遊戦記 -サバゲー・ライフ-
陰木 陽介
プロローグ
人類が進化の道を辿る中で、様々な問題を抱える国々が数多く出てきた。
環境汚染や貧困問題……
それらももちろん問題であり、それ以外にも国柄や人種などによって独自に問題が発生していった訳だが、特に人間同士の主張の違いによる
個人ですら、時として命に関わるものが、それが集団となった時にどれだけの大きな争いとなるか……
その最たる現象が、戦争だ。
日々、繰り返される無秩序な暴力、それによって多くの命が失われていく……
それは戦争に直接参加した者ばかりではなく、無関係の国民にも及ぶ。
戦争を世界中から無くす事……それは、人類の存亡に関わる重大な課題の1つだった。
戦争が無い国も、戦争当事国からの過激なテロ行為の脅威に怯えさせられる事も少なくなかった。
平和を目指す国々の長達は、顔を合わせてはお互いの認識や見解から解決策を模索したり提案してはいくが、これらも互いの合意に結び付く事がなく、無意味に時間だけが過ぎていった……
そんな中、2030年……
史上類を見ない協約、〔WEE《ウィー》協約〕なるものが全世界、各国の合意にて締結される。
事の発端は協約締結の数年程前……
とある国の首相が、インタビューを受けていた時に話したこんな内容によるものだった……
「戦争なんて無益なものより、もっと楽しい事に目を向ければ良いのにと私は思うよ! いっそのこと、何か命に関わらない別のものに取って変われば最高だと思わないかね? 例えばサバゲーとか……私も楽しんでやってるよ! この前なんて私が狙いを定めたら完璧にヒットが取れて……」
……この言葉は公務中ではなく、この首相がバカンスを楽しんで気持ちが楽になっていた時にたまたま聞き取られたものである。
これが公にされた当時、戦争を軽視し、人命を貶める不謹慎な発言であるとして、この首相はその座を追われる事となってしまう。
この首相も戦争を軽く見ていた訳ではなく、重い雰囲気になりかけるのを和やかにさせる冗談の意味で言ったつもりだった。
聞いていた国民はもちろん、話した首相自身ですら、それを本気で捉えてはいなかった。
しかし……
事態は思わぬ方向に進む事となる。
その発言からしばらくしての事、戦争当事国から驚くべき申し出、その第一声が全世界に向けて発信される。
「我々は、我々が保有する兵器を縮小させる事を宣言する!」
との事。
詳しく聞き取ると、サバイバルゲームを全世界共通の公式競技として引き上げ、名声や富に繋がるようにする事を条件に、防衛程度の規模にまで兵器を縮小させ、能動的に戦を仕掛けなくするというものだった。
いきなりの申し出に戸惑いを見せる各国を余所に、戦争当事国の多くがその宣言を証明するかのように、先駆けて自国の保有する兵器を少しずつ放棄していく。
この状況を引き起こした原因が、かつて戦争をサバイバルゲームに変えればいいと話していた首相の言葉によるものだというのは想像に難くないが、それにしてもあまりの急展開に他の国々でも様々な憶測が飛び交っていた。
しかし、時を経て日に日に友好的に接するようになってきた元戦争当事国の対応に、他国も徐々に理解を見せ始める。
何より、戦争が鎮静化した事でそれによる命の喪失の脅威が無くなった事が大きい。
そして同時に、それらの国々の誠意を汲むようにして条件を受け入れ、その実現化に世界中が取り組む事となる。
それこそが、サバイバルゲームの公式化。
WEE協約とは、wars exchange end という単語から作られたものとされる。
直訳的にこの協約の意味を説明するなら、〔戦争を差し換えて終結させるための協約〕という事になる。
すなわち、戦争をサバイバルゲームに差し換えるための協約なのだった。
サバイバルゲームを世界的な公式競技として世に広く浸透させる事となったWEE協約締結以降、サバイバルゲームの公式化に伴い、まずWSG(世界サバイバルゲーム)競技連盟なるものが発足し、世界基準となる厳正なルールの制定に始まり、各種施設の拡充や競技専用の設備開発が進んでいく。
そして政権が掲げる政策に、平和利用という名目でサバイバルゲーム関連の予算を組んだ国が多く見受けられた。
最初こそ、人命軽視の認識のために反発する国民もいたが、実際に兵器を放棄して戦争が縮小していく現状と、それ自体がストレス発散の形になってきた事で他の犯罪の発生率を抑制しているというデータまで出てきた。
様々な現象が国レベルでの認知度となり、以前から人気を博していたサバイバルゲームが更なる広まりを見せ、ほとんどの国でサバイバルゲーム関連の設備や製品が普及、充実するに至り、遂には世界サバイバルゲーム選手権、通称WSGC(World SurvivalGame Championship)という形で、オリンピックにも匹敵する程の存在感を持つまでになっていったのだった。
※ ※ ※ ※
協約締結から30年後の2060年……
とある1人の転校生が、埼玉に建てられた特に有名とも言えない私立
本来、1つ1つでは噛み合わない運命の歯車というものは案外、こうしたところから起点となる事もある。
その運命というのは、思っていた以上に巨大な流れを持っている可能性だってある。
もっとも……当然ながら、そうした未来の可能性の話など、当の本人達ですら、知る由もないのである……
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