54話 ムゲンのラブラブ大作戦-セカンドジェネレーション- 後編


「まさかあそこまでハッキリ言うとは思わなかった」


 盗聴中、言い争いになりかけた時は内心焦ったが、レイのナイスなツンデレ発言により事なきを得た。


「しかし我が弟ながらよくやったわね」


「ああ、しかもただ切り抜けただけじゃない。これはレイに対するサティの好感度もぐっと上がったと思うぞ」


 最近のサティは、これまでの一連の出来事で大分心が疲弊してたような印象が見受けられた。

 そんな時ポロッと口から出た弱気な発言……。

 団員からも距離を置いている中で掛けられる喧嘩腰ながらも励ましの言葉。

 うむ、完璧……やるじゃないかレイ!


「ふふ、ねぇムゲン君。この調子なら私達の助けなんていらないんじゃない?」


「いやいや、それはまだ早い。一度のファインプレーが決まったからと言ってそうミラクルが何度も続く訳じゃない。レイがサティの心を確実に射止められるように私達が二の矢、三の矢を用意してやるんだ」


 恋とは戦いだ。

 自分が持てる武器でいかに相手の心の城門を切り開くかだ。

 今は、レイが持つ全ての武器を使い城門が若干開いたと言った所か。

 レイはもう武器を使い果たしてしまった、なら私達が与えてやるしかないだろう!


 え? 恋人いない歴=年齢の童貞が何語ってんだだと。

 いや、私の中では完璧な理論なんだよ?

 でもいざ自分で実行しても「嫌いじゃないんだけど……」とか、「ムゲン君とは友達までかな」とか言われる、なぜだ!?

 私はただKENZENなお付き合いをしたいだけなの……。


「む、ムゲン君!? レイがこっち来てるよ!」


「なぬっ!?」


 愚痴ってる場合じゃなかった。

 レイだって今日私達と一緒に出かけるんだから用意のためにこっちに来るのは当然じゃないか。


「と、とりあえず[wiretap]を停止! あっと、こっちにかまけてて完全に自分の用意を忘れてた。レイに見つかったら今まで何してたのかと問い詰められてしまう!」


「私も早く用意しなきゃ! っと、その前に洗い場に行かないと」


 急に慌ただしくなってきた。


「じゃあ準備が終わったら入り口付近に集合だからね」


「ああ、わかった」


 ミミも待たせてしまってるし、さっさと用意を済ませてしまおう。

 そして町に着いたら第二作戦、レイを巻き込んでの作戦の開始だ。






「やはり馬車を使うと早いな」


 この間新調した馬車に乗り、パコムの町に到着する。

 歩きでは数日かかる道のりでも馬車を使えば数時間で済む。


「ほら、着いたぞミミ」


「はーい!」


 元気よく飛び出してくるミミ。

 久しぶりの遠出なのでうれしいのだろう。


「姉さん、今日は何を買う予定なんだ?」


 レイも馬車から下りてくる。


「えーっと、まずは数日分の食料。けどこれはいつもより多めね。それと治療具や傷薬とか。あとは、新品の武器や防具をいくつかね……」


「……」


「みんなどうしたの?」


 ミミ以外の人間の空気が重くなる…。

 今日の買い物はどう見ても戦いに備えてのものだろう。

 アジトにも武器はあるが、盗品だしあまり質がいいとは言えないものが多い。

 本気の戦いでそんなナマクラ振り回してたら一瞬でお陀仏だ。

 そのための武装新調だろう。


 これは戦いの時が近づいてきていることを意味する。

 それに関しては二人ともわかってはいるがやりきれないものもあるんだろう。


 ま、ウジウジしてても始まらないな。


「よし、とりあえず馬車に詰めるだけ買おう。レイ、馬車を置いてきてくれ」


「わかった」


 さて、こんな暗い気分になる買物は早く済ませて明るい気分になる買物をしよう。






「とりあえずこんなものかしらね」


 食糧OK、救急セットOK、武器や軽鎧なども数点そろえた。

 これで大体のものは大丈夫だろう。


「それじゃあそろそろ宿屋に行くのか? 姉さん」


 今日はパコムの町に泊まることになっている。

 馬車なら、今から帰っても深夜には帰れる。

 だが今回私達はアジトへは直接戻らずある場所へ向かう……そう、レイがこの五年住んでいたエルフ族の集落のある森だ。

 そのために今回の人選はエルフ族の住む森に拒絶されない者達……つまりエルフ族だけだ。


 え、私?

 強制的についていくと言ったろ。

 リアには「エルフ族以外は森に住む精霊に拒絶されるかもしれない」と言われたがそんなのことは関係ないな。


「えっと、もうちょっと買いたいものがあるわね」


 ここでリアから目くばせ!

 ふむ、察するにリアにはまだ買うものが本当にあるのだろう。

 ここはそのついでに例の作戦の実行に移せばいいというところだろう。


「じゃ、行くわよ」


 リアがミミの腕を引いて先導する。

 さて、では私はレイに色々と聞かせてもらおうか、色々とな……。


「なぁレイ」


「ん、なんだ?」


「そろそろサティに告ったらどうだ」


「ブッ! き、貴様! いきなり何を言う!」


 歩きながらも器用に私の胸倉を掴んでくる。


「いやー、だって今朝サティにあんな男らしく言い放ってたんだから、そろそろいいんじゃないか」


 ニヤニヤ笑いが止まらんぜ。

 レイは動揺と驚きの顔でこちらの顔を見る。


「なっ! ま、まさか聞いていたのか!? 馬鹿な、周りには誰もいなかったはずだ。そ、そうか魔術で……いや、あの時は微弱な魔力も感じなかった」


 まぁレイには[wiretap]のことは教えてないからな、あとで種明かししてやろう。


「まあまあ落ち着け、そんなことは些細な問題だ。それよりも今はお前がサティにアタックするのかどうかだ!」


「する訳ないだろ! それにサティは俺のことなどどうも思ってないだろうしな」


 勝負事に関してはいつも強気なレイが恋愛沙汰だとこうも弱気になる。

 なに、そんな後押しをしてやるのが私達の役目だ。


「レイ、それはお前の見当違いだ。今朝の話でそれがわかる」


「なに?」


「今朝の話、サティはお前とリアに申し訳ない気持ちだった。お前達は気にしていなくてもサティはずっと気にかかっていた。そう、それはずっとお前を気にしていたのと同様ということだ!」


「そ、そうなのか?」


 少なくとも私の目にはそう見えた。

 それにこの第二作戦はレイに自信をつけさせてやることが重要だ、少しくらい誇張してもかまわんだろ。


「ああ、そしてそこにお前の励ましの言葉! これによってサティのお前への意識は以前より数段上がったと言っていだろう!」


 それが恋かどうかは置いておきな。

 だがそういったことで発生する恋心もあるだろう。


「だからもう一押しだ、もう一押しして告白すればきっと上手くいく。お前の気持ちが真剣ならな」


 私の予想では、サティは一度の告白で落とすのは難しいだろう、多分保護にされる。

 だがレイの気持ちが本物だとわかれば自分の気持ちを確認するだろう。

 こちらとしてはそのままくっついてもらいたい。


 そしてその後の戦いを愛の力で乗り切る。

 うん、いいじゃないか、その時は私も全力勝負だ。

 魔力を使い果たしてでも勝利しよう。


「俺の気持ち……俺は真剣だ、この気持ちに偽りはない。あいつは俺に温もりを教えてくれた大切な人だ。多分俺はこの先一生サティ以外を女として愛せない」


「よく言ったわ、レイ!」


 おおう、びっくりした。

 リアが急に割って入ってきた。


「ね、姉さん!? あ! いや、これは違……。俺はサティのことなんて……」


「大丈夫、お姉ちゃんは全部わかってるから!」


 そういえばリアがレイの気持ちをわかっているってことをレイに教えてなかったな。

 あ、レイがこっちを睨んだ。


「スマン、教えちった」


テヘペロ


「ムゲン、貴様!」


「安心してレイ! 私はレイのこと応援する、むしろ手助けしてあげるから、ねっ!」


 私に突っかかってきそうだったレイの肩をがしっと掴んで動きを抑制するリア。


「は、はい……」


 リアの気迫に固まってしまうレイ。

 てかリアは少し落ち着こう。


「け、けど姉さん、手助けって」


「それを今から考えるの。ちょうどお店にも着いたからここで作戦会議よ!」


 あ、もう着いてたのか。

 えーっと、ここは。


『ホーリーの魔術屋さん』


 またかよ!






カランコロン……


 扉を開けて店内へ。

 私はこれで三回目だ、ここにも何かと縁があるよな。

 てか店内が暗い……まさか。


「いらっしゃい、魔力に導かれたどり着いた選ばれし者達よ……」


「今宵はその眼で我らが集めた一品の数々を……って、てめぇらは!?」


 今宵ってまだ夜じゃないだろ。

 しかし、嫌な予感がしたと思ったら案の定またもや中二ってた。

 てかガレイまで何やってんじゃ。


「え、嘘!? ムゲンさん達じゃない。もう、ちゃんと確認してよガッちゃん!」


「す、スマン! 見たことないねーちゃんとガキが前にいたから初めての客だと思っちまった」


 あたふたと中二店を片付け始める。

 へんてこな道具をしまい、カーテンを開けると……あら不思議、そこにはただの魔道具のお店ではありませんか。


「はぁ……はぁ……い、いらっしゃいませ。本日は……ぜぇ……何をお求めで……しょうか」


「大丈夫か? 少し待つぞ」


「あ、ありがとうございます……ではお言葉に甘えて」



 それから五分後……



「ふぅ、落ち着きました。では改めて、本日は何をお求めでしょうか」


 落ち着きを取り戻したホリィさんがいつものように営業を再開する。

 てかこんなことになる位なら中二らなければいいのに。


「ホリィさん、ここは魔導銃って扱ってますか?」


 こんなところで何を買うのかと思っていたが、なるほど魔導銃か。

 この世界の魔導銃とは、魔力を溜められる特殊な鉱石を加工して作られ、そこに魔術の術式を記録した核を結合することで完成する。

 なんでも500年前に存在した勇者が考案したとのことらしい。

 ただ、製作後は分解できないので一種類の魔術しか打ち出せないため、私はあまり好きではない。


 しかし戦闘が得意ではない者にとっては優良な武器だ。

 団員の中でも肉体派でない人用にというとこか。


「魔導銃はまだ幾つか在庫があったと思います。ちょっと待っててください」


 買い物はリアに任せておいて大丈夫だろう。

 おや、あれは?


「おいガレイ、何をきょろきょろしてるんだ?」


 なぜかビクつきながら賢明に辺りを気にしていた。


「い、いや、今日は奴はいねぇんだな」


 奴? ああなるほど。


「サティか。まったく、お前まだ怯えてんのかよ」


「いや、あの時の恐怖は忘れられないぜ。あの女はやべぇ、奴に剣を振られた時はマジで死んだと思ったぜ」


 まぁそれでも手加減されてたけどな、死ぬほどのダメージじゃなかったし。


「しかしありゃあ人ってか獣だぜ。一回見ただけだが戦い方が大雑把すぎるし動きがやべぇ……本当に女かよあいつ?」


 当人がいないからってボロクソ言い過ぎだろ。

 それにサティは私の仲間だ、仲間が悪く言われるのはあまりいい気分ではない。

 ちょっとガレイに灸をすえてやr……。


ガッ!


「貴様! 訂正しろ」


 私が説教する前に高速でガレイに掴みかかるレイ。

 これは完全に怒っている、まぁ好きな人を悪く言われたらそうなるわ。


「な、なんだよてめぇ……」


「あいつは……サティは獣なんかじゃない。あいつは人のことを思える優しい女性だ! 訂正しろ!」


「知るかよ、それより手離せや」


 ったく、このままじゃ喧嘩になるな。

 大事になる前に止めておくか、ホリィさんに迷惑もかけたくないしな。


「レイ、その辺にしておけ。お前が戦ったらガレイなんて一瞬でぐちゃぐちゃのボロボロにされて二度と立ち直れないんだからな……」


「そうそう俺がぐちゃぐちゃのボロボロに……っておい!」


 ガレイがなんかギャーギャーわめいているが関係ないぜ、本当のことだからな!


「だがこいつ!」


「はいはいそこまで。まったく、ちょっと成長したかな? って思ったら途端にこれだもの。もうちょっと大人になってほしいわ」


 リアが仲裁し、この場は何とか静まったようだ。


「でも今回のことは全面的にガッちゃんが悪い。レイさんはサティさんのことが好きなんですから、それを悪く言われたらそれは怒るよ」


 ホリィさんが奥から箱を抱いてやってきた。

 買い物は終わったのか? いや、今持ってきたみたいだし違うか。

 しかしあの箱の中身、やけに盛ってるな。

 それに魔導銃以外にも何か入ってるみたいだし。


「何だよ、それならそうと先に言えよ……」


 そう言うとガレイはレイの方に向き直って。


「悪かった……」


「俺もすぐカッとなってしまった、反省している」


 これにてこの場は一件落着だな。


「ところでホリィ、その箱はなんだ? 注文は魔導銃だろ、そっちはなんだよ」


 あ、それ私も気になっていた。


「ふふ、これは恋に燃えるレイさんのために用意したものです」


 レイの恋のために用意された?

 ここは魔道具屋……恋のため……ま、まさかほれ薬や相手の気持ちを操作する道具みたいなものがあったり!?


「ムゲン君、変な想像してるでしょ。言っておくけど変な物じゃないわよ。私が頼んだものだし」


「リアが? 一体何を……」


「これです」


 じゃらっ、と広げられた箱の中には宝石のような鉱石が付いたアクセサリーのようなものがいくつもあった。


「私も考えたの、レイのあと一押しをどうするか。そこでこれ、サティに贈り物をするの」


 なるほど、つまりはプレゼント作戦と言ったところか。

 形の残る物を贈ればそれを見るたびレイのこと思い出すこともあるだろう……悪くないな。


「サティってこういうのに全然興味ないし、団員の皆もそれをわかってるからあげたこともない。でもそろそろサティにも飾り気があってもいいと思うの」


「そうだな、それでいこう! さあ選べレイ、お前の気持ちをぶつける一品を……」


「これにする」


ズコー!


「いくらなんでも早すぎないか!?」


「いや、これだ。一目見た時からこれに決めていた」


 レイが手に取っていたのはサティの髪と瞳の色と同じ真っ赤な宝石が装飾された首飾りだった。


「これが、あいつに似合うと思った……」


「そうか」


 だったらもう何も言うまい。

 レイの直感に任せよう。


「これをくれ」


 迷いのないレイは強い、そんなレイを止めることは誰にもできな……。


「はい、5000ルードになります」


「「え゛!?」」


 驚愕の高さに私とレイは同時に変な声が出てしまった。


「そ、そんなに高いのか……」


「は、はい……。結構いい魔力石とか使ってるので……」


 ホリィさんも申し訳なさそうだ。


「レイ、今幾ら持ってる」


「1800ルード……俺の全財産だ」


「……」


「……」


「つ、ツケで……」


 一番かっこ悪いシメ方になってしまった……。


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