139話 再会と再会と再会 後編
「凄い偶然だよね! まさかこんな場所でまた会えるなんて!」
「元気してたかよてめぇ! まったくなんでこんなところにいやがるんだ」
まさか……こんなサプライズがあるとは思わなかった。
今私の目の前にいる二人、カロフとリィナは私がアステリムに降り立ってから親身に世話を焼いてもらった人物だ。
彼らと出会った地……ここから遠く離れた第三大陸のとある国で起きた新魔族がらみの事件を力を合わせて解決したこともある。
もうあれから数か月は過ぎている。あの国も情勢が落ち着いてきた頃合いだとは思っていたが、まさかこんなところで出会うとはまるで予想外だった。
「おいおいおい、どういうことだ。こんな展開は流石の私でもびっくりするぞ。それにカロフ、お前のその恰好は……」
嫌でも目に付く二人の姿。リィナは以前と変わらない騎士鎧……いや、あの頃より少々手直しされて綺麗になっているか。
そしてカロフ……以前は私が着ているのと同じような平凡な服装だったのに、今はリィナや他の騎士団と同様銀色の鎧を身に着けている。
つまり、これが意味することとは……。
「ふっ、どうだ。お前が旅立ってから俺にもいろいろあってな……」
「カロフ……騎士の真似事なんてしてみっともないぞ。憧れるのは良いがそういうのは心の中で留めておけ……。年齢的にはお前も立派な大人なんだし、その病気を発症させるのは数年前までにだな……」
「真 似 じゃ ねぇ よ こらぁ……!」
私の頭がカロフのグーにした拳に挟まれて持ち上がる。そしてそのままグリグリと手首を捻られ……。
「ぬあああああ!? ギブギブ! 冗談だ冗談!」
「ちょっとカロフ、その辺にしてあげなよ」
「わあったよ」
リィナの一言でまるで万力のような締め付けからようやく逃れられた。脳みそがぶちまけるところだったぜ……。
相変わらずの馬鹿力だ。……まぁ最初は本当にコスプレでもしてんのか? って思っちゃったからその罰としてこの痛みは受け入れておこう。
「聞いてムゲン君。信じられないかもしれないけど、あれからカロフは正式に騎士として任命されたの。それに今では私の部隊の副隊長なんだよ。まだがさつで不作法なところがあるけど、爵位も与えられて頑張ってるんだから」
「ほえー、にわかには信じがたいがそいつは凄いな。猪突猛進で直情的だったカロフがそこまで……。凄いじゃないか、大出世だ」
「お前ら俺を貶してんのか褒めてんのかハッキリしろや……」
しかしまぁ二人とも性格は全然変わってなくて安心した。
最初に出会った頃はあんなにギクシャクしてたのに……この様子ならどうやら何も心配いらないようだな。
「ワウーン……(いやしかしお二人とも久しぶりっすねぇ。ぼくはあの時はまだご主人と意思疎通が出来なかったから感慨深いものがあるっすよ……)」
そういえば犬と会話できるようになったのは第三大陸から離れる際にドラゴスから使い魔術式を貰ってからだったからだったな。
「あ、犬君だ! ほら、こっちおいで!」
「ワウ(了解っす)」
「うわー、このモフモフ……久しぶりだなぁ」
リィナのモフモフ好きも相変わらずか。
こうしてまた再会できたのだから私もいろいろと思い出話に花を咲かせたいところだが……残念なことに今はそうも言ってられない状況なんだよな。
「てかお前はなんでこんなところにいるんだよ? あれから元の世界に帰るアテとやらは見つかったのか?」
「ああ、そのことなんだが……」
私は簡潔にこれまでの出来事を話し、今現在通行証がなくて足止めを食らってしまっていることを説明した。
「……なんつーか、半端ねぇな。俺も騎士になってからいろいろあったが、レベルが違げぇ」
「でも、今は魔導師ギルドに所属してるんだ。よかったね」
まぁ所属する前にも後にもいろいろあったけどな。そこの説明は面倒くさいので割愛させてもらったが。
「しかしそれならあれだ、俺らについてくりゃいいんじゃねぇか?」
「ん、どういう意味だ?」
いきなりのカロフの提案だがどういうことかわからない。ついてくる……とは?
「だから、俺らは部隊一括りでの通行証を持ってるから、ムゲンも一緒にくっついてくりゃいいだけだぜ」
「え、アリなのかそれ?」
「ちょ、ちょっとカロフ。それは確かにできなくはないと思うけど……ヘタしたら密入国扱いになっちゃうよ。それに帰りはどうするの、今ではムゲン君にも立場があるし、最後まで一緒ってわけにはいかないでしょ」
「そんときゃ……ほれ、中でお偉いさんに別の通行証を作ってもらうとかよ」
「もう、無茶苦茶言わないでよ……」
……いや、確かに無茶苦茶だが案外悪くない案かもしれない。
私の最終目的はあくまでも新魔族……第六大陸へ向かうことだ。もしかしたら出ることに関しては深く考えないでもいい可能性がある。
まぁ今回の依頼主は帝国の皇子という話だし、もしかしたらうまい事話が通じる人物の可能性があるかもしれない。
「よーしカロフ、その案乗ったぞ」
「よっしゃ、決まりだな」
「ええ……!? あーもう、二人が揃うとホント調子狂わされるなぁもう。……でも仕方ないか」
悪いなリィナ。本当は隊長としての責任とかいろいろあるだろうから大変だろうけど、こちらも手段を選んでる場合じゃないんでな。
しかし、こうして私はアレス王国騎士団の一員としてなんとかヴォリンレクス帝国へと入国することができた。
それから、都市に到着するまでカロフ達がどうしてこの国にやってきたのかを聞いてみると、これまたびっくり!
「私達はヴォリンレクスの皇子様が新魔族との戦闘のために戦力を集めてるから、その手助けに来たの」
なんと、私が魔導師ギルドで受けた依頼の内容とほぼ一緒だったのだ。
依頼者の皇子サマは手当たり次第に戦力を集めているという噂は聞いてはいたが……。
「私達の国は小さな大陸の小さな国の一つだから、少しでも大国に恩を売って後ろ盾になってもらいたいっていう考えなの」
「でもなんでそれでリィナ達の部隊が来ることになったんだ?」
「俺とリィナが新魔族を退けたことがあるって情報を送ったら『ぜひともお願いしたい!』と一発採用だったらしいぜ」
なるほど、私と共にアリスティウスを撃退した時のことだな。
つまり履歴書に『新魔族との戦闘経験あります』と書いたようなものか。確かに経験者ってのは貴重だからな。
あの時の出来事があったから私はまたこうして二人に出会えたってことか、人の因果ってのはまったく不思議なところで繋がってるよな。
それからいろんな話を聞いた。
どうやってカロフが騎士になったのかとか、あれ以来隣国とは問題なく友好的になったことや、お姫様がいろいろ面倒ごとを起こしてるだとか。
などなど、私がいなくなってからもいろいろあったようだ。
さて、そうこうしてる間に目的地に到着したようだ。
「ここが……この国の王都か」
これは……今まで訪れたどの国ともまったく違う。
大国だけあって広大で人の往来も多いのは言うまでもないのだが、決定的に雰囲気が別格だ。
どこか重苦しい空気とピリピリとした人の視線、そこかしこから立ち上る黒い煙がどこか殺伐とした街の雰囲気をさらに引き立てている。
「煙は武具屋から立ち上っているのか、それにしても多いな」
「えーっと、確か軍事レベルが随一で、大量生産品や新型の武器なんかもここから多く出回ってるんだっけか」
「ええ、それにあそこを見て」
リィナが指さす方向を見ると、そこには一つの武具屋の奥で絶えず武装の生産が行われている。
そしてそれを生産している人物は……。
「ドワーフ族か……それも一人じゃない」
「あっちの店にもいるぜ。……けどよ、なんか様子がおかしくねぇか?」
確かにカロフの言う通りちょっと様子が変だ。誰もかれも休む間もなく動き続け、フラフラとおぼつかない足取りでもその動きを止めようとしない。
それに、どのドワーフにも首元に黒い鉄の首輪と鎖が見える。あれは、どこかで見たことのあるような……。
「この国のドワーフ族は……その大半が奴隷なの」
そうか、どこかで見たことのあると思ったら、第二大陸で奴隷にされていた者達が着けていた首輪によく似ているものだった。
「おいおい奴隷だと。この国は他種族狩りをする人族主義の国だってのか!?」
カロフが怒りをあらわにする。まぁカロフはそういう人間にいい気はしないだろうな。
カロフの父親が亡くなったのは、欲にまみれた人族主義の人間が新魔族と共謀して罠にハメたことが原因だったはず。
「カロフ、ちゃんと最近の歴史もお勉強もしないと駄目よ。あの奴隷達は6年近く前に戦争で負けたドワーフ族の国の人達。この帝国繁栄の際に吸収されたの。一応、正式な奴隷として認可されてるの」
そういえば私もどこかで聞いたことがあるぞ、ドワーフ族の国が大国に吸収されたという話。
……あれは、どこだったか。
「ワウ!(あ、ぼく思い出したっす! ミーコちゃんっすよ!)」
「ああ、そういえば!」
第四大陸で出会った日本から来た異世界人……星夜。その連れであるドワーフ族の少女ミーコは、元々は戦争に負けた国のお姫様だったとか……。
滅んだのが6年前で星夜が召喚されたのが5年前だから、年代もちょうど一致する。
「ぬぐぐ、奴隷は気に食わねぇけどちゃんとした理由があるならかみ砕いてやる」
「カロフはもうちょっと世界について学ばないとね。……それじゃあムゲン君、私達はこっちに寄るから、また後で会いましょう」
どうやら話してる間に目的の場所に着いたらしい。
これは……役所のようなものか。
「お前の要件はまずそっちだろ。ま、後で遊びに行くから待ってろや。魔導師ギルドってのも一回見てみてぇからよ」
そう言ってカロフが指差したのは役所の隣。……なんと、魔導師ギルドの支部だった。
そうだった、私も名目上は依頼を受けに来たのだからどこかで手続きせねばならないだろう。
「そうだな、それじゃあまた後で会おう」
こうして私は一旦カロフ達と別れ、魔導師ギルド支部へと向かうのだった。
「うっし手続き完了」
手続き自体はとても簡単なものだった。なんでも正式な内容は後日に集められて行われるらしく、今は自由時間だ。
少々退屈だな……。
(さーて、カロフ達が来るまで適当に支部の中でも見るか……)
「あれ? そこにいるのはもしかして……師匠ですか!」
おや、どこかで聞き覚えのある声が私に向けて喋りかけてきた。
そして、この世界で私のことを師匠と呼ぶ人間は一人しかいない。
「おお、レオンじゃないか。それにエリーゼとシリカも一緒か」
「どうも、ムゲンさん」
「そちらも変わり無いようですわね」
そういえば私が第五大陸に向かう前にこいつらも何か依頼を受けていたが……そうか、同じものだったか。
「あ、じゃあ師匠はもう以前の依頼は終わらせたんですね。流石師匠です」
流石です……か、そう言ってくれるのはお前だけだよレオン。どこ行っても微妙な扱いだし……持ち上げてくれるのは前世の仲間かちょっと変な奴らだけだし。
「あの、ムゲンさん。それなら寮に戻ってセフィラさんには会ったんですか? 一人で寂しい思いをさせてしまったと思うんですけど……」
「ぐっ……」
あーもう、忘れかけてた時にこれだよ……。
しかしこいつらにはセフィラの真実を今伝えるべきではないのかもしれない……。ギルド本部であいつの正体が暴露されてしまった今、いずれは噂から知られてしまうことかもしれないが。
「あいつは……帰ったよ」
「そうですか……残念です」
曇るシリカの顔見ると、どうしても罪悪感がぬぐい切れん。……やはりここは本当のことを話すべきだろう。
「すまん、少し嘘をついた。帰ったというのは本当だ……しかし、シント王国の女神政権の神殿へ……と付け加えなければならないが」
「え……」
「ど、どういう意味ですか師匠!?」
取り乱すのは分かっていた、皆女神政権にはいい思い出がないからな……シリカは特に……。
「セフィラは……女神政権の重要人物だった。とある目的で私に近づいたんだ」
「そういうことでしたの。ムゲンさんが女性に言い寄られるなんて変だと思いましたわ」
「おいこら」
ちょっとエリーゼの失礼な発言に物申したいところではあるが、今は置いておこう。
そうでなくとも誰もが困惑する内容だ。皆この事実にどう反応していいのか分からなくなっている。
女神政権の人間であるとういうことを黙っていたことに対して怒るべきなのか、それとも少しの間でも楽しく共に過ごしたセフィラという人物を信ずるべきなのか……。
「……皆、あいつに対して思うところはあるだろうけど……きっと、お前達と楽しく過ごしていたのはセフィラの本心だ。だから、難しいかもしれないけども……あいつを許してやってくれ」
どうして私はセフィラのためにこんなに真剣になっているのだろうか……。いや、多分その答えを私はもう持っている。
きっと、あの夜にあいつの本当の想いと向き合えたからだ。馬鹿で抜けているが、心から嫌いになれない奴だとわかったからだ。
だから皆にも、セフィラのことを嫌いにならないでほしいと願っているんだ。
「ムゲンさん……私は、女神政権の人間は許せません」
冷たく発せられたシリカの一声。その表情は真剣そのもので、どこか決意めいたものも感じる。
「でも……セフィラさんがもう一度、女神政権とか関係なしに話したいと言ってくれるなら……私はそれに向き合いたいです」
「……そうか」
まっすぐと、曇りのないまなざしでそう語る瞳には、迷いなど微塵も感じさせなかった。
それは、シリカの成長の証なのかもしれない。いつまでも兄の背中に隠れることしかできなかった彼女が、今はしっかりと相手の前に立つことができる。たとえそれが誰であろうと。
「僕も、もう一度会って話したいです。もちろん女神政権とかそういういざこざはなしで」
「わたくしは一言文句を言わせてもらいますわ。仲良くできるかはそれからですわ」
レオンとエリーゼは変わらないな。だがこれでいい……これでもしセフィラが遠慮して逃げ出すようなら引っ張ってでも目の前に引きずり出してやろう。
そんな日が……来ればいいんだが……。
ま、とにかく現状は変えられない。今はやるべきことをやるんだ。
気持ちを切り替えていこうじゃないか。
「さて、しかしお前らがいるとなると……今回は協力して任務にあたることになるのか」
「あ、いえ師匠……実は僕達もう……」
ゴトッ……!
レオンとの会話が突然の物音によって中断される。
その音の正体は、役所で手続きを終えたであろうリィナが、手荷物を力なく落とし呆然とこちらを見ていたから。
そして……その時……私の中で……すべてが繋がった。
(……ん? カロフ……リィナ……そして、レオン。……あああああ!!)
そうだ、そうだった、忘れてた! せっかくカロフとリィナの二人に奇跡的に再会できたのだから、その時にレオンのことについても説明しておくべきだった。
「うそ……本当に、レオン君……なの?」
リィナがその瞳から涙を流しながらゆっくりと近づいてくる。
「リィナ……姉ぇ?」
奇跡の再会は、一度や二度では済まなかった。
レオンはまだ何が起きているのかまだ理解できておらず、呆然と立ち尽くしている。
リィナは再開の現実を嚙みしめるかのように一歩ずつ近づき……。
そして……その後ろでは……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
すべての事態を察した魔狼が鬼のような形相でこちらに視線を向けていた。
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