掃除中に出てきた古いものたち
もなか
第1話私的☆夢十夜 第一夜
こんな夢を見た。
私はまだ幼く、右手に象の形をした蔦色のじょうろを持っていた。そして、そのじょうろで校庭いっぱいに咲いた、朝顔に水をやっていた。空は青く、雲は上へ上へ向かっていた。私は全身で汗をかいていた。校庭は、私の知らないところまで続いていて、先のほうで空とひとつになっていた。その全てに、私は水をやらなければならなかった。
これは、何かの罰なのだということは、わかっていた。しかし、自分が何をしてしまったのかは覚えていなかった。私は、ただその朝顔に水をやっていた。じょうろの中の水は、八分目くらいから増えることも、減ることもなかった。
「―――――」
私の口から漏れた名は、私が朝顔に付けた名前だった。幾分か前に付けた名で、その時私が欲しかった名前である。私は、その異国風の名が欲しくてたまらなかった。そしてそう名乗れれば、どれほど幸せになれるだろうかと考えた。だが、それは無理なことだった。何故なら私には他の名前があって、どうしてもその名を捨てるわけにはいかなかったからだ。だから、かわりに目の前にある朝顔にその名をやったんだ。
少したつと、茶色と白の斑模様の鳩が頭の上を飛び立った。そして、またしばらくするとその鳩は元のところへ戻ってきた。そして
「おまえは、何をしているのだ?」
と、聞いた。私は、償うために水をやっていると答えた。すると、鳩は再び聞いた。
「いつからだ?」
私は、七十年前からです。と答えた。多分、それくらい前からここにいる気がしたから。鳩は、くるっくぅ、と一声ないた後また問いかけてきた。
「いまだ、罪は許されないのか?」
私は、はい。と答えた。それから、私の罪は、ずっと重いのです。と言った。
「哀れだな」
鳩は、それだけ言って、始めに消えた方向へと消えていった。私は、水をやっていた手を少しだけ休めることにした。そして、再び空を見たが雲と青しかなかった。
それから、私はまた水をあげ始めた。あいかわらず、空は青く雲は縦に延びていた。ふっと、空の端を見上げると、その先から、幾羽も連なった白い鳩が飛んできた。その鳩は、私の頭上をゆったりと飛んでいった。
そして、私は思った。罪は許されたのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます