インテグラル
瀬々院
プロローグ
誰しもマンガやアニメに憧れたことがあると思う。
かくいう俺もその一人だ。
子供の頃なら新聞紙や広告紙をまるめて剣を作り、正義のヒーローごっこをしたり。
アニメに出てくるおもちゃがカッコよくて親にねだったり。
出るはずもないのに気を溜めてエネルギー弾を出そうとしてみたり。
もし、世界を敵に回すことになったら……と妄想してみたり。
思い返せば痛々しくて恥ずかしいものばかりだが、楽しかった思い出だということは間違いない。
あくまでもマンガやアニメはフィクション。現実との区別ははっきりさせないといけない。
とは言え、ある日突然何かの能力に目覚めたりとか、異世界に飛ばされたりするといった現象を、憧れてはいても、本気で信じている人はそういないだろう。いや、もしかしたらいるかもしれないが、少なくとも俺は現実とフィクションの区別ははっきりしているつもりだ。
そもそも、そして残念ながら、現実に即して描かれたマンガやアニメでさえも、現実からはかけ離れているものだ。
よーく考えて欲しい。
毎朝自分を起こしに家まで来てくれる幼なじみがいるだろうか。
遅刻寸前で学校に向かったところで、角で食パン咥えながら走ってきた少女とぶつかるだろうか。
委員長は三つ編みにメガネをかけているだろうか。
お嬢様は金髪ツインテールだろうか。
本好きな無口ちゃんはいるだろうか。
女子と一緒に体育倉庫に閉じ込められるだろうか。
都合よく転んだり、逆に女子が自分に向かって転んだりするだろうか。
普段完璧な女子が、自分の前だけで失態を見せたりするだろうか。
美少女と一緒に部活作りをすることになるだろうか。
「お弁当を作りすぎちゃった」と言ってお昼を分けてくれる子などいるのだろうか。
そもそもツンデレは存在するのだろうか。
自分の周りにいる女子はみんな特徴的で可愛い子ばかりだろうか。
とまあ、ラブコメでありがちな設定に疑問を投げかけてみたが、そもそもマンガやアニメといったものは非現実世界に自己を投影する場なのだろう。そんな場所に現実性を求めるってのは野暮ってもんだ。もちろん逆も然りで、現実世界でマンガやアニメのような展開を期待しちゃいけない。
そんな価値観が崩れ始めたのは、間違いなくアイツに出会ってからだと思う。
これは、マンガやアニメの主人公になろうと、非現実世界を現実に呼び起こそうとする、とある残念な人間の物語だ。
あっ、主人公になろうとしているのは俺――芹澤彰ではないことを添えておく。
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