96話 ガラクタ山でお宝探し?
「さてと……どこから手を付けたもんか」
「ワウ……(この量、手探りで調べてたらとても今日中には終わらないっすよ……)」
私達の目の前にある大量のガラクタ……もとい異世界からの転移物が山のように積まれていた。
まぁ、ここに数百年分の歴史が積み込まれていると考えるとこんなもんだろうと納得はいくな。
「モノは大小様々だな。ケントの言う通り日本の雑誌や電子機器……
他にも洗剤等の生活用品や子供向けヒーローアニメのおもちゃの剣もある……容器には穴が空き、おもちゃは破損が酷いが。
あと、未開封のポテト○ップスの袋のようなものも見えるがあれは開けていいものだろうか……。
「ワウ(こんなに無差別に召喚されるって凄いっすねぇ……)」
「いや、そう無差別でもなさそうだぞ」
ざっと見てわかったことだが、このガラクタ山に存在しているほとんどが日本で見たことがあるようなものばかりだ。
しかも、どれも私が知っているものということは、そのほとんどが近い年代から召喚されたものだということ。
つまりだ、セフィラの召喚の力は日本の……それも私と同じ世代の人やものを対象にしている。
星夜やケントが日本にいた時代も私とそう変わらないようだったしな。
意図的なのか、その時代と場所にしか力に適応できる人間……もしくは生物がいないのかハッキリとはわからないがな。
「しかし裏を返せば、もし同じような原理で転移できるのなら力のベクトルを反転させられれば……いやここらのガラクタを基準として過去を辿りもし時空を超える作用が働くのならそこを調べて……しかしそうなると問題なのは私の魔力ではなく周囲を整えるマナの計算式をそれこそ気の遠くなる作業が必要かもしれない……ブツブツ」
「ワウウ……(ごしゅじーん、帰ってきてくださいっすー……)」
「……しかし実際に世界間移動の原理は存在するわけだから……と。スマンな犬、ちょっと難しい考え事をしてた」
前世からの悪い癖だな、知らない現象、新しい原理を考えるとすぐに思考が早くなってしまう。
それでも周囲の状況は把握しているし声も耳に入るので呼ばれれば戻ってくることはできるが。
「ワウワウ?(それで、何か浮かんだんすか?)」
「いくつか考案はあるが……今の私ではどれも現実的ではないな」
セフィラの転移能力を調べ、ここのガラクタを元に環境を整えられれば実験もできそうだが……。
まずセフィラからはいどうぞと調べさせてはもらえないだろう。
それにもしわかったとしても空間を超える大実験など、それこそ一回行うのに何十……もしくは何百という時間がいるだろう。
なので、残念ながらこの案はボツだ。
「あと今調べられることと言ったら……この中から魔力を帯びたものをいくつか調べるくらいか」
「ワウ?(魔力があるんすか? ご主人のスマホみたいに?)」
「いや、スマホのように貯蔵されているのではなく、ただ単純に魔力が付着しているだけだ」
私の持つスマホのように電子機器ならばあるいは魔力を溜め込めるかもしれないが、目に見える範囲ではそのようなものは見当たらない。
しかし普通の物質が外部に魔力を付着させることはまず無い……。
これも召喚の影響か? 召喚時に適性のある生物の身体能力や魔力量が大きくなるだけでなく、無機物も同じように影響を受けることもある……かもな。
だがこれらはすべて仮説に過ぎない、それらは後で考えることにして今は調査だ。
「とりあえず仕分けからするか、『
まずはガラクタ達を浮遊させ一つひとつ確かめる。
そして魔力を帯びたものをこちらに引き寄せ、他はそのまま元のゴミ山へと戻す。
「残ったのはこいつらか……」
漫画の単行本が一冊、ノートパソコン、炊飯器、25メートル程のLED電球。
大きい物では
「ワン(見事に用途がバラバラっすね)」
「しかも見たところ本当にただ魔力が付着しているだけのようだな……。はぁ、無駄足だったか」
それにこの中に私が有用できそうなものもなさそうだし……いや、ノートパソコンは少々気になるな。
どうにか許可を貰ってあれだけゆっくり使わせてもらいたいな。
とにかく、ここにあるものは本当にただの召喚に失敗したガラクタばかりということだ。
「ワウ……(残念っす……)」
「まぁ大きな期待はしてなかったし、こんなところだろう」
これでギルドの仕事で残るは『世界樹』の調査だけだ。
そちらもあまり期待はしていないがな。
「ま、今日は他にも気になる点はいろいろ見つけたし、滞在中にひっそりと調べますかね」
「ワン?(ん、なんすか気になる点って?)」
「さーて今日はもう疲れたし用意してもらった部屋でねるか。祭りも楽しみだなー」
「ワ、ワウ?(え、ちょ、なんではぐらかすんすか?)」
それは君が知らなくていいことだからだよ。
てなわけで今日の調査はお終い!
しかし今日までいろいろあって本当に疲れた……久々の大きな風呂とフカフカベットでゆっくりと疲れを癒やさせてもらおうじゃないか。
-----
その日は、久々に前世の夢を見た。
まだ本当の仲間と呼べる存在がドラゴスのみだった頃、ガロウズにしつこく勝負を挑まれた頃だ。
ガロウズが鬱陶しく、なんとか奴の注意を別に反らして別の大陸へ逃げることに成功した私はそこで一つの廃村を訪れた。
「酷い有様だ……。本当にこんな場所で休憩するのかインフィニティ?」
「ああ、少しでも雨風をしのげる……体力の奪われない寝床ならどこでも構わん」
長寿の魔法は睡眠欲と食欲を大幅に減衰させ長時間必要としなくても良くなるが、まったく必要ないということはない。
この時はかなり体力を消耗していたため早く休みたかったのだ。
しかし、村の土の家を訪ねても誰ひとりとして私達を受け入れる者はいなかった。
それもそのはず、この村は戦いに負けた国の難民が集った場所。
その時代の第四大陸では、その劣悪な環境から作物が育たず、家畜を魔物に襲われ多くの国が貧困に陥いっていた。
少ない資源を国同士が奪い合う、その結果の果てにこうして放置された廃村が出来上がる。
「悪いが他をあたってくれ……」
私は別に馬小屋のような場所でも構わないと話すが、それでも彼らが首を縦に振ることはない。
皆自分の領域に踏み込まれることを恐れている。
隣人をも警戒している彼らがどうして私を受け入れることができようか。
最後の家も空振りに終わり、諦めて今夜も野宿を決意しようとすると……私を拒絶した家の主人が「……この道の先にある教会で、この近辺では珍しく人を受け入れる変わった女がいるよ」と話してくれた。
「あら、いらっしゃい。本日はどうなさいましたか?」
そこにいた女性はこの大陸の貧困など忘れさせるようなほどの笑顔で私達を受け入れてくれた。
余所者の私や龍族であるドラゴスにもまったく態度を変えること無く接してくれた。
今思えば、彼女に優しくしてもらっていた時のドラゴスはやけに戸惑っていた。
転生した今の私なら、あの時のドラゴスの気持ちを理解できる。きっと一目惚れだったんだろう……。
そんな不思議な魅力を持つ彼女の住む教会で一晩明かす際、かすかな魔力を感じた先にふと目に入った一本の苗木。
それは祭壇にまるで祀るように置かれており、それが気になった私は彼女に聞いてみると……。
「これは、この大陸の希望であり、大切なわたしの子なんです」
最初はその意味がわからなかった。
五百年近く生きていてもこの頃の私はまだ未熟だった。
(あの時彼女の正体に気づいていれば何か変わったのだろうか?)
今となってはそれは誰にもわからない。
あのあと私が村を出発した後にその場所が戦場に巻き込まれてしまったと知った時にはもう手遅れだったのだから。
そして……その戦いに巻き込まれた彼女は助からない重症を負いながらも懸命にあの苗木を守っていた。
「どうか……どうかこの子を守ってあげてください……」
そして残ったのは、ドラゴスの寂しそうな顔と託された一本の苗木……。
「お前の母から……お前を頼むと託されたよ。私の名はインフィニティだ、などと言ってもわからないか……ん?」
苗木相手に何をバカなことをしているんだと思っていたが、そこから感じる魔力が次第に大きくなるのを感じ……その次の瞬間。
「インフィニティ……インフィ、イン……うん! インくん! よろしくね、インくん!」
突如目の前に現れた人語を解する幼き精霊。
後に私の大事な仲間の一人となる彼女との出会い。
そのシーンを最後に、眩しい光と共に意識がフェードアウトしてゆく。
(本日はこんなところ……ってか? でも、あの頃の同じ場所であるこの大陸であいつとの出会いを夢に見るなんてな)
そこに何か意味があるのだろうかと考えようとするが、それらはすべて覚醒する私の意識によってかき消されていった。
-----
「……朝か」
久しぶりに快適な睡眠を満喫したおかげか、なんだか懐かしい夢を見れた気がする。
あれはまだドラゴスと共に故郷を離れて百年いくかいかないかといった時期だったな。
「あの頃は私もまだまだ未熟だったからな~」
引きこもっていた期間が長かったせいであの頃は人の魔力の感知に疎かった。
だからあの教会にいた彼女が精霊族だとは気づきもしなかったわけだ。
人語を解する高位な精霊族、それがわかっていればあの日彼女が大切に守っていたものが重要な存在だと気づけたかもしれない……。
「ま、今更前世のことなんて後悔しても意味は無いけどな。ほれ犬、メシ行くぞ」
「ワフゥ……(了解っす~……)」
そんなこんなで私はまだ寝ぼけている犬を連れ、このただっ広い城で厨房を目指す……はずだったのだが。
「どこだここ?」
「ワウ!?(いやなんで迷子になってるんすか!?)」
いやなんとなく昨日の記憶を頼りに歩いていたんだが。
食堂や厨房の場所は把握していなかったから完全に勘で動いていた。
「素直に聞くか[map]を使うべきだったか……」
というかここはどこだ?
廊下からは外へ続いており庭のような造りになっている。
奥のほうにはそれよりも広い空間があるように見えるな。
キィン……カァン……
「ワン?(何の音っすかねぇ?)」
何か金属のようなものがぶつかり合う音にも聞こえる。
まぁどうやら人がいるようだし向かってみるか。
見たところここは兵士達の修練場といったところか。
おや? あそこにいるのは……。
「でやぁ!」
「ふっ!」
修練場の中心を見ると、激しくぶつかり合う男が二人……星夜とケントだ。
端にはミーコとケントのハーレム三人がその戦いを見学している。
「あら、ムゲンさん。おはようございます」
クレアが私に気づきそのまま皆と挨拶を交わす。
「おはよう皆。……えっと、これは一体どういう状況なんだ?」
「いやね、朝早くに星夜殿達が食事をどこで摂ればいいか聞いてきたのはいいんだけど……ケントが突然「朝食の前に一汗掻かないか、お前の実力を見てみたいんだ」と言い出してな」
私の疑問にリネリカが丁寧に説明してくれる。
なるほどね、それでこの状況ってことか……まぁケントの気持ちもわからなくはないな。
同時期に召喚された同じ異世界人、それに女神の力の影響を受けている者同士の力を見てみたいっていうのはな。
「けど星夜もよく了承したな」
「あちらさんは泊めてもらわせてるからって快く引き受けたよ」
まぁ今私達がここに泊まっていられるのはケントのおかげとも言えるからな。
星夜も律儀なことで。
ともあれ私もこの対戦カードは興味がある。
どうやら状況は拮抗しているようで、どちらも決め手に欠けているようだ。
「やるな星夜! 俺の『
ケントの背中からは光を纏った翼が生えており、それによってかなり機動力を底上げしている。
見たところ光属性の魔術、かなりのスピードだが小回りに少々難がありそうだ。
犬の『
しかしこちらはどうやら持続力があり飛翔も可能……性能の違いはいくつか見受けられる。
さらに違いを述べるならその力を内部に閉じ込めるか外部に放出するかの違いもあり、それによって属性も……。
「お、ケントくんが仕掛けるよ」
っと、解説に夢中になりすぎていた。
私も戦いを鑑賞しなければ。
「いくぜ! 俺の剣よ、輝け! 『
上昇したケントが魔術を発動すると、掲げた剣に魔力が集いそれはやがて大きな一本の光の剣と化した。
「少々……いやかなりデカいなあれは」
「あれがケントくんの必殺技だよ。大きな魔物もあれでズバズバ切り裂いちゃうんだ」
あれから感じるのは物凄い熱量が高速で流動しているということ。
それによってどんな獲物もバターのように切り裂けるだろうし、避けても余波だけで相当な攻撃に変わるだろう。
さらに、おそらくあの魔術は魔力を込めた分だけ大きくなる……あの大きさを見るに、ケントもかなりの魔力を有している。
流石は異世界人ってとこか。
「さあ星夜、お前にこの一撃……受けきることができるか!」
というか模擬戦でそれってやり過ぎじゃね……。
「そんな顔しなくても大丈夫、ケントはキチンと手加減できるし、本当にやばかったらアタシ達も止めに入るから」
まぁいざとなれば私も一緒に止められるからそこはいいか。
それよりも、あの大技に対して星夜がどう出るか……。
「今まで何度か魔術と対する機会はあったが……これほど大きいのは初めてだな。弾けるかどうか……」
む、星夜の右手に魔力が集中している。
しかもこれは魔力を相手の魔術の性質に合わせて変化させている……わかりやすく言えば『
だが、ケントの魔術は大きい……あれだけではどうにもならないと思うが……どうする?
「いっけえええええ!」
掛け声と共に光の剣を突き出しながらケントが急降下する。
周囲の空気を切り裂き、その刃は星夜へと向かう。
「……そこだ! 『
まさにギリギリ。
皆が危ないと止めに入ろうとしたその刹那、誰も認知できない程の速度で放たれた星夜の拳が光の剣を横から殴りつけた。
「うわ! な、なんだ!?」
(そういうことか!)
いくら『
しかし、絶妙のタイミングで剣を横から攻撃することによって、その軌道をずらし先端のみ魔力を打ち消すことで完全にダメージを避けた。
「まさか……ケント様の一撃をあんな方法で避わすなんて」
これには流石に誰もが驚いている様子だった。
ま、実際はあんなことできたとしてもやる気にはならないだろうしな。
そこは星夜の経験から生み出された賜物だろう。
「せや……さま、すご……」
長く付き添ったミーコでさえその実力に驚いている。
この大陸は長らく平和だったようだし、星夜も本気を出せる相手がいなかったんだろう。
「すげーぜ星夜! まさか『
「別にオレはそんなつもりはない」
「謙遜すんなって。それじゃあ次は……」
「おーいストップストップ。ケント、これ以上は模擬戦の範囲を超えるぞ」
「お、ようムゲン。……でもこれからがいいとこだと思うんだよ」
いや、これ以上激しくなればこの修練場に被害が出るだろう。
私も異世界人の力をよく観察させてもらったしここは止めておくべきだ。
「この決着はいずれ別の機会にとっておいていいだろう。それに……私は腹が減った、早くメシを食いたい」
「そうですよケント様。汗を拭いて、お食事にしましょう」
周りからの同意も得られ、我ら異世界人一行はぞろぞろと食堂へ移動。
ケントはちょっと納得いかない顔で。
「星夜! 同じ異世界人として、どちらの方が上かいずれ決着をつけるからな!」
やれやれ、果たしてそんな日は来るのかね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます