とかげくん【すいりゅうさん】

 ぼくは遂にやった!


 すいりゅうさんのしっぽの先にぶら下がって、ぼくは歓声を上げた。

 すっごく、すっごく。ものすごーく、嬉しいよ!


 やったあ! 嘘みたい!!


 ぼくは万歳をした。すっごく嬉しかったからね!

 比喩表現とかじゃないよ。両手を上に挙げるあのポーズ。もちろん、両手は思いっきりパーだよね。

 うん。言いたいことは分かるよ。ぼくだってちょっと考えれば分かる。だけどね。嬉しすぎて考えるのを忘れちゃったんだね。

 ドシン、と大きな音を立てて落っこちたぼくは、それでもケラケラ笑ってた。


 やった! やったよ! ああ。嬉しいな。すいりゅうさん、やっとあなたを掴まえた。って言っても、しっぽに掴まっただけだけど。


 ぼくはすぐにでも登って行きたかったけど、おばさんとの約束を思い出した。だから今日は帰らなきゃ。明日までの楽しみだね!

 すいりゅうさんと約束をして、さよならを言って、ぼくはスキップしながら帰った。


 家に帰ってからも、おばさんにご機嫌ねって言われて、えへへって笑って。

 何もかもが輝いて見えるって素敵だね。酸っぱいスグリの実までおいしく感じるから不思議だよ。お片付けを手伝って、おふろであったまって、お布団に入っても。どきどきして、わくわくして、全然眠れなかった。


 うつらうつらしながらお日さまが昇るのを待って。朝ご飯の用意をするおばさんの後ろでそわそわしながらご飯が出来るのを待って。おばさんをかすようにお片付けを手伝って。ぼくは転がるように家を出た。

 ななめ掛けしたかばんのなかにはお芋のお団子が入ってる。お弁当だよ。

 だってね。すいりゅうさんはとっても大きい。上の方は見えないんだけど、すいりゅうさんに登るのはおうちから丘まで歩くよりも時間がかかると思うんだ。


 丘の上にはすいりゅうさんがちゃんと待っていてくれた。

 朝露に濡れる下草も、朝もやに霞む松の木の天辺も。朝日を受けて煌めくすいりゅうさんも。ぼくは初めて見る。今まではお昼ご飯を食べてから逢いに来ていたからね。


 すっっっごぉぉぉっく! きれいだね!!


 おはよう、と挨拶をしてぼくは松ぼっくりに登った。もちろん、すいりゅうさんのしっぽの先はその真上に垂らされている。ぼくはごくりと唾を呑み込んで爪先を伸ばした。うんと背伸びをして、両手を伸ばして、金色のふさを掴む。


 う。わああっ。

 本当に届くよ!

 もしかしたら夢だったんじゃないか、って。ちょっぴり心配だったんだ。


 ぼくはぐっと力を入れて、自分の体を持ち上げた。たてがみを掴んで少し這い上がって、みずいろのうろこに足を下ろす。

 ぱしゃん、と。水の跳ねる感触があった。実際に水に足をつけた訳じゃない。川や泉とは違う。足が水に沈む訳でも濡れる訳でもない。ただ、一歩踏み出す毎にうろこの表面に、あおい水面に、美しい波紋が広がる。


 !!!!!


 ぼくは言葉を失った。

 なんて。なんて!

 すいりゅうさんはなんてすてきなんだろう!


 一歩一歩登りながら、ぼくは胸がどきどきした。


 もうすぐ逢えるね。すいりゅうさん!

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