第5話

「バルコニーがあるよ」

 通された部屋から可彦は外に出る。ネフリティスも後に続く。

 広いバルコニーにはテーブルに椅子が設えられ、そこから見える庭は背の高い木々が植えられており丁度目隠しになっていた。さらにバルコニーの隅には庭に下りる階段まで備えてある。

「街に出るのにここから降りても問題無いですか?」

「ご自由になさってくださって結構です。それでは私はこれで」

 バルコニーまで付いてきていた案内は一礼すると部屋の中に戻る。扉の開閉する音が小さく聞こえた。

「軟禁サレル訳デモナサソウダナ」

「どうかしら」

 バルコニーに出てきたバルゥに対して、後についてきたミランダが答える。

「カーンウーラにいる限りは掌の上って言ただけだと思うけど」

「同感ですね」

 ネフリティスは室内に戻っていく。可彦も後について室内に戻る。

「でもゆっくり休めそうだよね」

「その点もまぁ同感ですね」

 バルコニーにつながる部屋は居間だ。テーブルにクッションの置かれた長椅子が二脚。床には絨毯が敷かれてる。

 その隣が寝室。大きなベッドが二脚。小さな丸テーブルと椅子。

「ナンダコレ?」

 ベッドに手をかけたバルゥが驚きの声を上げる。声を上げながらさらにベッドに手を乗せる。マットレスの中に手が静かに沈んでく。

「コンナ柔カイ藁ナンテアルノカ?」

「これは水鳥の羽毛を使ってますね」

「贅沢ダナ」

「ちょっとまってください」

 ベッドに飛び乗ろうとするバルゥをネフリティスが制する。

「そのまま飛び乗る気ですか?」

「不味イカ?」

「汚れた布団で寝たくなわ」

 ミランダの言葉にバルゥは自分の姿を見る。見てからベッドに置いた手を放した。

「ここ浴室じゃない?」

 そうって可彦が覗たのは寝室のさらに奥の部屋。

 モザイク模様に鮮やかに飾られたタイル貼りの小部屋で壁には牙の生えた猛獣のような動物の頭を模した彫物があり、その横に取っ手の付た丸ハンドルがある。

「これ回すのかな?」

 可彦はハンドルに手をやると回す。重い。さらに力を入れてみる。次第まわり始めると弾みがつくのか次第に軽くなる。程なくして猛獣の口から水が流れだし下に置かれた桶に水がたまり始める。

「冷たい」

 桶の水をミランダがすくう。

「どうせなら浴場に行かない?」

「あ、それは良いですね」

 ミランダの提案にネフリティスが食つく。

「浴場?」

「公衆浴場ですよ」

「風呂ヨリモ何カ食ベタイ」

「浴場でも食べらえるわ」

 バルゥの不平にミランダが答える。

「頼めばここにも浴場はあるでしょうし食事もとれるでしょうけれど、替えの服も買たいですし、見物がてら出かけてみましょうか」

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