とかげくん【強くなるために】

 強いってどういうことだろう。

 力持ちってことかな。

 けんかで負けないってことかな。


 ちょっと迷っちゃったからおばさんに訊いてみたよ。

 ねえおばさん。強くなるにはどうしたらいいと思う?


「おつかいに行くことだね!」


 おばさんは即答だったよ。


 でも。おつかいって弱そうだよ?

 ぼくは何だか腑に落ちなかったけど、ツルリンドウで編んだ買い物かごを提げておつかいに出た。

 まずは、森の入り口にある木の実屋さんだよ。


「木の実屋のおじさん、紫ウツギの実をいつつと大きめの山栗をみっつください」


「お。偉いな、坊主。おつかいか?」


 木登りリスのおじさんはにっこり笑って、草いちごの実をひとつおまけしてくれた。


「ありがとうおじさん。ここで食べても大丈夫?」


 ぼくが訊くと、おじさんは頷いて木陰に小さな切り株を出してくれた。ぼくはそこにちょこんと座って、ひんやりと冷たい草いちごの実にかぶりつく。今日はとても暑いから、甘酸っぱくて瑞々しい実はサイコーだ!

 大きな実から赤い果汁が滴って指の間を濡らした。夢中で頬張った口の周りも真っ赤だ。慌てて舐め取っても次々あふれてきて、腕も膝もべとべとになっちゃった。


 ぼくは、ふふふと笑って草いちごに齧りつく。

 お行儀が悪いのは分かってるけど、こうやって食べるのが一番おいしいんだよね。

 一回汚れちゃったら、あとは気にしない。抱えるほど大きな果実をぼくは堪能した。


「べとべとじゃねえか。これでちょいと水浴びでもしていきな」


 おじさんがぼくの脇に水を張った洗面器を置いてくれた。リスのおじさんには洗面器でも、ぼくにはプールだよね。わあい。

 じゃぶんと飛び込んだぼくをおじさんはにこにこして見つめてる。ゆるく組んだ腕も、少し反らせた胸板も、ムキムキだ!! おじさん、もしかして強い? もふもふのしっぽやほっぺに騙されてたよ。


「ねえおじさん。強くなるにはどうしたらいいと思う?」


 ぼくは訊いてみた。


「木登りだな」


 おじさんは即答だったよ。

 木登りかぁ。それって強い?


 おばさんといい、大人って強くなる方法に相当な自信があるみたいだけど、なんかぼくが思ってるのと違うんだよね。もっとこう、特訓とか。修行みたいなやつ、ないかなぁ。

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