とかげくん【おやこ】

 えへへへへ。

 やっぱりそうだよね。


 おいもといもむしを抱えて丘に戻ったぼくは、すすきの葉っぱの陰に隠れてそっと様子を窺った。

 丘の上では、すいりゅうさんがふえふえと泣く赤ちゃんを抱き上げておろおろしている。


「ああこら。泣くな。すぐにスイレンも帰ってくる」


 覗き込んで、涙をぬぐってあげて、それでも後から後から溢れてくる涙に、困ったように眉尻を下げる。


「どうした。腹が減ったのか? お前は何を食べるんだ。ああくそ。スイレンはまだ帰らないか」


 きょろきょろと見回して、すいりゅうさんは赤ちゃんを抱いたまま松の根方に歩いていった。根元を埋めているかたばみの茂みのなかから黄色いお花を一輪摘んで、赤ちゃんの口元に寄せる。


「だめか? 葉は苦いが花は美味いぞ。多分。スイレンがよく、嬉しそうに食っている」


 赤ちゃんはお花の香りに一瞬涙を止めたけれど、すぐにまた、いやいやと首を振って泣き始める。


 それじゃだめなんだよ。すいりゅうさん。


 ぼくは隠れていた薄の陰から出ていって、すいりゅうさんの手からかたばみのお花をそっと取り上げた。それからお花を咀嚼して、柔らかくなった花びらを赤ちゃんの口元に寄せる。指に少し力を入れてお花の汁を垂らすと、赤ちゃんは小さな口を開けた。

 赤ちゃんは少しずつ黄色いお花を舐めとって、やがて満足げに鼻を鳴らした。


「ほら。すいりゅうさん」


 ぼくは手真似で赤ちゃんを肩口に抱き上げて

とんとんと背中を叩く。


「こうやって、げっぷさせてあげてね」


「私が?」


 すいりゅうさんは目を丸くするけれど。


「そうだよ。だって、すいりゅうさんが抱っこしてるんだもん」


 ぼくが笑うと、すいりゅうさんは躊躇いがちに赤ちゃんを抱き上げた。けぽっ、と。赤ちゃんの口から可愛らしいげっぶが漏れる。


「かわいいね」


 ぼくの言葉に、すいりゅうさんが顔をしかめる。


「そうだな」


 赤ちゃんはこんなに可愛いのに。

 すいりゅうさんはこんなに優しいのに。


 どうしてすいりゅうさんは、そんな顔をするんだろう。

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