第2話 王都へGO

 まあ、猫っていう生き物は基本的には退屈を好む。同じ場所で眠れればそれでいい。しかし、スパイス程度の刺激も欲しくなるっていうんだから、全く業が深い生き物だ。

 その日、村はちょっとした騒ぎになった。ここから離れた場所にある王都から、お呼び出しが掛かったのである。それも、国王自ら、名指しでだ。

「ムツ、どうしよう。私、著ていくものこれしか……」

「いや、そんな事より、まずは弁護士を呼べ。それまでは黙秘権を行使してだな……」

 国王が相手か、受けてくれる弁護士はいるだろうか……。

「ムツ、なんでそっちに行くんですかぁ!!」

 メイが頭をガサガサやりながらいった。

「だってお前、なんか褒められるような事したか?」

「い、いえ……」

 ……ほらな。

「じゃあ決定。怒られる!!」

「怒られる理由もないんですよ~!!」

 ふむ、それは困ったな。

「まあ、行ってこい。留守番はやっておく」

「ええっ、私一人ですかぁ!?」

 なにを今さら……。

「先触れによれば、呼ばれたのはメイだ、俺が出て行く場ではあるまい。」

「ムツ、なに考えているんですか。使い魔は主とセットと勘定されるんです。別行動なんてあり得ません!!」

 ったく、俺は定食屋のA定食のおかずか!!

「気に入らんな。使い魔を何だと思っているんだ?」

「ああもう、こんなの時にムツまでへそ曲げたぁ!!」

 なんてバタバタしていると、ついに城からの車列が到着してしまった。問題は何一つ解決しないまま……。

 家の扉がノックされた。

「ひゃ、ひゃい!!」

 緊張しすぎだぞ。全く。

 メイが扉を空けると、大きな巻物のようなものを捧げ持った文官が一人入ってきた。

「国王様からの命です。ただちに出頭するようにとのこことです。メイ・グラウラー高位魔法使い 並びに その使い魔殿」

 ん、今なんて言った?

「すまん、名前の所だけ、もう一度読み直してもらえるか?」

 聞き違いかもしれん。念のために確認した。

「はい、メイ・グラウラー上位魔法使い 並びに、その使い魔殿です。使い魔殿の名前までは、城では把握しておらず失礼しました。

「今まで使い魔を呼び出すなんてなかったな。よし、メイ。急いで準備だ」

「……泣いた子がもう笑った」

 小声だったが俺の耳にはしっかりキャッチ。無視したが……。

「ほら、準備!!」

「はい、もう出来てます。用件分からないので、これだけ……」

 メイの足下には小さなトランクのみ。俺なんかなにもない。これで国王に謁見しようっていうんだから、なかなかのファイターだ。普段着に髪ボサボサだぞ、メイのヤツ。俺はこれでいいが……。

「服は途中の街で買って、髪も……お金足りるかな……」

 ここから王都までは、駅馬車を三回ほど乗り継ぐ必用がある。その旅費も合わせると、結構な出費だ。

「まっ、行くしかないな」

「そうですね」

 メイが玄関の扉を開け、俺たちは外に出た。村の出入り口に着くと、メイと俺は思わず足を止めてしまった。

 王家の紋章が付いた馬車が四台、整然と並んで停車していたのである。

「どーいう事だ。こりゃ?」

「さぁ?」

 王家の馬車が一般人を乗せるために待つ事など、絶対にあり得ない。一般常識ってやつだ。なのに……なんで?

 頭の中大混乱の中、先ほどの文官が近寄ってきた。

「国王様より、しっかりお連れするよう命じられております。ささ、こちらの馬車へ……」

 言われるがままに馬車に乗ると……王家の紋章入り馬車だぞ、俺らみたいな一般国民には無縁だぞ? 車列はゆっくりと加速しはじめた。

「おいおい、貸し切りかよ……」

「……みたいですね」

 この馬車に乗っているのは、俺とメイだけだった。つまり、わざわざ空荷で運んできたのだ。なんだこの好待遇。死ぬんじゃねぇか?

「ムツ、今までありがとう。来世でも会えたらいいね」

「そうだな。まあ、楽しかったぜ」

 ちなみに、今さらだがムツというのは俺の名だ。コイツの実家で買っている猫の名前を、単純にひっくり返しただけらしい。

 それはいいとしてだ、俺たちは思わずこんなアホなやりとりをするくらい、なにか覚悟めいたものをしていた。ありえん、こんな待遇ありえん。

 王都までは三日。寝るに寝られない旅が続くのだった……。


 三日後、俺たちはトラブルもなく王都に到着した。いかにも都会という街並みと人混みは、俺の目をちかちかさせるには十分だった。

「ううう、都会って苦手なんですよね。魔法使いの免許更新以外では近寄りたくないです……」

 メイがブチブチ言っているが、俺は無視した。

 そう、この国では魔法使いは免許制で、しかも有効期限があるのである。「初心」「一般」「上位」と大きく三区分あるのだが、その辺の解説はどうでもいいとして、免許更新はこの王都でなければ出来ない。通称「参勤交代」とか言われている。よく分からんが。

 上位魔法使いの有効期間は三年なので、実は去年必死こいて行ったばかりなのだが、またこようとはな……間の悪い奴。

「俺も好かん。都会の同胞は皆冷たい。数が多いから、生きるのに必死なのだろうがな……」

 窓の外を見ながら俺もつぶやく。全く、この街は冷たくていかん。人も種族も猫も多いがな。

 馬車は下町から中流階級、上流階級が住む区画へと入っていく。人もまばらになるので、ますます寂しくなる。なにか、変な街ではある。

「さて、城だ。何が待ってるか。

 巨大な城門を潜り抜け、馬車は城の車寄せに滑り込んだ。むず痒くなるくらい丁寧にエスコートされて馬車から降りる。メイはもう死にそうになっている。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか。まっ、楽しもうじゃないか。ええ?」

「なんで、ムツは……」

 そして、城の大扉が、ゆっくり開けられたのだった。

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