私の旦那様がバクと決まったわけじゃない!

三谷真菜

第01夜 私の夢が勝手に動く日!

告白します。


私、真白香澄ましろかすみは、夢を愛しています。

明晰夢が得意です。(省略)

彼氏居ません。(募集)

そして11月30日の今日をもって、独身アラサーになりっ…まし…た!(号泣)


「…おやすみなさい…」


誰も居ない1人の部屋で、誰に向かって挨拶してるのだろう…。

1人の誕生日は数え切れないくらい迎えたのに、やはり寂しい…。

寂しさを堪えながらも、香澄は今日も眠りに入る。



                        +   +   +


―――あなたの ゆめは おいしい?


突然そいつは現れた。

始めは変な声だけだったが、言葉の意味から姿・形を創造する。

「白黒の、マレーバク、20センチくらい」

「あなたは ばくを しっているのかい?」


バクは創造できたけど、なんだか言葉が片言なので日本語を想像する。

「私は君のこと知ってるよ」

「創造してくれてありがとう。では、頂きます」


創造したバクは突然大きくなり、口をあんぐりさせる否や、香澄にかぶりつく。

「大体予想は出来てたけど、君は良い夢も悪い夢も食べちゃうわけ?」

ムシャア、バリッ、ゴリッ、と音を立てながらむしゃぶりつくバクに香澄は話す。


「無視かなぁ。創造した後は勝手に消えないからなぁ…もう一回寝直そう…」

ガブッ、ジュルジュル、と今度は臓器を啜り出し、貪る事を止めないバク。

香澄は目を覚ますことにした。


                        +   +   +


目を覚ました香澄はすぐにスマホのメモ帳を開く。

夢は記憶するものじゃなく、記録するものなのだ。(香澄論)

「変な夢だったなぁ。今までにないタイプだ」

そう言いつつも、この後の続きが見れるのを案外ワクワクしている自分がいる。


30歳初めての夢のタイトルは、

―むしゃぶりつくバク―


「おし、もう一回だ。おやすみなさい」


                        +   +   +


―――なんで きえた?なんで たべれない?


恐らく、さっきと同じ変な声なので、同じバクを創造する。

「なんでって、君がバリムシャァッに夢中だったからよ。それに、私の夢だから食えないよ」

「どうして勝手に動ける?」

「私の夢だしね~」

得意げに言った香澄に、受け答えが出来てるか分からないバクはとても不思議なことを言った。


「君はもしかして、バク族の生き残りか?」

「…ん?なんだか謎な単語が出てきた…」

「それとも、バク族の生まれ変わりなのか?」

「…ちょっとまって、どっちでもないよ。仮にそうだとしてもわからないよ」


「じゃあ検証させてくれ」

「…!」

初めて受け答え出来た気がした。

きっとこれが私の、人間としての、最後の会話だったかも知れない。


白色だった風景が、色付き、交じり合い、ゆっくりと回転しだす。

頭の中の今まで見た夢が全て映像となり、風景に織り成していく。

「なるほど、わかったぞ」

思い出に浸っていた香澄に、変な声のバクがにゅんと現れた。

「どうだったの?」

「今まで見た夢は、していない夢が多い」

「…!そうね、してない夢があるわ…」

私は明晰夢を見れても、最後まで夢を見きれず途中で起きてしまうことが多いのだ。

それに、だいたい一回見た夢は何度でも見れる事が可能なのだけど、何故かもう見れない夢もあったりする。


「でも、ちゃんと解決している夢もある」

そう言ったバクの背景に解決した時の夢の映像が流れる。

――この夢は解決に困難だった覚えがあった。またの機会にでも話そう。


「解決してる・解決していない夢を見る君は間違いなく、バク族の生き残りだ」

「…どうゆうこじ付けでそう想像したかわからないけど、そうなんだ~」

適当な返事をすると、バクはまた変な声で不思議なことを言った。


「わしと契りを交わして、夢を解決して行かないか?」

一人称なんでわしになった―――!と思いつつも、香澄は、

「つまり君と契約するってことかな。どうやるの?」

「今時の若者は契りの交わし方もわからないのか」

「君達の契りなんてわかったら、初めからそのバク族だって気づいてるわよ…」

「では交尾を始めるぞ」


「――は?」



「…では接吻で許そう…」

ぼこぼこにしてやった変な声の変態バクは変な顔で言った。


「接吻とはまた古臭い…。まぁキスくらいなら許そう…

って…え、まって!私キスの経験なんて――ッ」

時既に遅しとは、まさにこの時に使う言葉だった。

紛れも無い、胡散臭いバクとファーストキスをしてしまった。

「これで完了だ。そう言えば貴女の名前はなんと言うのだ?」

悲しみに悶え苦しむ香澄を差し置いて、淡々としゃべるバク。

「これは夢…これは夢よ…っ。…かすみ!真白香澄よ!」

「ましろ、かすみ姫。覚えたぞ」

なんだか初めてやんわりした口調で言われたような気がした。

怒る気力も無くなった香澄に、バクは勝手に自己紹介を始める。


「わしはバク族の長。名はまだ無い。訳あって散り散りになった仲間を探している」

「名前無いのか…」

「かすみ姫よ、貴女がわしに名前を与えてくれたら真の契約が結ばれる」

「ん…さっきの契約とはまた別なの…?」

「わしはまだ契約が完了したとは言ってないぞ」

「あー!そうね!言ってなかったかも!じゃ君の名前はシロね!決まり!ははっ!」

苛立って半ば適当に決めたような名前だった。


「シロ、わしの名前はシロだ。ありがとう、かすみ姫!」

「…!…な、なんだか、すごいかわいいじゃない…」


「これからも宜しくな、わしの嫁よ!」


「……はぁあああっ?!」


                        +   +   +


っと、びっくりしすぎて起きてしまった!

寝直すにも、朝になっていた。

「えええ、待ってどうなったの!?私バクのお嫁さんになったの…!?」


ハッと香澄は即座にスマホのメモ画面を開き、あのタイトルを変更した。


30歳初めての夢のタイトルは、

― 私の旦那様がバクと決まったわけじゃない! ―



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