第69話 禁忌
僕達は、セリアが見つけた怪しい場所に行ってみることにした。出来る限り近づこうと、その場所の真下までやってきた。
階段が繋がらないのだから、普通は行くことが出来ないだろう。ただ、魔法を使うのなら話は別だ。
司書さんに見つかると何を言われるかわからないので、派手な魔法は使えないが、ここから例の場所への距離は五メートル程だ。このくらいなら身体強化だけで問題ない。
それに、そもそも五メートル程度なら派手な魔法は必要ない。セリアも風の魔法で浮遊出来るので問題なく行くことが出来る。
「じゃあ、見つからないように素早くいくよ」
「ん」
フューも頭の上で胸を張り、やる気を示した。
いや、フューは僕の頭の上にいるから、何もしなくていいんだけどね。
誰もこちらを見ていないのを確認すると、身体強化魔法は常時発動しているので、そのまま地面を強く蹴った。その際、図書館の床が陥没しないように魔力で強化するのも忘れない。僕が高速で動いたために発生する風も、魔法で制御して周囲の人に気づかれないようにする。
無事目的地に到着した僕は、一瞬遅れて風魔法で楽々浮いてきたセリアを見る。
……うん。セリアと同じように風魔法で来た方が簡単だったね。次にこんな機会があったら素直に風魔法を使うことにしよう。
僕がそんな反省をしている間に、セリアは本棚に手を伸ばし、一冊の本を手に取った。本を開き、中身を読み始める。
「どう? どんなことが書いてあった?」
「……読めない」
そう言ってセリアはその本を差し出してきた。僕はそれを受け取り、表紙を見てみる。
『ちっ、エルフ語かよ。人族でエルフ語を読めるやつなんていねぇぞ。オレもほとんど見たことがねぇくらいだ』
なるほど。よほど読まれたくないのか、一般的ではない言語で書いてあるようだ。何かの偶然でここに来た人も、読めないとなると興味を失ってしまうに違いない。この場所自体は隠されているわけでもなく、大切な物を置いてあるようには見えないしね。
それにこれが重要な物だときづかれても、読めないのなら問題ない。そう、読めないのなら。
「《禁呪大全》って書いてあるね」
……なぜだか僕には読めてしまうみたいだ。
『あぁん? これが読めるのか?』
「エルフ語、知ってる?」
「いや、初めて見たよ。でも元から知ってたみたいに読めるんだ」
そういえば、人族の言語も習ってもいないのに何故か読めたね。前世ではこんなこと有り得なかったし、ソルと魂が混ざってソルの知識が入ってきた? いや、エルフ語はソルも知らないみたいだからそれは違うか。
「とりあえず、中を読んでみるよ」
僕がエルフ語を読める原因については一旦置いておき、本の中身にざっと目を通してみた。
《禁呪大全》には、そのタイトル通り様々な禁呪が載っていて、その中にはフラムが使った禁呪の魔法陣と詠唱も載っていた。
魔術だけでなく、魔法や魔術に関することで、禁忌とされたことも載っていた。その中で一番興味を惹かれたのは魔石を人が摂取して魔力を増やすという実験についてだった。
魔力を増やす方法を研究していた魔法使いが、魔力の塊である魔石に着目した。これを摂取、すなわち食べれば魔力が増えるのではないか、と。
結果として実験は成功した。魔法使いの魔力は確かに増えた。それも一年間修行して増える魔力と同じ量が。
だが、その反動なのか魔法使いは十年間、魔法や魔術を使えなくなった。これは異質な魔力を取り込んだせいで魂が傷ついたからだと推測される。
デメリットは大きいものの、魔力量を増やせるというのは非常に魅力的な話だ。魔法使いはその後も奴隷や協力者を募って実験を続けた。デメリットを無くす方法を模索したのだ。
その実験は、三年後に実験場のある町の消滅という形で中止された。実験場で街を吹き飛ばす程の大爆発が発生したのだ。これは、魔石を取り込み続け、魂の損傷が限界に達して魂が崩壊したのが原因だとみられている。
以降、魔石を人体に取り込む実験は禁忌とされた。
『……世にあっていい本じゃねぇな』
「ん、危険」
二人に本の内容をざっくり話すと、呆れたような反応が返ってきた。
「他の本もこんな内容なのかな……。存在してはいけない本をここに集めたとか?」
僕は《禁呪大全》を本棚に戻そうとし――セリアに腕を掴まれた。
「もっと、詳しく」
「いや、魔族について探さないと。それにこの本全部僕が朗読するとなるとかなり時間がかかるし……」
セリアは腕を離してくれない。セリア魔法が大好きだからなぁ。禁呪にもかなりの興味があるんだろう。どうしたものかと考えていると、フューが《禁呪大全》を体内に取り込んだ。
「フュー!? 何してるの!? それ食べ物じゃないよ!?」
僕が思わずそう叫ぶと、フューは本を吐き出し、怒りをぶつけるように僕に体当たりを食らわせたあと、その体を一冊の本に変身させた。
「これは、《禁呪大全》? もしかして――」
僕はフューが変身した本を開いてみる。外側だけでなく、中身までしっかりと再現されていた。
「なるほど! これでいつでも読めるってことか! ナイスだよフュー!」
「ん、フュー、偉い」
フューが変身を解くと、セリアはその頭を撫でた。フューは嬉しそうにぷるぷると震える。
「じゃあこれで遠慮なく魔族について探せるね」
そう言って僕は本棚の中から無作為に一冊の本を手に取った。
「お、早速当たりみたいだ」
その本には、《魔族と人族の歴史》と書かれていた。
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