第80話 裏切り
フランさんを送るために冒険者ギルドを出てから30分ほどが経った頃、僕たちはようやくカイトの家に到着した。通常冒険者ギルドからカイトの家までは普通に歩けばそれほどかからないはずなのだが、そこまで遅れてしまったのは、偏に目に映った屋台が販売している食べ物に、みゃーこが舌鼓を打っていたからだ。
確かに屋台の食べ物はどれも美味しそうで、漂ってくる香りは食欲をそそるには十分過ぎる。それにこの世界では普通かもしれないが、地球産の僕からしたら祭りの時の出店と同じように感じるので、条件反射か嫌でも心は躍ってしまう。
だが、カイトの家ではさくらを筆頭に、ウィルやカイトが今も頑張ってるかも知れないと考えると、とてもじゃないが道草など食っている場合ではないと自制していたのだが、みゃーこが肩の上で暴れるものだから一店だけと許してしまったのがいけなかった。
(大丈夫にゃって)
みゃーこは僕の肩を肉球でポンポンと叩きながら、扉の前で尻込みしている僕が両手いっぱいに持っている袋を見下ろし、そう言った。
(そうだと良いんだけど……)
申し訳なさとこれから怒られるんだろうなと思うと自然と視線は下がり気味になり、身体もこころなしか重くなったように感じるのだが、これ以上待たせるのも如何なものなので、扉に手を掛け、一気に押し開けた。
「え……?」
気のせいか前に来たときよりもずっと重くなっている扉を開けた先に広がっていたのは、想像もしていなかった光景だった。
「ウィルちゃんいっぱい食べるねー」
「それはさくらの料理が美味しいからだよ!」
「そうだな、さくらの料理ならいくらでも食べられそうだ」
さくらとウィルとカイトがテーブルに並べられた豪勢な料理に舌鼓を打っていたのである。
「どういうこと……これ?」
脳が目の前で起きている事態に処理しきれずに思わず、といった感じで漏れてしまった言葉がそれである。
「あ、真冬おかえりー」
位置の角度的に扉の方を向いていたさくらが僕に気が付いて、これっぽっちも疲れなど見えない様子で声を掛けてきた。
あまりにも緊張感も疲労感も覗かせない様子のさくらに僕は思わず「ただいまー」と応えてしまってから、
「――ってそうじゃなくて!!この状況はどういうことなの!?」
この状況とは先述の通り、カイトの呪いを解くために残ったさくらとウィルの三者が、消耗など微塵も見せない様子で、あろうことかピクニックにでも来ているかと錯覚してしまう程の楽しそうな様子で、豪勢な食事を口に運んでいる状況のことだ。
僕が思っていたのは、呪いを解くのは非常に困難な魔法やその類いを使用しなければならなく、それを使ったさくらとウィル、それを受けたカイトが疲労困憊と言った様子で僕の帰りを待っていると予想していたのだが……。
「カイトの呪いはすぐに解けたんだよ」
と、僕が考えていた前提を180°裏切るような言葉がウィルによって放たれた。
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