さよなら恋愛

でんち@でんち書店

第1話

 部活も終えた学校からの帰り道。降りる駅も、駅を出て向かう方角も同じだったから、近くまで一緒に帰ろうと、美雨みうはいつも部活が終わるまで待っていてくれた。この日もいつもとなにも変わらなかった。

 だけど、いつもと様子が違っていた。彼女は少し遠くを見つめて、会話もあまり弾まない。みょうだなとは思ったが、こんな日もあるだろうと、深く追及はしなかった。

 電車を降りてしばらく歩く。いつもの分かれ道に近づいたところで、突然彼女は俺の前をさえぎって、唐突とうとつにこういった。


“別れて、りょう君”


 俺の正面に立つ彼女は、そんな言葉を吐き出した。目の前がまっしろになる。彼女から強く感じる意志と目力につい、了承してしまった。

 彼女は悲しそうな姿も見せず、すぐさま俺に背を向け、去っていく。俺はこれ以上なにも言い出せなかった。

 俺はその華奢きゃしゃな背を目に焼き付けるかのように、そこにただずむことしかできない。心臓が握りつぶされそうだ。

 苦しい! 苦しい! と心が叫んでいるのが聞こえる。

 一生に一度の恋だった。もうこんな恋は二度とできないだろうと確信するくらいに。


 意図しない熱さがほおを伝う。男なのに。でもこの痛さは表現できないくらいに、俺の心をえぐっている。

 下唇を噛み締めて激情をこらえる。しかし、こらえきれず息を吐き出した。

 もう噛み締めるだけじゃこらえきれなくて、思わず走り出す。部活用の大きなカバンが、バコバコと太ももに当たっては飛ぶ。息が切れる。


 家に着くなり自分の部屋に駆け込むと、下から母さんの心配そうな声が聞こえた。

 なるべく平気そうな声で返事をすると、多少訝いぶかしく思っただろうが、母さんはすぐ引いてくれた。

 荷物を乱暴に床へ置き、何もない部屋のすみにうずくまった。

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