第16話

 国中が沸きあがっていた。

 国庫が開かれ国民にも旅人にも、多くの人に豪勢な食事が振舞われる。

 広場には櫓が立てられ、楽師たちが陽気な音楽を奏で続け、その周りでは男が、女が、子供が、大人が、老人が、身なりの良い者も、質素な姿の者も、手を取り足を鳴らして踊る。その中には少数ではあるが灰色の肌や緑色の肌、毛皮を持つものも混じっている。

 踊る人々は広場だけにはとどまらず、大通りにも一杯で、あちこちが陽気な喧騒に渦巻いている。

 件の遺跡の前には台座が設けられ、その台座の上に遺跡から引き上げられたキマイラの亡骸が晒された。

 兵士数十人がかりで引き上げられたキマイラは、死しているとはいえその異様な風貌に民衆は恐れ、恐れるがゆえに怖いもの見たさに人が集まり、既に害は無いと知るや見物人の数は膨れ上がり、その異形を観た全ての人の口から、倒した者への賛辞が湧き上がる。

 しかもそれはたったの四人。そのうちのひとりはまだ幼さの残る少年で、その少年が隊を率いているという。

 物知り顔の男がキマイラのライオンの顔を指差して嘯く。

『あの眉間の傷、隊を率いる少年が振り下ろした戦鎚で打ち砕いて出来たあの傷が、とどめの一撃って話だぜ』

 その言葉に歓声が上がる。

 あの凶暴な顔の前に立ち、その眉間に戦鎚を振り下ろすなんて、並みの人間が出来ることじゃない。

 なんという技量。

 なんという胆力。

 勇者と名乗るにふさわしい。

 そんな噂が流れるのに、たいした時間はかからなかった。

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