第28話 殺し合い

「さあ、殺しあいをしようぜ」


 その言葉を放った途端、今までの攻めが生温く感じるほどの、まともに当たってしまえば軽く命が持って行かれるほどの攻撃を、絶え間なく放ってくる。

 そんな死神の一撃とも言える攻撃は、武器を使った斬撃や刺突だけではなく、蹴りや殴りなど、大柄な体格を生かした体術も織り交ぜながら、多種多様な技を繰り出してきている。


「――――」


 真冬は、濃密な死の臭いが漂う無数の攻撃に、無我夢中で対応していた。だが、完全には対処しきれず、真冬の身体には時間が経つに連れて切り傷や打撲痕が、指数関数的に増えていった。


 真冬のその様子を見たら百人が百人とも、なぜ生きている、と揃えて疑問を口にするだろう。もっとも誰もが目を逸らしてしまうほどの凄惨さから、見ていられる人は数少ないだろうが。


「おいおい、さっきの威勢はどこに行ったんだ?なあ?」


 ガンダは無防備に両腕を広げ煽るように言った。

 無防備と言っても決して油断や驕りは感じられず、全く隙の無い構えだった。


「……はぁ……はぁ」


 オークに続き、ガンダという強敵との連戦で、真冬は心身ともにボロボロだった。

 それでもさくらやフランさんに害が及ぶのを阻止するため、風前の灯のような気合いで辛うじて立っている。


「辛いだろ?苦しいだろ?――これで全て楽にしてやるよ!!!」


 もう駄目かと諦めたその瞬間――


完全回復パーフェクトヒール!!!!】


 身体全体に染み渡るような、聞き心地の良いさくらの魔法が聞こえてきた。


「え……?」


 綺麗なところを探すほうが困難だった真冬の肌は、見る見るうちに元通りに戻っていき、肉が見えるほどの深い裂傷や、紺色まで染まった打撲痕も綺麗な状態に戻っていた。

 そして、なぜか服も新品同様になっていた。


 傷が治っていくのを確認した後、声がした方向を見てみると、さくらとフランさん、そして白い猫――みゃーこが、そこにいた。


 なんでみゃーこが……?

 その疑問が出てくるのは、当然だった。気づいたらそばにいなくなっていたのに、まるで全部分かっていたかのようにここに現れたのだから。


 ――いや、今はガンダを倒すことに集中しなきゃ。


「ほぉー。なかなか魔法の才能あるじゃねーか、お前んところの彼女。だが、回復したぐらいで俺の勝てると思うなよ」


「回復だけじゃねーよ。今までの俺と同じだと思うなよ」


 そう言い、一歩踏み出した。


 ゆっくりと流れる景色の中で、一人だけ切り離されたような速度でガンダに近づいていく。

 

 それはまるで時の流れが遅くなったみたいだ。


 剣を一番力が入る上段へ持って行き、足を踏み込むと同時に首めがけて力いっぱい振り下ろす。


 これで終わりだ!!


 ――だが、そう問屋が卸さない。


 キィィィン


 緩慢とした時間の中でもガンダは迫りくる死に反応し、最適解で対応してみせた。


 通常の速さに戻ったそこからは、両者互角の鍔迫り合いになった。二人の持つ得物は刀ではないが。


「おいおい、急に早くなってるし、強くもなってるじゃねーか!変わったってのは、あながち間違いではなさそうだな」


 なんなんだ。あの小娘何しやがった。まさか、俺のステータスが下げられた?



 名前  ガンダ


 種族 人族


 グレード4

 レベル70


 HP 4500/4500

 MP 1000/1000

 STR 2865

 DEF 2497

 INT  150

 AGI 4240

 CHA 2003

 LUK 105


 スキル 危機察知Ⅱ 10/100 腕力強化Ⅲ 2/100 体術Ⅲ 17/100 剣術 40/100



 トップと言われる者たちは言葉にして唱えなくても、ステータスが分かるようになる。

 ガンダも盗賊ながらもそのトップの域に達していた。


 な、なに?何にも変わんねーじゃねーか。どういうことだよ!?


 ガンダは内心焦っていた。

 

 ――こんなまだ駆け出しの野郎に、強者の自分が圧されていることに。



 完璧に捉えたと思ったのに、何で反応できんだよ。


 同じく真冬も、顔には出していないが焦っていた。


 剣に入り込んでいる精霊によると、ガンダ――強敵との戦いによって真冬はグレードアップを果たし、AGIのステータスは4000を超えたらしい。

 だが、それなのにまだガンダが反応できていること、つまりまだステータスに差が無いことに。


(僕に良い考えがある。今の真冬くんならきっと出来ると思う!)


(何をすれば良いんだ?)


(それはね、――)



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 おもしろいと思っていただけたら、ブクマと評価お願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る