32話 護衛開始


 そんなこんなで護衛開始だ。

 前衛にムキムキマッチョなおっさん共が5、6人、その後ろに大型馬車、護衛が5人。

 ついで中型馬車が一台、その周りに護衛が10人ほど。

 その後ろに中型馬車が二台、殿を務める護衛が5、6人、残りは遊撃隊といったところだ。

 ちなみに私は中央馬車の護衛だ。


「しかしこの馬車だけ護衛の数が異様に多くないか?」


 雇い主の周りよりも数が多いことに私は疑問を抱いていた。


「重要な商売道具でも入ってるんだろ、俺達が気にすることじゃねぇ。俺達はただ護衛してりゃいいんだからよ」


 私の何気ない呟きを聞いていたのかカレー、もといガレイが質問に答えるように話しかけてきた。


「あれ? お前も中央の護衛だったのか」


「いや、配置が決まった時から一緒だったろ」


 そうだったか? 腹が減りすぎて思考が鈍っているからな、些細なことは忘れてしまうな。


「はぁ……早く夕食の時間になってくれ、このままだと馬車の中のものに手を出してしまいそうになる」


「ワオン(そんなことしたら報酬が貰えないうえにここの連中から集団リンチっすよ)」


 私ならこの程度の連中わけもないさ、と言いたいが腹減ってるから無理だな。

 ガレイと世間話でもして空腹を紛らわすか。


「なぁガレイ、何か食べるもの持ってないか? カレーとか」


「いきなりなんだよ、持ってねぇよ。てかカレーってなんだよ」


 おっと、世間話をするつもりが飯の催促をしてしまった。

 それとこの世界にカレーは存在しなかったな。


「そんなに腹減ってるなら雇い主からなんか頼んでみたらどうだよ?」


「あの中に入りたくない……」


「まぁそうだよな」


 私達の視線が目の前の大型馬車に集まる。

 最初はあれにどれだけの荷物を積むのだろうと見ていたら、なんと雇い主であるルドルフがその馬車に乗った。

 その時にちらっと中が見えたが……なんというか悪趣味だった。

 金の仏像みたいなものや動物の頭をブツ切りにした飾りなんかがそこかしこに飾ってあった。


「やっぱ金持ちの感性なんてわかんねぇな。だが俺だって今回の報酬を受け取ったらこんな大陸とっととおさらばして中央で一山あててやるぜ」


「なんだ、お前も中央へ行きたいのか?」


 私と同じだな、魔導師ギルドは支部が少なくこの近辺にはないらしいし、登録するなら中央にある本部のほうが断然いいだろう。

 まぁそのためには船代も必要だな、やはり私も特別報酬を狙うしかないか。


「あ、お前もか? なんで……ってああ、確かてめぇははぐれ魔導師だったな。狙いは魔導師ギルドってとこか」


 そう、早く"はぐれ"を取りたいものだ。


「ところで一山と言うが、中央で何をするつもりなんだ?」


「あん、何言ってんだてめぇ? 今は中央で発見されたいくつもの『迷宮ダンジョン』を攻略しようと世界中から人が集まってるだろうが」


 『迷宮ダンジョン』! なんかすごく異世界っぽくなってきたな!

 ん? まて、中央大陸に存在するダンジョン……?


「ワフ?(どうしたんすかご主人? 変な顔して)」


「変な顔なんてしてない。うーん、なんか引っかかる……あ!」


 思い出してしまった……。


 その昔、私が前世で魔法神をやっていた時代の話だ。

 歳を取り、魔法を極めた私の趣味は酒を集めることだった、各地の特産物で製造したものや、年代物のものをそれはもう沢山。

 しかし私の周りには宴会好きですぐに大量の酒を出す奴や、飲みすぎを注意して私から酒を取り上げる奴もいた。

 そこで私は考えた、酒を安全な場所に隠そう! ……と。

 こうして生まれたのが魔法神特性『私の酒を守って迷宮』だ。


「あれかぁあああああ!」


 確かに一つでは不安だからと三つ四つ作った記憶がある。

 てことはちょっとまて! あれを攻略されたら私の秘蔵の酒おたから達が!


「が、ガレイ……一つ聞くが今までに後略されたダンジョンは」


「いや、まだダンジョンは一つも攻略されてないらしい」


 よかった、本当によかった。

 よし決めた、元の世界へ帰る方法を見つけたら前世で残した私の秘蔵の酒おたから達を持って帰ろう。


「ま、だからこの俺様がダンジョン攻略一番乗りを果たしてやろうということさ」


「貴様ごときに攻略されてたまるか!」


「どわっ!? なんだよいきなり。さてはてめぇ、俺の話を聞いてギルド加入からダンジョン攻略に乗り換える気だな。ったく話すんじゃなかったぜ。だがてめぇには無理だ、なにせ魔導師でも攻略できなかったらしいからな」


 当たり前だ、誰が作ったと思っている。

 魔力の扱いが長けていた者がわらわらいた時代に作ったんだからその辺の雑魚魔導師が攻略できる訳ないだろう。

 しかしあの迷宮を作るのにどれだけ頭をひねったことか……あの頃はそれこそ人の数だけ術があったからな。

 ひねりにひねってあのドラゴスでさえ攻略できるかどうかという代物になったからな。


 あの迷宮を攻略できるのは魔法神である私だけだった。

 って待てよ……。


「今の私はあの頃よりも全然弱いぞ……」


 そうだった、今の私は他の者よりも少々魔術の扱いに長けている15歳のはぐれ魔導師だった。

 そんな奴がドラゴスですら苦戦する迷宮を攻略できるはずがなかった。

 ああ、秘蔵の酒おたからが遠のいていく。


「はぁ……」


「お、おい。ちょっと言い過ぎたかもしれねぇが、なにもそんなに落ち込むことはねぇだろ」


「あ、いや、別にそういう訳じゃないんだが」


 これ以上この話題を続けるのは私の精神衛生上良くない。

 何か別の話題に変えなくては。


「そういえばガレイはこの大陸出身なのか?」


「また唐突だな。まぁいい、話してやるぜ」


 ガレイは結構悪者ぶってるけどなにかと質問には答えてくれるし心配もする、案外いい奴だ。


「俺の故郷はここから少し離れた町にある、特に目立った特徴もねぇ普通の町だよ。まぁ強いて言うならエルフ族が住んでる森が近かったな」


「エルフ族か……」


 亜人やドワーフはいろんなところで活躍してる話をちらほら聞くがエルフ達に関してはほとんど聞かないからな。

 森の中で集落を作りひっそりと暮らしている話は本当みたいだな。


「後は偉い奴が奴隷を何人も持ってるだの、裏路地ではいつもケンカの賭け試合が行われてるとかだ。ま、その賭け試合で常に勝ち続けている俺様は物足りなくなり、こうして今話題の迷宮探査に乗っかるために港街へやってきたらこの仕ご……」


「魔物が出たぞー!!」


 前方から魔物の襲撃の声が上がりガレイの話は中断される。

 まぁあれ以上はどうでもよさそうだったからいいか。


「ちっ! これから俺様の武勇伝だったのにいいとこで邪魔しやがって!」


 ほんとにどうでもよかった。

 しかしもう敵襲か、まだ飯も食ってないというのに…。


「敵は、あれ? どこだ、前方が木で塞がれてるようにしか……」


「ワウ!(いやご主人! あの木々めっちゃ動いてるっすよ! 気持ち悪いっす)」


「ああ、トレントか」


 とうせんぼが大好きな魔物で、横切ろうとすると前方に移動して邪魔してくるとても迷惑な奴だ。


「5、6体はいるな、腕が鳴る。ここは一つ火の魔術で一気に!」


ぐぅぅぅぅぅぅぅううう……


 腕じゃなくて腹が鳴った……。


「駄目だ、腹が減って力がだせん……」


 そして、戦闘は私の出る幕もなく気がついたらトレントは全滅していた。


「はっはー! このガレイ様に挑もうなんて10年早いんだよこの枝野郎が」


 持ち場に戻ってきたガレイは上機嫌だった。

 大方「これで特別報酬はもう貰ったも同然だぜ」とか思ってるんだろうな。


「これで特別報酬はもう貰ったも同然だぜ!」


 言っちゃったよ。


「それにしても魔導師様は後ろで見ているだけだったなぁ~。あの程度の魔物にビビっちゃったのかなぁ」


 うぜぇ!

 こいつ丸焼きにしてやろうか。

 まぁ動かなかったのは事実だが。


「私はただ持ち場を離れなかっただけだ……」


 くそっ、今はこう言うしかない。

 こうして馬車は再び動き出した。






「しかし解せんな」


「あ、何が解せねぇんだよ?」


 夕日が落ち始める頃、私はずっと疑問に思っていることを考えていた。


「今まで2、3度魔物の襲撃があったが、どれもこれも3、4人程度で片がつく奴ばかりだ。こんなに護衛を雇うことは大損だなと思って」


 この程度なら多くても10人もいれば十分だろう。

 さらに言えば、ここの連中は結構腕っ節がいい、並の魔物ならひとひねりだ。


「一つ、心当たりがあるぜ」


「心当たり?なんだ」


 私が質問するとガレイは険しい顔をして語りだした。


「最近この近辺にとある盗賊団が現れるって噂があるんだよ」


「盗賊? だがやはり賊程度にこの数は大げさなんじゃ」


 盗賊団といっても所詮は寄せ集めの連中だ、私達もだが。


「いや、団員は寄せ集めでもそのかしらがやばいらしい」


「頭?」


「なんでも身の丈ほどもある巨大な大剣を振り回し、その斬撃は地面を砕き切り口からは炎が上がるなんて言われてる。そしてその頭の真っ赤な髪と相まってその盗賊団は“くれないの盗賊団”と呼ばれているらしい」


 “紅の盗賊団”ねぇ。

 しかし今の話を聞く限り盗賊団の頭は魔術を使ってる可能性が高いな。

 本当にそんな奴らが来たらそれこそ私の出番だな。


 そんなことを考えていたら前方から伝令が。


「今日はここから少し先の場所で野営をする!」


 やったぜ!

 この瞬間をずっと待っていたんだよ私は!

 あー早く飯が食いたい。

 さぁいざ野営地へ! ……って。


「なんで進まないんだ?」


「前方でなんかあったみたいだな。通り道に人が突っ立ってやがるら……し……」


 ガレイの歯切れが悪い。

 一体何を見たんだ?


「どれどれ私も。ん、あれは女性……か?」


 布で顔を隠しているがその豊満な胸を隠すことはしていない、褐色の肌がなんとも健康的だ。

 そしてその背にある身の丈ほどの巨大な剣が……剣?


「おいネーチャン! そこに突っ立たれてちゃ邪魔なんだよ!」


 前衛の護衛が文句を言いながらその女性に近づいた瞬間、女性は背負った大剣に手を掛ける。

 そして次の瞬間、私達は驚くべき出来事を目の当たりにした。


「……ふん!」


 一瞬だった……目に見えない速度で剣が振られ、気づいたら護衛の男は宙を待っていた。

 え、何が起きたの?


 そして、女性の顔に巻かれていた布が衝撃で宙を舞うと、長くて真っ赤な髪が夕日に照らされてまるで炎が燃えてるように揺らめいた。

 そして口をゆっくりと動かすと……。


「その荷物、全部置いて今すぐこの場から消えな。痛い目に合いたく無かったらね……」


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