第52話 翼
「それは“僕たち”に任せてよ!」
まるで鈴を転がしたような美麗な声がした方へ向くと、そこには綺麗な声に似つかわしい少女が佇立していた。
その少女の髪は、外から微かに差し込む太陽の光に照らされてるおかげか、純金よりも金色で,
何よりも美しく、金髪の元にある面貌は、幼い彼女の年齢相応の愛らしさに加えて、この先成長したら間違いなく、世の生きとし生ける全ての男を虜にしてしまうほどの美貌を持つであろうことが、約束されていると思わせられる佳麗さが際立っていた。
その少女――ウィルは、その課題を自分たちが請け負うと言い出したのだ。
「……任せて大丈夫なの?」
確かにウィルは格が高い精霊で、力もあると分かっているがどうやって……。
そう考えた時、ウィルがさっき言った“僕たち”という発言の意味に、少し遅ればせながら勘付いた。
ウィルは前にこう言っていた――精霊は実体が無い。それ故、力が十二分に出せないので、実体のある者に憑依し力を譲渡、もしくはウィル自身が発揮する。
つまり、今現在さくらとウィルは契約状態にあるので、さくらはウィルの力を十全に引き出すことが出来、更にそれに加えて、さくらの膨大なMP量を使うことで圧倒的な熱量を生み出すことが出来る、と言うことだろう。
「大船に乗ったつもりでいてよ!!」
「それじゃ、火力はウィルとさくらに任せるよ!泥船にだけはならないように」
真冬が珍しく軽口を叩くと、ウィルは任せろと言わんばかりの弾けた笑顔を見せ、真冬とカイト両者に多大な安心感をもたらした。ただ、カイトにはもう一つだけ懸念が取り残されていた。
「あのさ、そういえば俺…………魔物の素材の加工は出来ないんだが、どうすりゃ良いんだ……?」
カイトは顔を俯かせ重苦しい雰囲気を見せながら、テンションが盛り上がってしまったせいで何処か遠くに置いてけぼりにされていた、最大かつ最悪の難題について口にした。
――カイトがテーブルに乗せた素材の種類について、一切触れなかったから完全に失念していた。それに加えてカイトの作る武器は、ただのありふれた金属でさえ相当な出来だから、呪いのことは頭の片隅のほんの片隅に追いやっていたのも、理由の一端かもしれない。
魔物の素材と金属を比べた場合、硬度としてはほとんど大差無いのだが、素材の場合、最初から魔物の体内、もしくは体外にあるので、魔力が常時通っているため自ずと魔力の通しやすさ、帯びやすさが共に良くなっている。他にも魔物の種類に依存するが、加工次第で属性が付加させることが可能だったり、自動修復機能などなど付加可能なものは多種多彩にある。
それに対して金属の場合、種類と扱う人の腕によって元から帯びさせられる魔力量の限度は大体決まっており、追加できる機能も、多少切れ味が上がるとか気持ち刃こぼれし辛いなど、その効果は微々たるものになるので、結果、魔物の素材の方が性能の良い物が作れる、ということになる。
呪いに関して今まで素材のこだわりが無かったため、さして気にも留めていなかったが、無視していたツケがここになって大きな枷となってしまった事に、真冬とカイトは二の足を踏むことしか出来なく、思わず苦虫を噛み潰したような表情になる。
そんな二人を置き去りにして、ウィルは場に似つかわしくないあっけらかんとした声音と表情で、打開策を示す。
「僕なら簡単にその呪い解けるよー」
羽のような軽さでそう言ったウィルの言い様は、瓶の蓋が固くて開けられなく苦戦している人に、代わりにやるよと申し出るみたいで、魔物の素材が扱えないという鍛冶師として片翼を失っているような状態のカイトにとっては、それはあまりに間が抜けていてひどく簡単であった。
そのため呪いを受けている張本人のカイトは当たり前だが、立場的には第三者である真冬でさえウィルの言葉に返答を発せず、唖然とする他なかった。
「もしもーし。お二人さんー?」
金髪の少女はすらりと伸びている腕を可愛らしく懸命に振りながら、文字通り開いた口が塞がらないをそのまんま体現している二人を、現実に引き戻そうとする。
「「!!!」」
「やっと戻ってきたよ……。それで、どうするの?」
「ほ、本当に解けるのか……?」
ウィルの平然とした言葉とは全くと言って良いほど対照的に、カイトは重く、そして信じたいけど信じられない、といった様子で聞き返した。
カイトの反応は至極当然だろう。大半の人間は、喉から手が出る程までに欲している物が、急に目の前の手が届く位置に現れたら――これは罠ではないか?何かの間違いではないか?自分は夢の中ではないか?と言った様子で、心の中の暗鬼が邪魔をして、素直にそれに向かって手を伸ばすことが出来なくなってしまうだろう。
その傾向は、どれだけそれが欲しいか、どれほどの期間それを望んでいたかによって、顕著に表れるんではなかろうか。ことカイトに関して言うと、今までずっと自分を苦しめ続けている“呪い”が解呪出来るかもしれないとなると、易々と信じることが出来ないのは仕方あるまい。
「うん。君が望むのなら、ね」
ウィルの言葉にカイトの涙腺は堰を切ったように崩壊し、涙は止めどなく溢れその場で崩れ落ちてしまった。
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