第31話 さくらの決意
呆然自失としている状態のさくらに声をかけた瞬間、さくらは我に返ったようにハッとした後、逃げるようにどこかに向かって走り去ってしまった。
ただならぬ予感がし、咄嗟にさくらを追いかけようとベッドから立ち上がるために力を込めた瞬間、身体を縛り付けるような激痛が走る。
「――ッ!!!」
「真冬くんはまだ動けないでしょ。僕がさくらちゃんを追いかけるから、ここで休んでて」
確かに僕はまだ万全というにはほど遠いし、飛び出していったところでさくらとまともに会話できないどころか、追いつかないかもしれないことぐらい分かってる。分かってるけど、今回だけは僕じゃなきゃダメなんだ。僕が行かないと。だから――
「――待って!今回だけは、僕が行かないと!!」
真冬は痛む身体を押し切り懸命に精霊に向かって手を伸ばすが、その手は虚しくも空を切る。が、窓に手をかけた精霊は真冬の方に振り向き、深いため息をつく。
「はぁ、しょうがないな……。後遺症が残るかもしれないよ?それでも?」
大切な物はいつも気が付かないうちにどこからか零してしまう。そして無くした時にようやく人は気が付くんだ。だから無くさないように、離さないようにしないと。
「うん。それでも。今行かないと、一生後悔する気がする」
「分かったよ……」
【
「最低限度の回復はさせたから動けるようになるけど、無理はしないでね!それと僕もついて行くから」
「うん、ありがと!」
精霊とギルドの外に出て辺りを見渡したが、さくらがどこに行ったか皆目見当が付かない。よくあるドラマや映画のように、適当に走っても見つかることはない。
【
そう唱えた精霊を中心に、柔らかい光の波紋が円状に視界の限りどこまでも広がっていった。
「いた!こっち!!」
魔法の精度を上げるために目を瞑っていた精霊は、目を開いたかと思えば急に僕の手を引いて走り出した。向かった方向は紛れもなくダンジョンの方だった。
――まさか、さくらは自分が強くなればついて行けるって思ってる
全速力でダンジョンに入っていくと、魔石とドロップアイテムがまるで興味がないと言わんばかりに辺りそこら中に転がっていた。
おそらくこれらはさくらが倒していった魔物のもので、レベリングしか興味無いので放置、というところかな。
しかしこれだけの魔物を倒していたら――
「さくらは、ステータスが魔法寄りだから早くいかないと。MP切れになるかもしれない!」
「じゃあ、飛ばすよ!」
【
精霊が魔法を唱えると、緑の光に包まれた身体が重力に逆らうように地面から30cmほど離れ、そのまま進もうと意識すると前方へ進んでいった。
早さはステータスのAGIに依存しているらしく、それからは結構な早さで進めた。
魔法を使ってから5分ほど経過したとき、薄暗い先の方で爆発するのが見えた。
精霊はそれを見て、やけに慌てた声で言う。
「あれは
その言葉を聞き、焦りを隠すことなく全速力で、爆発が起こった場所へと急いだ。
間もなくその場所着くと大きな部屋になっていて、その中心には爆発を起こした張本人であろう人影が、今にも倒れそうな様子だった。
そして、その人影の周りには、数えきれないほどの魔物が中心にいる人物を殺さんとひしめき合っていた。
まるでいつかのモンスターハウスのようだ。
『『『『グギャアアアア』』』』
「――うるさい、消えろ」
真冬は、冷酷に淡々と死刑宣告をして、怒りを込めた剣を振るった。
さっきまでの騒がしい喧噪は静まり、部屋にはガラスが割れるような音と、誰かのすすり泣く声の、二つの音だけが響いていた。
「大丈夫?さくら」
「ごめんね、真冬。私、置いて行かれるのがたまらなく嫌だったの。弱いのが理由で置いて行かれるくらいなら、死ぬかもしれなくても強くなりたかったの」
さくらはいつもと同じように、泣きながらそんなことを言ってきた。
「わかった。じゃあ、さくらは僕が守るよ。君が僕を守ってくれたみたいに、今度は僕が君を守る」
さくらは僕と離れてしまうと何をするかわからない、と今回で分かった。だから、管理できるように近くにいさせたほうが安心だろうと考えたのだ。
「……お2人さん?良い雰囲気なところ悪いんだけど、実は僕に良い考えがあったんだよ」
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