第二章 あまごいとおるすばん
とかげくん【ひなたぼっこ】
こんなに幸せでいいのかな。
ぼくは、すいりゅうさんのたてがみに半ば埋もれるように寝そべって、ふわあ、と欠伸をした。風が吹いて金色の波がさらさらと揺れる。どこからか飛んできたクルミワリシジミが、ぼくの鼻先にふわふわと遊んで甘い香りのする鱗粉を撒いてゆく。ぽかぽかと空気を温めるおひさまはちょうど天辺に辿り着いて、ふう、と息をついている。
気持ちの好い午後。至福のひととき。
「えへへへへ」
すいりゅうさんのたてがみをくるくると指に巻きつけながら、ぼくの頬はだらしなく垂れ下がってゆく。だって、しょうがないよね。大好きなひととこんなにくっついて、平気な顔なんてしていられないよ。
ああ。幸せだなぁ。ぼくはすいりゅうさんのたてがみに顔を埋めて、おひさまとせせらぎの匂いを思い切り吸い込んだ。ここは天国みたいだ。すいりゅうさんはなんてすてきなんだろう。
そのとき、すいりゅうさんがしっぽをくるん、と動かしてぼくを振り落とした。
がーん。
ふわふわの天国から「地面」という現実に落とされたぼくは、転がったままぷうっと頬を膨らませてすいりゅうさんを見上げる。高さはそんなになかったから痛くはないよ。それに、すいりゅうさんはそっとしっぽを添えて衝撃を和らげてくれたからね。やっぱり優しいよね! 大好き。えへへ。
ぼくの膨らんだ頬を窘めるみたいに、すいりゅうさんのしっぽが揺れる。そのしっぽにじゃれつくように、翡翠色のシジミ蝶が纏わりついている。クルミワリシジミって、芋虫のときは白黒のまだら模様なのに羽化するとこんなにきれいになるんだね。ぼくは自分の茶色い腕をじっと見た。ぼくは何色のとかげになるんだろう。ぼくはもう二回脱皮したから、次の脱皮で分かるんだ。
すいりゅうさんのしっぽが揺れる。クイッ、クイッって。催促するように。
ぼくは立ち上がってお尻をぽんぽん払った。
分かってるよ。特訓だよね。ぼく頑張るよ。
ただね。
ちょっとだけ。
もうちょっとだけ。すいりゅうさんにすりすりしていたかったなぁ。
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