魔導戦記

一角 充

プロローグ

 それは、太古から続いている人と魔獣との戦い。

 ほんの少しの闇から這い出ては人を誘き寄せ、またある時は取り付きその心を喰らっていく。まさしく人の天敵とも言える魔獣。

 そして、影から人々を魔獣から守っていく戦士たち。遥か昔に彼等が生まれた際、人々は希望の光得たと古文書にも記されています。

 人は……、いえ私たちはその戦士たちをこう呼んでいます。

 魔導戦士と。




 真夜中の公園、誰もいないはずのそこではある二つの者いた。大人ほどの身長を持った、まるで悪魔を彷彿させる異形の怪物。もう一つは、怪物よりも小さい人の子供だった。子供の方は現時刻が真夜中を指していたとしても、一際目立つくらいの奇抜な格好だった。頭を覆い隠すほどのキャスケット坊にシルエット的には全身に炎をまとっているようなイメージの黄色と白で構築された長袖長ズボンなレザースーツだったのだ。まるで少年のような格好。

 様子から見て子供は怪物から逃げているようだった。


「はっ……はっ……はっ……はっ……!」


 子供はだいぶ疲れ果てていた。このような経験は、初めてではない。ただ一人不安なところにその怪物と遭遇し、右足に少々傷を負ってしまった。そのためパニックを起こし逃げてしまっていたのである。


(早く、この状況から逃げ出さなきゃ……!)


 子供は、少しずつ冷静になってきている頭で解決策を考える。背後にいる怪物、それが徐々に距離を詰めてきていることを聴覚と肌で感じながら、一つ思いついた。一か八かの状況、やってみるしかないと思った子供は走っている足を止め、怪物の方へ向き直る。


「おとなしく食われる気になったかッ! 妖精のガキィ!!」


 怪物はそう言いながら、鋭い爪を子供に向けて突っ込んでくる。

 対して子供は、右手で銃の形をつくって左手で右手を支えた。集中し、そのまま右手の指に力を込める。すると徐々に光が集まり、すぐに野球ボールぐらいのサイズに強く光っていく。

 目を開いて、怪物を見据えた子供。


「シャイニングッ!」


 脇を閉め、腰を落とし、銃を構えるような態勢をとる。


「ショット!!」


 吐き捨てるように張った声とともに、光が銃弾のように怪物目掛けて飛んでいく。怪物は咄嗟に回避運動を取った。


「危ねっ!!」


 しかし、回避しきれず怪物の背中にある翼に穴ができる。


「チィ! 糞がッ、憶えてやがれーっ!!」


 大きく羽ばたかせながら、鈍く飛び去っていく怪物。それを見届けると、その子供は力が抜けたかのように倒れてしまった。


「助……かっ…………たぁ……」


 子供はそのまま気を失ってしまう。夜も深く体力的にも限界だったのだろう。子供はこの時、その後に起こることなど思いもしないだろう。それが自分の運命を大きく変えていくことも。





 ――――ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!


「んぁ?」


 …………知ってる天井だ。ものすごく。ここは自分の部屋だ。

 そんな当たり前すぎる結論をつけて、あたりを見てみる。棚の中と上に置いてあるたくさんのプラモデルやフィギュア。そんでもって、コミックに好きなアニメのポスター。俺が寝ころんでいるこのベッド。……とりあえず時計見なきゃ。


「……っと」


 自分の体を起こしてみる。なんとなーく、意識はあるけどまだ眠い。


「ふわぁー……」


 あくびがでた。そして目をこする。

 その後、俺の枕元にある時計を見る。時間は、六時半。今からゆっくり学校へ行く支度をしても余裕で間に合う、ゼッコウの時間帯だ。


「今日から六年生か……!」


 そう、俺は今日で小学六年生になる。あまり思い返したくないけど、これまで散々のように嫌なことがあった。けれど、今は全部思い出になっている。楽しかったこと、うれしかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、何もかも全部。そして、それを経験していくたびに強くもなれた。

 そしてこれからもきっと、それは続いていくんだって。そう思っている。


「……よしっ! 着替えと支度、さっさと済ませちゃおっと!」




 彼の名前は四葉希来よつば きら。この物語の主人公である。柏葉小学校に通っており、今日で小学六年生になる。趣味はゲームとインターネット、好きなものはロボットアニメ。友人には恵まれているほうである。

 これから彼が体験するのは彼にとっては非常識的なものでありあまりにも空想的なものである。が、現実である。その現実の中で彼は何を見て、何を起こすのか。

これは、希来がその空想的なものを通して体験するいくつもの戦いや出来事を収めた物語である。



 プロローグ 了

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