第83話 魔鉱石

「上……?」


 ここにいる一同はウィルの予想外の返答に、ほんの僅かな時間で一度ならず二度も驚かせられ、呆気にとられるしか他なかった。


 一度目はウィルが語る魔鉱石の話の口ぶりからして、製造方法のイロハを知っていると思っていたのに、いざ蓋を開けてみたらイの字も知らなかったということ。


 二度目は造り方は知らないけど分かっている人なら知っていると言って、おもむろに人指し指を立て、若干斜めった上を指さしたこと。


「もしかしてもう亡くなっているとか……?」


 絶望と表するには少し大袈裟で、失望と言うには些か物足りないような、そんな様子を見せながらさくらは呟いた。


「いや、多分違うと思う」


 僕はさくらと同じ考えが一瞬だけ脳裏を過ぎったが、すぐさまある違和感を覚えた。


「――――」


 もう既にこの世から去っているとしたら、魔鉱石の製造方法のノウハウを乞うことは然ることながら、その人と相見あいまみえることさえいくら神様と親好があった大精霊のウィルと言えど、決して叶うことはないだろう。


 それは死という何人にも訪れる最期が神様が用意した人間、その他全生物における唯一にして何物にも変えられない無二の平等だからだ。

 ここで魔鉱石の事を知っている人と黄泉やあの世と呼ばれる類いの場所で僕たちの誰かを会わせてしまったら、そのたった一つの平等が崩れ去り、この世は文字通り理不尽と化してしまうだろう。


 死は神様たちでさえ軽んじてはならないのだ。


 なので、僕たちがその人と会うことは生きている内は決して無いと言えるだろう。


 そしてその人が亡くなっているとすると、ウィルが話したここまでの話は全て水泡に帰すこととなる。だから僕の頭を過ぎり、さくらが発した意見に違和を感じた。


「……もしかしてダンジョンの最上階?」


 こう思ったのには理由が二つある。


 まず初めに、ウィルは先ほど魔鉱石を作るには行程が七つ必要と言った。そのことからこの世界で七つと言うと、ダンジョンの数の事が連想できる。そう思った瞬間、ウィルは神様がこの地にダンジョンを創造した時、既にこの世で生を受けていたのでその場面に立ち会っていても何等おかしくはないと至った。それどころか大精霊として手伝っていたと考えても良いだろう。


 そして、神様たちはウィルから以前聞いた話からして、この世界に直接的な影響を及ぼすことが難しくなっている、もしくは完全に出来なくなっていると考えられるので、この世界における何らかの有事の際のために、それに対抗できるように強力な武具を作れる魔鉱石の造り方を残している可能性もある。


 次は、ウィルが指を指した方向の違和感だ。本当に天を指したかったのならば寸分の狂い無く真上を指すだろう。そのことに重ねてウィルが指した方向は確か街の中央方向、つまりダンジョンの方向と一致する。それを偶然の一致だとはとてもではないが考えられなかった。


 そうした理由から僕は、ダンジョンの最上階で待ち受けているボスの一柱一柱が、魔鉱石の造り方を一工程ずつ知っているのではないかと思ったのだが、


「大正解!つまり真冬くんはスキルを取りに、さくらちゃんとカイトくんは魔鉱石の造り方を知りにダンジョンを攻略すれば良いって事」


 ウィルは至っていつも通りで平常運転のあっけらかんとした声音でそうまとめた。

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