第9話
放課後。
廊下の通路の窓から射し込む夕暮れの光を背に浴びながら、悟は一人資料室の前に立っていた。
あの後、駆けつけた男性教師達のおかげで無事に資料室から抜け出す事に悟達は成功した。
勢いを増し、燃え盛っていた炎はスプリンクラーの水で炎は徐々に小さくなっていた為、後から駆けつけた教師達が手にしていた数本の消化器でその場を鎮火させた。
そして、スプリンクラーの水でずぶ濡れになった悟達は保健室でそれぞれジャージを借り、教師達に事情を説明した。
説明を終えた後、リリは午後の授業を出る気にはなれず、そのまま早退し、仕事場へと向かった。
念の為にリリの迎えを梨乃に頼み、そのまま彼女の護衛として梨乃を付けてある。
悟はと、言うとあの時放火に気づく直前に僅かな引っ掛かりを覚え、一人学校に残り、現場にいたのだった。
悟は数時間前、自分が閉じ込められていた資料室の中へと足を踏み入れた。
室内は先程の火災の為で資料棚に置いてあった大量の資料が黒く焼け焦げており、床はスプリンクラーの水で水浸しだった。
悟は先程真っ先に火の手が上がっていたドア口の傍にある資料棚へと足を向けた。
そしてその場にしゃがむと同時に一番下の棚にある、ある水滴を指で掬い、臭いを嗅いだ。
ツーンと鼻につく臭いがするそれは、一般的にある学校のプールの消毒液などに使われる次亜塩素酸ナトリウムだった。
そしてその近くに割れた小さなプラスチックミラーの破片と、湿気った小さな紙切れがあった。
その紙切れを悟は手に取り、その場から立ち上がると共にドアの冊子(さっし)へと見やる。
そこには僅かに水滴が付いており、ドアの端から流れるよう水滴のあとが資料棚の一番下の棚へと伝っていた。
(なるほどな。そう言う手口か……)
悟は目を細め、そして一瞬で理解した。
つまり犯人は悟達がこの室内に入って来る前に一度入り、ドア口のすぐ傍にある資料棚の下に塩素酸ナトリウムで湿らせ、ふやけた資料を棚に置き、その近くにプラスチックミラーを太陽の光が反射出来るようにあらかじめセットしておいた。
だが、それだけでは燃えないおそれがある。
だから犯人は悟達が室内へ入った後、鍵を外側から駆け、同時に周囲に誰もいない事を確認し、ドアの冊子から塩素酸ナトリウムを流し入れたのだろう。
犯人は資料室に行く際にすれ違ったリリの幼なじみである桐生時雨に間違えない。
あの時、悟は桐生時雨が幼なじみであり、同時にリリに好意を寄せている事にすぐに気づいた。
それでいて悟はわざと彼に吹っ掛けたのだ。
結果。
彼は見事に引っ掛かった。
それも自分に敵意を向け、警告までしてきた。それもただの脅しではなく、彼の目には殺気がこもっていた。
悟はズボンのポケットから一つのデバイスを取り出した。
それは悟自身が一から自作し、カスタムしたオリジナルのデバイスだった。
悟はそれを操作し、デバイスの中にある一つのアプリ『sekirithilogic』と記載されたアプリを指でタッチした。
すると、数日前に唯月から送られてきた情報が記載されていた。
情報の内容は施設『四つ葉の家』と施設の画像の中にあった幼い星野リリの隣にいた少年の事だった。
『四つ葉の家』は普通の施設であり、特に変わった様子などはなかった。
それと同時にリリの傍にいた幼い少年の名は”桐生時雨”と言う名の少年だった。
彼は幼い頃両親を亡くし、親戚と絶園状態だった為、彼は施設に引き取られた。
それから暫くして、リリと出会ったのだった。
最初誰にも心を開く事なかったリリを彼は自ら積極的に声を掛け、次第に彼は彼女と友達になった。
元々明るく、面倒見が良い性格な為、彼女と打ち解けるのにもそうそう時間は掛からなかった。
彼女が小学生の頃、虐めにあっていた時も彼は彼女を守っていた。
だが、彼女がアイドルデビューしたその後、
彼女とは会ってはおらず、彼はこの学校の特待生制度の受験をし、合格している。
そして、まだ中学生と言う事もあり、国から生活費などの援助を受けながら、施設を出て、現在学校の寮にいる。
それは施設側にとって特例なケースだった。
おそらくこれは悟自身の感だが、桐生時雨は一度リリへと告白をし、フラれているおそれがある。
だが二人の間でフラれても今までと同じ友達のような関係をお互い意図的に維持している可能性がある。
それに、もし仮にリリ自身が桐生時雨が犯人だと勘づいている可能性があれば、彼女の矛盾な言葉、言動にも色々納得がいってしまう。
だが、同時に妙な引っ掛かりと違和感も存在する。
先程、悟はスプリンクラーを作動させる為に掃除用具上にあった殺虫剤を使い、スプリンクラーを作動した。
なぜタイミング良く、あんな場所にスプレー缶があったのか?
あの時リリには適当に誤魔化したが、もし仮にリリを資料室の中で焼き殺すとしたら、あそこにあるのは不自然だ。
それにもし、火の手が周りスプレー缶まで引火すれば爆発などは起きるが、同時に大きな騒ぎになる。
騒ぎになれば、敵も動きにくくなる筈だ。
犯人の……桐生時雨の目的は一体何なんだ……
悟は思考を断ち切り、そしてデバイスの電源を切りながら、小さく呟く。
「取り敢えず、やっぱ、ライブの時に敵は仕掛けてきそうだな……」
そう言いながら彼はデバイスをズボンのポケットにねじ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます