この日常風景で休息を!

のーたむ

第1話 冬の日

冬である。

アクセル周辺には昨晩降った雪が柔らかく積もっている。

そんな中、俺は爆裂散歩に付き合わされていた。寒い。

雪の中をあまり遠くまで行くのはだるいので、今回は近場で撃たせることにした。

雪原に打ち込まれた爆裂魔法は、暖かい爆風に乗せて積もった雪を舞い上がらせていた。

「寒さのせいか威力は控えめだし、舞い上がっていて視界が悪くなっている。しかし爆風からは快い暖かさが感じられたこのに加点して、今日は87点だな、」

「ぐぬぬ…寒さに負けるようではいけませんね。寒いですし、さっさと帰りましょう」

いつも通り、爆裂魔法を採点していると…

「敵感知スキルに反応がある」

雪に遮られて何も見えないが、爆裂魔法の衝撃でモンスターが出てきてしまったようだ。

「おいめぐみん、どこだ?モンスターが出てくる前にさっさと帰ろうぜ」

「そうですね。早く助けてください」

え?返事が上の方から聞こえてきたんだけど?あれ?これってもしかして…

『ウィンドブレス』

雪を飛ばすとそこには…

カエルがいた。

「って、食われてんじゃねー!」



ーーーーーーーーーーーーーーー



2匹目のカエルに見つかる前になんとか逃げ出すことができた。

ヌルヌルになっためぐみんを背負って帰るのはさすがに嫌なので、ドレインタッチで体力を分けてやった。

屋敷ではアクアがこたつでみかんを食べている。俺たちはカエルに襲われたってのに、こいつは…

そんな怒りもこたつに入るとあっという間に消え去った。

「やっぱ冬は外出したくないな。こたつでゆっくりしているのがベストだ」

そんなことを呟いていると風呂に入って来ためぐみんが

「そんなこと言わないで明日も爆裂魔法に付き合ってくださいよ」

「嫌だ。アクアにでも連れて行ってもらえ」

アクアに振ったが、

「嫌よ。めんどくさい」

だろうな。

ダクネスにでも連れて行ってもらえばいいのに。あいつならこの寒さですら適温だろう。

「そういえばダクネスはどこにいるんだ?」

「私ならここにいるぞ」

紅茶を持ってきたダクネスとこたつに入る。やっぱりこたつっていいよな。

「カズマ…そんなこと言わずに明日も」

「嫌だ」

「めぐみんもそんなこと言わないで春までこたつで待ってればいいじゃない」

「春まであと2ヶ月もあるじゃないですか!そんなに待てるわけないじゃないですか!」

「それなら明日は私が付いて行ってやろうか」

「嫌ですよ。ダクネスに背負われていると痛いですから」

即答するのか…爆裂魔法さえ撃てればどうでもいいわけじやなんいだな。

そんなこと言っていためぐみんは何かを思いついたように、

「あ。春までを待のではなく、冬を終わらせば…」

そう言って俺の方を向いためぐみんが固まった。

「あ…やっぱり今のはなかったことにしてください」

一体何をしようとしたんだよ。

「それよ!今年も雪精討伐に行きましょうよ!今度こそ雪精が欲しいのよ!」

「おお、久しぶりにクエストを受けるのか。今年も冬将軍が楽しみだな」

なるほど。雪精か。めぐみんが諦めたのは俺が前回死んだことを気にしているのだろうか。

「俺は行かないぞ。何度も死んでたまるか」

「何言ってんのよ。どうせ私が蘇生してあげるんだからいいじゃない。それに…えーっと、リベンジよ。私たちだってレベルが上がったんだから、冬将軍にリベンジするのよ!」

「お前は成長してないだろうが!駄女神が!せめて人並みの知力を得てから言え!」

「あ、あのー…別に私は行かなくてもいいのですが…」

「めぐみんも春が早くなったら爆裂魔法が撃てるんだから来なさいよ!カズマが死んでも蘇生するんだから問題ないわよ!」

「何言ってんだよ!俺の命はそんなに軽くねーよ!それに、いくらリザレクションがあっても痛いもんは痛いんだよ!」

「もうういいわよ!カズマさんなんていなくてもなんとでもなるわよ!めぐみん、ダクネス、付いてて来なさい!」

「え、ちょっと待ってくだ…」

行ってしまった。あいつらだけでクエストか…面倒なことになりそうだし、潜伏スキルを使ってついて行くか。



ーーーーーーーーーーーーーーー



クエストを受けたアクアたちはギルドの職員に不安そうな目を向けられながら元気よく討伐に向かったが、めぐみんが残っていた。

「あれ?お前は行かないのか?」

「私はもう爆裂魔法を撃ったじゃ無いですか。クエストなんて行けるわけないですよ。むしろカズマはなんでここにいるんですか?」

「お前らだけでクエストに行くことがどれだけ不安か分かるか?面倒なことになる前に止められるように潜伏スキルでこっそりついて行くつもりだったんだよ」

「なあ、あいつらだけで大丈夫だと思うか?」

「ダクネスがやられることはないでしょうし、アクアなら土下座が上手ですから、大丈夫だと思いますよ」

「アクアがいるんだ。そんなに順調に行くわけないだろ。念のためついて行くぞ。めぐみんも行くか?」

「そうですね。役には立ちませんが、私も行きますよ」

めぐみんは戦力にならないからなぁ…そんなことを考えていると視界の端にある人物が映った。

「ゆんゆんに手伝ってもらうか。ゆんゆんがいれば安心だしな」

「そうですね」

ゆんゆんに近づくと、待っていたかのように

「めぐみん!偶然ね!こんなところで会うなんて…」

「無理に偶然を装わなくていいですから、ちょっとアクアたちを追いかけるので手伝ってください」

「め、めぐみん?何を言ってるの?これは偶然…よ?」

「無理すんな」

「うわあぁぁん」

ゆんゆんは逃げ出した。

扱いづらいなぁ…でも、誘うのは非常に簡単だ。

「こんなことを頼める友人はゆんゆんくらいしかいないんだよ。頼むから付き合ってくれよ」

「え?私だけ?そ、それならしょうがないわね」

うん。ちょろい。不安になるくらいちょろい。

とにかく、これでモンスターが現れても安心だ。

「さて、アクアたちを追いかけようぜ。まだ街を出たばかりだろうし」

こうして俺たちもギルドを出た。



ーーーーーーーーーーーーーーー




雪精の討伐。あいつらは雪精の討伐に行った。はずだよな?

「なあめぐみん?受けたクエストは雪精の討伐で合ってるな?」

「合ってますよ。ダクネスは冬将軍に会いたがってましたし」

それなのに…あいつら、一体何やってんだ?一応は高レベルの上級職だよな?

「ねえ?本当に助けに行かなくていいの?なんだか可哀想に思えて来たんだけど…」

「大丈夫だ。勝手にクエストを受けることの無謀さをあのバカに覚えさせてやる」

今、アクアはアクセルの街のすぐそばで…

「いぃやああああぁぁぁぁ」

初心者が討伐できるはずの…

「うわあああぁぁんダクネスー」

ジャイアントトードに追われている。

アクアが食われたら助けるようにゆんゆんに言ってあるが、今回はかなり逃げ足が速いな。

「なぜこっちに来ないのだ?私を捕食してみろ!」

ダクネスはカエルに嫌われてるのかな。カエルの本能であいつの危険性に気づいているのか、金属鎧を避けているだけなのか、わからないが。

潜伏スキルを発動させながら観戦していると、ついにアクアは食べられた。

「ねえ?もう行っていいよね?さすがにもういいよね?」

「ああ、いいぞ。偶然ここにいる設定で行ってこいよ」

『ライトオブセイバー!』

アクアを捕食中のカエルはあっという間に切り裂かれた。爆裂魔法と違って死体も残るし、本人は倒れないし、上級魔法は便利だな…やっぱりこいつにも覚えさせるべきだったかな…

「おい、今何を考えたのか言ってもらおうじゃないか」

「…爆裂魔法の方が強力だなって考えてました」

「では、明日はカズマに爆裂魔法よ威力を体験させてあげましょうか」

「すいませんでした!」

俺は素早く土下座した。

一方ゆんゆんに助けられたアクアは、死んだような目で

「帰る。もうこたつから出ない」

おい、お礼くらい言えよ。

「ありがとう。ところでゆんゆんはこんなところで何をしているんだ?」

ゆんゆんがこっちに目を向けてきた。助けてやらんぞ。俺たちは目をそらす。

「ぐ、偶然よ。なんとなく街を出てきただけなのよ」

あいつ、嘘が下手すぎる。俺たちのこと、バレないだろうか。

「なんだ、最初からついてきていたのか。めぐみんならもう爆裂魔法を撃ってしまったからギルドで待っているぞ」

「え、ああ、そうなの。それでは、さ、さようなら」

おお、ダクネスよくやった。

ゆんゆんは無事、帰ってきた。

「私たちもギルドに帰りましょう。何事もなくアクアが帰ってくれるならもう安心ですからね」

「ゆんゆんは先にギルドに向かっていいぞ。今日はありがとうな。お礼に今度何か奢ってやるよ。俺たちは屋敷に戻るからさ」

ゆんゆんと別れ、俺たちは帰路についた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「おかえり。アクア、ダクネス早かったな」

俺が屋敷についてしばらくするとアクアたちが帰ってきた。

「冬だってのにカエルがいたのよ!なぜか私ばかり追われて…なんでこうなるのよ!私、何も悪いことしてないのに!」

「近寄るな、気持ち悪い。さっさと風呂入ってこいよ」

俺までヌルヌルになりたくない。

アクアはいつまでもヌルヌルなのが嫌なのか、素直に風呂に向かった。

「今日はゆんゆんがついてきてくれていたみたいでな、危ないところを助けてもらった。こんな寒い中カエルが起きているのは驚いたが、何事もなく済んでよかった」

カエルが起きている理由を知っている俺たちは顔を見合わせる。

「そうか、ゆんゆんにはお礼に今度何か奢ってやるか」

そう言って、めぐみんに引っ張られてリビングを後にする。

「明日はもっと遠くまで爆裂魔法をうちに行きましょう」

そんなこと言われても…寒いし。本当に雪精討伐に行って春を早めた方がいいんじゃねえか?

アクアも言っていたが俺たちもレベルが上がったんだ。さすがに前回のように殺されることはないだろう。

それに、爆裂魔法を撃たせてさっさと逃げかえれば冬将軍に見つからずに帰れるんじゃないかな。

念のためアクアとダクネスも連れて雪山まで爆裂散歩に行くとするか。

「そうだな。明日は雪精の中に爆裂魔法をうちに行こうぜ」

「えっ」

「さすがに前回のように殺されることはないさ。俺たちはレベルも上がったし、経験も積んだんだ。それに春が早く来れば散歩にも行きやすくなるじゃないか」

「カズマがいいのなら…この冬を我が手で終わらせてやりましょう!」

こうして俺たちは再び雪精の討伐に向かうことにしたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーー




翌日、カズマ御一行が雪精討伐に向かうのはまた別の話。

おそらく書きません。

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