第9話 融合魔法

 朝の暖かい日差しに包まれ、僕は目覚める。大きく伸びをして体もしっかりと目覚めさせると、さっきの出来事について考える。


「夢、だったのかな……」

『夢じゃねぇよ』

「うわぁ! びっくりした……おはようソル」


 まだ寝ぼけてる時に、頭に響くソルの声は心臓に悪いよ……でも前世ではこんな事じゃ驚かなかったのにな。五年間も平和に暮らしてたからなまってきたのか、それとも体に精神が引っ張られて幼くなってるのか……どっちにしても気を引き締めなきゃね。


「それで、夢じゃないってどうして言いきれるの?」

『オレは魂だけの状態だからか、寝る必要がねぇんだよ。だから夢なんて見るはずもねぇ。だからさっき神様だとかいうやつにあったのは現実のことだ。その証拠に、ほら左手を見てみろ』


 ソルの言葉に従い左手を見てみると、青い宝石が光を反射し優雅に輝いている指輪があった。


「これって神様からもらったやつだよね」

『そうだろうな』


 しばらくその指輪を眺めていると、誰かが近づいてくる気配がした。コンコンとノックの音が響く。

 僕はとっさに左手を布団に突っ込み指輪を隠す。


 がちゃりと扉が開き、母さんが入ってきた。


「おはようソーマちゃん、朝ごはんよ〜」

「うん、わかった。すぐいくよー」


 母さんが部屋から出ていった後、僕は着替えを始める。わざと時間をかけて着替えた後、左の親指に目をやる。そこにあるのは青く輝く宝石が付いた、いかにも高級そうな指輪。


「母さん達にバレたら絶対何か言われるよね……」


 そう思って外そうとするが、指に同化しているかのごとく全く動かない。


「どうしよ、外れない……」

『だったら魔法で隠せばいいだろ』

「そんなことできるの?」

『闇魔法を使えば簡単だ。やってみろよ』


 僕は目を瞑り集中する。指輪が完璧に隠れる様子を想像し、器をイメージする。その器に闇属性に変換した魔力を注ぎ込み、器を満たす。そして魔法の発動を強く念じる。

 器の中の魔力が消え、魔法の発動を感じて僕はゆっくりと目を開ける。


 指輪は消えていた。


「よし! 成功だ!」

『バカか。自分にも見えなかったら指輪が何色かわからねぇだろ』

「そっか! 指輪の色が見えないとダメなんだよね。もう一度やってみるよ」


 今度は自分にだけは見えるようにイメージして、さっきの手順を繰り返す。


「できたのかな?」


 自分には見えるようになっているから、成功したのかがわからない。


 ソルならわかるかもしれないと、ソルに聞いてみようとした時、部屋の扉が開いた。


「ソーマちゃ〜ん。早く来ないとご飯冷めちゃうわよ〜?」


 魔法に時間がかかった為遅くなった僕を呼びに来たのだろう。魔法に集中していて、母さんが近づいてきたのに気づかなかった。


「う、うん。もうじゅんびできたからいくよ」

「それじゃあ一緒に行きましょうね〜」


 母さんはそう言って僕の左手・・をとった。すると母さんは首をかしげ僕の左手を見つめてくる。


 え? 指輪には当たらないようにしたから気づかれないはずだけど……魔法失敗したのかな?


「おかあさん。どうしたの?」

「ううん。なんでもないわよ〜さ、早くご飯食べに行きましょうね〜」


 どうやら指輪に気づかれたわけではないようだ。


 食卓にたどり着くと、既に父さんが座って待っていた。


「おはようソーマ」

「おはようおとうさん」


 朝の挨拶を交わした後、全員で朝食を食べ始める。今日のメニューはパンとポトフだ。

 僕はパンをちぎって口に入れる。ほんのりと甘い小麦の味が口いっぱいに広がり、幸せな気分に浸る。

 母さんは料理が得意で、このパンも母さんが今朝焼いたものだ。


 やっぱり美味しいものを食べると幸せになるなぁ。美味しいものを求めて旅するのもいいかもね。


 ご飯を食べ終わると父さんは仕事に出かけた。父さんの仕事は村の警備だ。普段は村の周りに魔物が居ないか見回りに行き、もしいたら討伐するのが仕事だ。


 母さんはお茶を飲みながら読書をしている。今まで見かけなかった本を読んでいたので気になって聞いてみる。


「おかあさん。なによんでるの?」


 僕が話しかけると、母さんは本から目を離し僕の方を見る。


「これはね〜魔王についてのご本よ〜」

「どんなことが書かれてるの?」

「魔王の戦い方についてよ〜。魔王は魔法が得意で、魔法を中心とした戦い方をするそうよ〜。使う魔法の属性に合わせた色に目の色に変わるそうなのよ〜」

『属性眼のことか。魔法の適性が高すぎるために、その影響が目に表れるんだ。そのレベルまで適性が高いヤツなんてそうそういねぇからな、魔王だけのモンだと思われてるな』


 ソルが補足してくれる。


「へぇ、そうなんだ!」

(じゃあ普通の人に現れることもあるの?)


 母さんに相槌を打つ裏でソルに質問をする。


『あぁ、その通りだ。つってもそんなやつ今までいなかったけどな』

(なるほどねぇ)


「色はこんなふうに変わるそうよ〜」


 そう言って母さんは僕に本を見せてくれた。書いてある事は簡単だったので、僕にも読めると思ったのだろう。


 内容をまとめるとこうだ。


 火魔法・真紅

 水魔法・瑠璃色

 氷魔法・空色

 風魔法・翡翠色

 土魔法・琥珀色

 雷魔法・黄金色こがねいろ

 光魔法・金色

 闇魔法・漆黒

 空間魔法・変化なし

 無属性魔法・変化なし


「すごいね! たくさんのいろにかわるんだね!」

「そうね〜すごいわね〜」


 母さんはにこにことしながら僕の頭をなでてくる。よし! 母さんの機嫌が良くなった。これならお願いも聞いてくれるかもしれない。


「ねぇおかあさん。お外遊びに行ってもいい?」


 少し上目遣いで、子どもの可愛さを前面に押し出してお願いする。


『気持わりぃ』


 ソルに引かれた。でも仕方が無いじゃないか! 魔法の練習がしたいんだよ!


「だ〜め。昨日あんなことがあったばかりでしょ〜?お父さんがあぶないことはないか見回ってくれてるから、それで大丈夫だってわかるまではお外に出ちゃだめよ〜」


 やっぱりダメか……仕方ない。許可が出るまでは本でも読んでおこう。そう考え、自分の部屋に戻る。


『なぁ、やることがねぇんだったらお前のこと、教えてくれよ。前世はこことは違う世界だったんだろ?』


 え、なんでそれを知って……あ!アゼニマーレとの話のせいか! 僕とソルの世界が重なり合っているって所から気づいたのか。


「はぁ。いいよ。その代わりソルのことも教えてよね」


 ソルが悪意を持って僕を殺そうとした訳では無いとわかったし、バレたのならもういいやと思って僕は隠すのをやめた。


『あぁいいぜ。お前には色々聞きてぇ事があるんだ。まずは――――』


 その日は一日ソルと話し続けた。



 ◇◇◇◇◇


 それから三日後やっと許可が降りたので、僕は前回魔法を使った場所にやってきた。ソルがこの前作った人形が残っているが、壊すのは後にしよう。早く魔法が使いたい。

 今回練習しようと思うのは魔法の教科書魔道の極め方に書いていた融合魔法だ。とても難しいと書いてあったが、ものは試しだ。挑戦してみようと思う。


「えーと、左右の手それぞれに違う属性の魔力を集めて、手を合わせて融合させるのが一番簡単なんだったよね」

『あぁ、そうだ。ま、頑張れよ』


 ソルはそう言ったあと何か魔法を使ったようだ。


「ん?なにしたの?」

『あぁ、ちょっと風魔法でここら一帯の音が外に漏れないようにしただけだ』

「なんで?」

『まぁやってみればわかるさ』


 気にはなったがソルが話す気がないなら仕方ないと、僕は融合魔法の練習に移る。


「まずは簡単そうな火と風の融合魔法をやってみよう」


 イメージとしては炎の竜巻だ。


 まずは右手に魔力を集め火属性に変換する。そして左手にも魔力を集める。その魔力を風属性に変換しようとしたとき、全身に激痛が走った。


「がぁ!?」


 体の内側から削られるような痛みに苦悶の声を漏らすが、鍛えた精神力でそれ以上叫ぶのを堪える。


『へぇ、それに耐えるのか。なかなかやるじゃねぇか。それは二つの属性を同時に体に発生させたことによる反発だ。いてぇだけで体に問題は起きねぇから心配すんな』

「そ……んな……ことより……どう……すればこれは……おさまる……んだ」


 痛みのせいで途切れ途切れになりながらソルに問う。


『魔法を完成させればおさまるぜ』


 その言葉に縋るように必死で手を動かす。左右の手のひらが接触した瞬間、痛みが数倍に膨れ上がり、手が弾かれそうになる。


「がぁぁぁぁぁ!?ぐぁ……ぐっ……」


 突然倍増した痛みに叫ぶのは堪えられなかったが、手が弾かれるのはなんとか耐えられた。


 早くこの痛みから逃れたい、その一心で魔法を完成させようとする。炎の竜巻が発生するのを強くイメージする。


 体がバラバラになりそうな痛みに耐えながら集中すること、およそ一分。ようやく魔法が完成した。


 発生した炎の竜巻は目の前の木々を焼き、なぎ倒しながら進む。木を三十本ほど破壊した後、やっと魔法が消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る