第11話 セリアの魔法の練習
『おい、まだダメなのか?』
セリアの笑みに見蕩れていたがソルの声で正気に戻る。慌てて感覚共有を戻した後、ふと空を見上げる。もうすっかり夕焼け空になっていた。
「もうこんな時間だし、家に帰らないとね。お父さんとお母さんも心配してるだろうし早く帰ろっか」
僕がそう言うと彼女は少し沈んだ表情を見せた。
「……そんなことない……」
「えっ」
「パパもママも……私なんて……」
その言葉から僕は何か事情があるのだと悟った。
「家の近くまで送るよ。家はどっちかな?」
セリアは無言で家の方角を示した。
セリアの家までの道のりはお互い無言で歩き続けた。しばらく歩き、ようやくセリアの家らしきものが見えはじめ、もう少しでセリアの家だというところでセリアは僕の手を離した。
「ここまででいい……今日は…………ありがと」
セリアは少し離れて僕に小さく手を振ると、小走りで家の方に駆けていった。
セリアが扉を開けた時、ただいまという声は微かに聞こえたが、その返事は聞こえなかった。
◇◇◇◇◇
あれから家に帰り、ご飯を食べ風呂に入った後僕はベッドの上で転がりながらソルと話をしていた。
『で、あのガキどうするつもりだ?』
あのガキとはセリアのことだろう。
「どうするって?」
『魔法を教える約束したんだろ? だがお前に教えられるのか?』
「んーとね、それはソルにお願いしたいんだよ」
『あぁ? どうやって? オレの声は届かねぇぞ?』
「ソルが説明してくれれば僕が伝えるからさ」
『やだよめんどくせぇ』
「頼むよ。簡単な魔法だけでいいからさ。あの子も魔法に憧れてるだけだろうしちょっと魔法が使えれば満足するさ」
『ちっ……少しだけならやってやってもいい。だがその代わりお前が前に言っていたカガクってやつ、詳しく教えろ』
「りょーかい。だけどそんなに詳しくないよ?」
『あぁそれでもいい。カガクってのは興味深いからな』
「そうだね、じゃあまずは電気について話をしようかな――」
◇◇◇◇◇
「ふわぁぁ」
僕はベッドから上半身を起こすと大きくあくびをした。
いつも通りの時間に起きたはいいがまだまだ寝足りない。昨日はソルがなかなか寝かせてくれなかったのだ。
「ソルに睡眠は必要なくても僕には必要なんだからね……」
『魔法をあのガキに教える対価だろ? そんくらい我慢しやがれ』
「だからってもう少し手加減してくれたっていいのに……」
僕はグチグチ言いながら服を着替える。着替え終わると朝ごはんを食べに行く。
ササッと朝ごはんを食べ、外に行く準備をする。
「行ってきまーす」
「ソーマちゃんちょっと待って〜」
僕が外に行こうとすると母さんが呼び止めてきた。
「ソーマちゃん。はい、これ。今日も遅くなるんでしょ〜。だったらこれを持って行きなさい」
そう言って母さんが渡してきたのはサンドイッチだった。だが昼食用だとしても量が多い。
「おかあさん、これ多いよ?」
「お友達も一緒なんでしょ〜。仲良く食べるのよ〜」
「なんでわかったの?」
「ふふふ〜。母の勘よ〜」
サンドイッチの量は明らかに二人分だ。もしかして人数まで分かっているんだろうか。だとしたら恐ろしいほど鋭い勘だ。
少しだけ恐怖を感じながら母さんにお礼を言うと、セリアと約束した場所に向かって歩いていった。
目的の場所に辿り着くと、既にセリアは来ていた。セリアはソルが作った土人形を眺めているようだった。彼女は昨日と同じ白いワンピースを着ている。
「おはよう、セリア。早いね」
僕はセリアに声をかけた。それでやっと僕が来ていることに気づいたのか、僕の方を振り返った。
「……おは……よう、ソーマ」
何故だか戸惑ったように言うと僕の方に近づいて来た。
「魔法……早く……」
僕の服を少し引っ張り、せがんでくる。
「はは、わかったよ。魔法を教えるのはソルに頼もうと思うんだ。ソルの方が魔法に詳しいからね」
「ソル……中の人……?」
セリアは昨日言った事を覚えていたらしい。
「そうだよ。でもソルの声はセリアには聞こえないから僕が伝えるんだ」
「ん、わかった……」
「それじゃあソル、お願いするよ」
『まずはそのガキの頭に手を置け。何の属性が使えるかとか、適正の高さとか、魔力量を調べる』
頭に手を置くだけでわかるのか。簡単だね。
「セリア、今から君の魔法の才能を調べるから頭に手を置いてもいい?」
「ん……」
僕はセリアに一言断った後、彼女の銀の髪の上に手を置いた。サラサラとした感触に少しドキッとするも、それを表に出さないように堪える。
『……すげぇな。全属性の魔法が使えるぞ。しかも魔法の適性が異常なくらい高い。これはオレ以上だな……魔力量もオレと同じくらいはある……』
「え、ソルって魔導師でしょ? そのソルよりも適性が高いの!?」
驚きのあまり叫んでしまうと、セリアが不思議そうな目で僕を見ていた。
「あぁごめんごめん。セリアの魔法の才能が凄いらしくて、それに驚いてただけだよ」
「ほんと……?わたし……魔法使える……?」
「あぁ、とっても凄い魔法使いに成れる才能があるんだって」
僕の言葉にセリアは目を輝かせた。まぁ、表情は変わっていないから気のせいかもしれないけど。
『じゃあ魔法の使い方を説明するぞ。まずは体内の魔力を感じることからだ。
「えーと、まずは自分の中にある魔力を感じる必要があるんだって」
僕はソルの言葉をセリアに噛み砕いて伝える。
『やり方はだな、まず丹田の辺りに集中して、そっから体中に流れているものを感じるんだ。感じ方は人それぞれだが大抵は暖かく、力強いものを感じるらしいな。魔力は体内を巡っているからそれをイメージしながらやれば簡単だ』
ソルが一気に説明する
「え、えーと、まず丹田の辺りに集中してそこから流れる暖かくて力強い体内を巡る……あぁー! 一気に言われるとわかんないよ!」
『あぁ? ちっ、めんどくせぇな。お前と俺が入れ替われたら楽なのによぉ』
ソルの言葉に僕も共感した瞬間、体が強く引っ張られた。いや、そんな感じがしただけで体は実際には動いていないようだ。
何が起きたのか確かめようと自分の体を触ろうとするが、手が動かない。手だけではなく、足も口も何もかもが自分の意思で動かせなくなっているようだ。
「ちっ、何が起きやがったんだ」
聞き慣れた僕の声がする。だがその声は僕が意識して発したものではなく、口調もいつもと違っていた。
『どうなってるの!?』
「あぁ? なんでお前の声が頭に響いてくるんだよ……体が動かせる?……もしかして入れ替わっちまったのか?」
『えっ……確かにそう考えるとしっくりくるね……』
「へぇ、入れ替わるなんてことが出来んのかよ。もっと早くに気づきたかったぜ」
僕とソルが話していると、セリアが小首を傾げてこちらを見ているのに気づく。
セリアからしたら急に僕の口調が変わって、ブツブツと独り言を言い出してるように見えるんだもんね……そりゃ戸惑うよね。
『ソル、セリアが困ってるよ! 説明してあげて!』
「あぁ? そうだな。おいガキ、今のオレはソルだ」
『ちょっと! 説明雑すぎるよ!』
「ソル……?」
セリアがその青い目でじっと僕を、いや正確にはソルを見つめてきた。
「ソーマ……は……?」
「あぁ、今はオレの中にいる」
「なら……いい……」
もしかして僕が消えたのかと思って心配してくれたのかな……? だったら嬉しいな。
「魔法……教えて……」
あ、もう僕に興味無いんですね……魔法の方が大事ですか、そうですか。
「あぁ、わかった。アイツとも約束したしな。一々通訳がいらねぇなら楽でいい」
ソルはそう言った後、セリアに魔力の感じ方を教えた。
「ん……なんか……ある……」
「へぇ、もう掴めたのか。早いな。じゃあ次はそれを動かして右手にありったけ集めてみろ」
セリアは集中しているのかしばらく自分の右手を見つめたまま微動だにしなかった。
数分後セリアがようやく口を開いた。
「ん……できた……」
「本当か? 普通ならそこまでに二、三日かかるんだが……まぁいい今度はそれを風属性に変換してみろ。そうだな……草原に吹く風をイメージしながら魔力をひっくり返すイメージだ」
『ソル、変換のイメージならわかりやすい火属性がいいんじゃない? 熱ってわかりやすいし……』
(それで火魔法を暴走させてここら一帯を焼け野原にしかけたのは誰だったんだろうなぁ?)
全く言い返せないソルの言葉に僕は口をつぐむ。
『うっ……』
(それに風属性なら暴走しても大したことねぇしな。イメージをただの風にしとけば被害は無い)
僕達が話している間もセリアは集中しているようだった。しばらくしてセリアが顔を上げた。
「ん……できた……」
「んじゃあ、風が吹くのを強くイメージしながら魔法の発動を念じてみろ」
ソルがそう言った時、僕はあることを思い出した。
『そういえば魔力量の調節してないよね? 暴走するんじゃないの? 危なくない?』
(もちろん危ねぇよ。だが魔力を魔法に変える時のパスみてぇなもんの大きさは、初めて使うの魔法にどれだけ魔力を使うかで決まるんだよ。で、そのパスがデカければデカいほど強い魔法が使える。訓練すりゃあ拡張は出来るが、かなり難しいんだよ。どうせなら楽な方がいいだろ)
そうなのか。だったら僕が最初の魔法に魔力をたくさん注ぎ込んだのは、結果的には良いことだったのか。
『なるほどね。でもセリアはソルより魔法の適正は高いんだよね。魔力量もソルと同じだって……暴走したら受け止めれるの?』
「あぁ? おいおい、オレを誰だと思ってんだよ。初心者の魔法なんて、いくら適正が高く、魔力が多かろうと――」
セリアの魔法が発動し、台風なんて目じゃないくらい強力な風が吹き荒れる。周りの木々が根こそぎ吹き飛ぶかと思われた瞬間――
「簡単に打ち消せるんだよ」
ソルの魔法が瞬時に発動し、風を一瞬で打ち消した。草木一本揺れない、無風の状態が周囲に訪れる。
セリアの普段より少し大きく開かれた
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