕、逃げるために力をこれ以上使えないウィル。
「――――」
絶望的な状況から諦めかけたその時、手に持っていた
すでに光を食われたことによって失った刀身はもちろん、鍔から握り、柄頭まで絶望のように真っ黒に染まった剣。暴食に触れていない今でもその崩壊は止まるところを知らない。
「――――」
しかし、確かに今光った。それはまるで絶望の中にも希望は存在していると言っているかのようだった。
「……これしか!!」
諦めかけていた身体に今一度力を込める。それに呼応するかのように剣は淡く、けれど確固たる光を取り戻していた。そして、僕はすでに鍔より下しか存在しない剣を振りかぶり、力の限り思い切り投げた。
「……け。と……どけ。届けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
光はまるで流れ星のようにベルーゼへと向かっていった。
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