私は主人公には向かない。

皆瀬嘉穂

第1話 大晦日におけるアルバイターの雑談。

つい前日まで、ジングルベルだ、赤鼻のトナカイだ、クリスマスイブだ、と流れていたと思ったら、あっっという間に正月ムードだ。


どうもみなさま、こんばんは。狭山颯希です。


私の職業はフリーター。ちなみにコンビニで働いている。フリーターに年末年始のお休みなんてあってないようなものだ。

クリスマス?クリスマスなんてただの平日じゃないか。ケーキとチキンとオードブルの納品が多いだけの平日じゃないか・・・!


話がずれた。


年末年始ということで、普段はお昼の時間を担う主婦さん方がお休みされ、フリーターや学生バイトが主に出勤するのがおきまりのパターンだ。

謂わば、身軽な独し、おっと、お客様がご来店だ。


「「いらっしゃいませー。こんばんはー。」」


午後8時を回り、客足も落ち着いてきた。

やることは大体済ませてしまい、ここからは暇を持て余す時間だ。


「いやあ、大晦日ッスねぇ。」


「そうですね。」


私の横で、感慨深そうにそういう牧名くん。

高校3年生であるはずの彼が今アルバイトしていてよいのか?とも思うが、彼曰く、「俺、内部進学なので☆」とのこと。

まあそんなことより、大晦日だ。


「牧名くんは、今から友だちと初詣とか行くんですか?」


「あー、俺家族と行く派なんスよ。それに、この時間で歩いたら補導されちゃいそうッスよ。」


チャラい見た目の割に、話す内容はとても純朴で真面目すぎる。そのギャップについつい萌えてしまい、温かい眼差しを送ってしまう。


「それに、年末年始だって、普通の平日と変わらないじゃないッスか!働けるなら働きたい!」


偶然にもさっき私が脳内で思った意見と一致(まあ、クリスマスと年末年始という違いはあるが)。


「確かに、年末年始とかって稼ぎ時ですよね。みんな休みたいようですし。」


「遊びたい気持ちもあるんスけど、お金がないのは困りますしね。」


「いやあ、牧名くんは本当、堅実ですね。」


「えへへ、そッスかねー。そういう狭山さんも、年末年始も働いてますし、堅実ッスよ!」


「あ、あはは。ソウデモナイデスヨー。」


まだまだ未来ある若者の牧名くんには言いたくないので笑って誤魔化すが、フリーターは働かなければ生き残れないのだ。働かなければ、フリーターではなく、ニートにジョブチェンジだ。

年末年始だろうがクリスマスだろうがGWだろうが、可能な限り働く。それがフリーター、だと思う。まあ、税金云々の都合を見て働く必要があったりして面倒だが、その分普通の平日とか、自分がほしい日に休めたりするのでその分は楽だ。


「狭山さんは、初詣行くんスか?」


「いやあ・・・」


カップルや学生の集団や家族連れの多い初詣。ボッチスキルカンストしていてもちょっと勇気がいる。し、もし同級生とかに遭遇したらとか考えると末恐ろしい。


「さ、三が日過ぎたら行くカナー?」


「あー、激混みですしね。」


危険な局面(?)を無事乗り越え、ホッと一息つく。


はあ。今年ももう終わりか。

何事もなく、無事にとも言えるが、味気なく一年が過ぎて行くのは、なんだか寂しいような気がした。

世間では、彼氏彼女と過ごしたり、家族と過ごしたりするこの大晦日の夜、私は独りで働いている。それは、フリーターとしては正しいことだと思う。でも、20歳女性としてはどうだろうか?

定職についてない、恋人もいない、ついでに友だちも・・・そんなにいない。

こんな風に年を越すなんて、高校時代の、いや、それより前の私は予想していただろうか。


「まあでも。」


牧名くんが、さわやかな笑みを私に向ける。

そうか、今、私は一人じゃない。一緒に働く牧名くんがいるじゃないか。


「来年も、良い年になるといいッスネ!」


来年「も」。といえる牧名くんに少しだけ羨ましはを感じつつも、「そうですね。」と返そうと口を開いた、


「来年こそ、お互いに彼氏彼女つくりましょ!!」


牧名くんから飛んできた、恐ろしくでかい爆弾に被弾。私の心に80のダメージ。効果は抜群だった。


狭山颯希、20歳フリーター。ついでにコミュ障。

来年の今頃も、きっと同じことを思っているだろう。


「心が、しんどいです・・・。」



















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