とかげくん【夜明け】

 雲が割れて太陽の光が濡れた大地を照らした。存分に潤った草木が雨粒を葉に湛えてその光を受ける。きらきらと世界は輝いていた。その一方で、流された弱い葉は土に埋もれ、雷を受けた木々は黒く燻っている。

 嵐は、恵みをもたらしただけじゃない。奪われた生命いのちもたくさんある。


 ぼくは眩しさに目を細めて空を見上げた。もうずっと上を向いているから、体が凝り固まって動かない。ちょっと困っちゃうけど、すいりゅうさんの姿を見逃すのだけは絶対に嫌だった。


 ぼくのことを嫌いになったのなら、すいりゅうさんはもう下りて来てくれないかもしれない。それなら、すいりゅうさんが飛び去るその瞬間を目に焼きつけておきたかった。



     🌈



 きらきらと、温かい光の粒が降り注ぐ。よく知っている、大好きなきらきら。ゆっくりと下りてくるみずいろの塊は、周りが眩しすぎてよく見えない。

 すいりゅうさんは松の木の上まで来るとそこで止まった。いつも松の木に巻きついているのに、今日はそうする気がないみたいだ。ぼくは凝った体がもっと固まるのを感じた。もう、ここにはいたくないってこと? 


「すいりゅうさん」


 ぼくはすいりゅうさんに話しかけた。何回もお祈りした言葉を繰り返す。


 あなたが大好き。

 嫌いにならないで。

 もう困らせたりしないから、

 いなくならないで。


 困らせないって誓ったのに、ぼくの目から涙が溢れる。嗚咽が引きつって言葉が途切れる。


 うえっ。うええぇん。


 そして遂に、みっともなく泣きだしてしまった。




     🌈🌈🌈




 ふわりと風が吹いた。


 泣きじゃくるぼくの周りに、優しいきらきらが降り注いでいる。すいりゅうさんが下りてきてくれてからずっと。だから、ぼくは安心して目を開けてもいいのかもしれない。だけど一度瞑ってしまったら、なかなか開けられないんだね。


 せっかくすいりゅうさんが雨を降らせてくれたのに、ぼくは干からびちゃうかもしれない。

 だってね。涙って止まらないんだ。いったい、どこから湧いてくるんだろうね? ぼくのなかにこんなにお水が溜まっていたなんてびっくりだよ。でももうかなり出ちゃったから、きっともうすぐ無くなっちゃうね。そうしたらどうなるんだろう。

 あさがおみたいに萎れちゃうのかな? 干し草みたいに乾いちゃうのかな?

 そうしたら、もう本当に、すいりゅうさんにすりすり出来ないかもしれないね。そんなの、嫌だなぁ。


 もう一度風が吹いて、柔らかい何かがぼくの頬を撫でた。


 怖々と目を開く。


 松の木を這い下りるように前足で太い幹を掴んだすいりゅうさんが、ぼくの方に顔を向けてじっと見つめていた。

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