魔神様は暇を持て余していた

@glocken_kuro

第1話 魔神様は暇と叫ぶ

 世界には神様たちが住まう神界、人間が住む人間界、人間が死んだあと行く冥界の三つの世界がありました。

 その中の神界に住んでいる神様はそれぞれが役割を持っています。神様なのだから、いいものから悪いものまで。

 創造神や、恋愛神、魔法神。日々仕事に追われている神様もいますが、その反対のほぼ仕事がない神様もいました。

 それが魔神でした。魔神の役割は、魔王を生み出すこと、勇者を選ぶこと、勇者を喚ぶこと、その三つだけでした。

 魔王はもう生み出したし、勇者の目星はつけてある。勇者を喚ぶ準備は済んでいて、あとはスイッチ一つ押すだけ。

 何も仕事がないのです。





「暇だぁ!」


 魔神リグルは自分の部屋で一人叫んでいた。

 リグルの部屋は、壁いっぱいに本が並んでいる。暇を持て余したリグルが人間界から集めたものだ。しかし、それはすべて読み終わって、読み返しも何百とした。

 人間界の娯楽も一通り遊び尽くしてしまった。人間界の食もあらかた食べ尽くしてしまった。

 神界には娯楽というものがない。

 さて、どうしろというのだろうか……。


「仕事をくれとは言わないけどさぁ……創造神の野郎と仕事量の差……」


 仕事がしたいわけではないから、創造神のところに仕事をくれと殴りこみに行くこともない。

 悩みに悩んでリグルが思いついたのは……。


「失礼します……って何やっているのです!魔神様!」

「ん……?」


 リグルの部屋に入ってきたたった一人の部下の天使が見たのは、上司であるリグルが人間のような格好をして旅の準備をしているという光景。

 驚いて声を上げるものの、次の瞬間にはリグルの考えを理解した。


「いくら暇だからって人間界に自分で行くなんて……!」

「良くない?ここに何かあったらすぐ帰って来れるゲート開いておくし……」

「い、いや……そういう問題では」


 いくら天使が止めてもリグルがやめようとする気配はない。


「創造神の許可があればいいんでしょ?行ってくる」

「ちょっと?だから……もう!」


 天使が止めているのをリグルは創造神の許可がないからだと勘違いをして、創造神のところに行こうとしだした。

 これも天使が止めようとするが天使が引きずられることになるだけで、リグルを引き止めることはできなかった。


「創造神!暇だから人間界に行ってくる!」

「魔神様……そんな言い方は……」


 創造神の仕事机には紙の山がつまれていて、創造神の体が見えなかった。

 リグルの直球な発言に創造神は紙の山の向こうでズッコケたらしく、椅子から落ちた音が聞こえた。

 天使の胃が痛くなってきた。


「文句はないだろ?じゃあ――」

「待て!人間界に行くのはたまに報告くれれば止めないから、これとこれと……あとこれ。やってきてくれ!」

「どれ……?」


 創造神がリグルによこした仕事はどれも人間界に行かなければできないような仕事だった。

 リグルが人間界に行くのならちょうど良いと創造神は考えたのだ。

 

 創造神に仕事を押し付けられたリグルは少し不満げな顔をしたものの、人間界に行けるのならいいかと断りはしなかった。

 

「じゃあ、行ってくる。何かあれば天使に言ってくれればいいから」

「はい?魔神様、何を言っているのです……?」


 聞き返した天使を無視してリグルは人間界に続くゲートを作り出してその中に入って言ってしまった。

 薄っすらと目に涙を浮かべた天使に、創造神は声をかけた。


「天使も大変だね……。魔神のこと、いつもありがとうね。これからもあいつのことを頼むよ」

「い、いえ!私にはもったいないおコトバ……!」


 天使からすれば雲の上の存在の創造神。そんな神から声をかけられたとなれば、頑張るしかない。

 うまく行けばまた、創造神と話すことができるかもしれないからだ。それを考えれば、リグルはいいことをしてくれたのかもしれない。

 天使は心の中でリグルに少しだけ感謝をした。



「うん、ここが人間界かぁ」


 人間界に降り立ったリグルは、銀髪、蒼眼の整った顔立ちをした少年の姿をしていた。人間界での一般的な服をまとい、これから旅の人に紛れてアクレシア王国の王都に入ろうとしていた。

 王都に入ったら何をしようか。リグルは考えていた。

 冒険者になって冒険したり、紹介を経営したり。学園に入って、学生という縛りの中で生活するのも悪くないかもしれない……。


「あ、人間は家名も名前に入ってるんだっけか……」


 リグルは神様である。そのために、家名というものがない。


「適当なのを名乗ってもわからないよね。そうだな……創造神の名前をもじるか」


 創造神の名前はユースリール。ならば、ユリールはどうだろう。いかにもで、いい感じではないか。


 リグル=ユリール。

 悪くないとリグルは満足だった。


「入るには……あそこか」


 リグルは、大きな壁の近くに人だかりができているところを見つけた。

 そこには、馬車もあるし武装した人間もいる。商人と冒険者なのだろう。


「すいませーん。王都に入るのってここですか?」

「そうだよ。並ぶけどね」

「ありがとうございます」


 並ぶのは慣れている。リグルは親切に答えてくれた少女の後ろに並ぶのだった。


 リグルが王都に入れたのは日が沈む頃だった。今からでは宿屋もいっぱいになっているだろう。

 一度神界に帰ろうかとリグルが悩んでいると、先程親切に答えてくれた少女がリグルに提案をした。


「ねぇ、私の家に泊まらない?もう遅いし……どう?」

「いや、いいの?オレ、キミと初対面だけど……」

「いいのよ。私の家あそこだから」


 少女が指を指したのは、斜め上。指す方向は王都の中央に建つお城。


「どれ?」

「お城だよ。わかっていっているでしょ?」

「まぁ……そうだけど。そうなら、なおさらいいの?」

「いいの」


 少女は多少強引にリグルを引っ張ってお城まで連れて行った。

 お城の門まで行くと、少女がお城に住んでいるということは本当だとわかった。

 

「マリン様……!えと……その方は?」


 少女――マリンの連れているリグルは、そのまんま素通りというわけには行かなかった。


「ん?私のカレよ!」

「は、はい?」

「なにそれ!」


 平然といいのけたマリンに、兵もリグルも驚いた。

 リグルが驚いているのを見て兵は察してくれたようで、どこか同情的な視線を向けてきた。


「だって、一目惚れしてしまったんですもの」


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