とかげくん【お兄ちゃん】
家に帰ると、あったかい灯かりとおいしそうな匂いが迎えてくれる。ただいまって声をかけると、優しい声が応えてくれる。ご飯を作ってるおばさんと、居間で
ぼくは急いで手を洗ってグレンに駆け寄った。ぱたぱたと近付くと、グレンが人差し指を口に当てる。ぼくは慌てて立ち止まり、抜き足差し足近付いて、そっと覗き込む。
「ただいま、赤ちゃん」
グレンの腕のなかですやすやと眠っている、小さな小さなぼくの弟。そうなんだよ。ぼく、お兄ちゃんになったんだよ!
寝息がかかるくらい顔を近づけると、ふんわりと優しいお花の香りがする。赤ちゃんって、いい匂いがするんだよ。眺めていると、何だかそれだけで幸せな気分になってほっぺたが垂れ下がってくる。
「かわいいねぇ」
うっとりと呟くと、グレンが、そうだな、と言ってぼくの頭をくしゃりと撫でた。お前もな、って言われてるみたいでぼくは嬉しくなる。
家族ってあったかいね。
おばさんと二人のときからぼくは幸せだったけど、家族が増えて、もっともっと幸せが大きくなった気がするよ。
台所の方を見ると、ご飯が出来たみたいでおばさんがお皿を運んでいた。
「お手伝いしてくるね」
ぼくは赤ちゃんの頬をそっとなぞってから立ち上がった。
👼👼👼
ねえ、知ってた?
赤ちゃんは、両手に幸せを握りしめて生まれてくるんだって。
赤ちゃんって、寝てるか、泣いてるか、食べてるか。その三つしかしないのに周りを幸せな気分にしてしまうのは、きっとそのちっちゃい手に握りしめた幸せが溢れ出しているからなんだね。
ぼくたちがご飯を食べてる途中で、眠っていたはずの赤ちゃんが泣きだした。おばさんはお箸を置いて席を立ち、赤ちゃんを抱き上げる。
あらあら、どうしたの?
そう言って赤ちゃんをあやすおばさんはとてもきれいで、きらきらして見える。
「ぼく、あんなにきれいなおばさんを見るのは初めてだよ」
こんがりと焼けたカラクレナイミズククリムシを小さく切り分けながら話しかけると、
「そうか? 俺は二回目だ」
お肉とスグリの実を一緒にスプーンに掬ってグレンが笑う。ぱくりとそれを口に入れて、グレンは満足気にため息を吐いた。そんな食べ方をしたら、せっかくおいしいカラクレナイミズククリムシが台無しになっちゃうと思うんだけど、グレンはその食べ方が大好きみたいだ。
「二回目?」
「そうだ。小さなお前を抱いたフレアは、夢みたいに綺麗だったな」
思い出を
「羨ましいか?」
「ち、違うよ!」
ぼくは慌てて否定する。だってぼくはお兄ちゃんなのに、そんなのかっこ悪いよ。
「そうか? 俺は羨ましかったがな」
グレンは平然と言った。
「今でも、お前を見ているフレアはあれに負けないくらい綺麗だぞ」
グレンがちょっと悔しそうに顔を歪める。きっとわざとだね。
ぼくはちょっぴり気分が軽くなって、そして思った。
グレンと一緒にいるときのおばさんは、ものすごーくかわいいんだよ、って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます