第23話
「矢口君」
課長の声に矢口はびくりと身体が揺れた。
「やってくれるね」
死刑宣告を受けたかのように頭の中が真っ白だ。動悸が早くなり、背中の汗は冷たく背中を濡らしてゆく。
顔面蒼白の矢口を見て、課長はふ、と表情を緩めた。
「杉本君、若いよねぇ。いくつだったっけ? 」
ことさら大きくなった課長の明るい声に再びびくりと矢口の肩が無意識に動いた。課長の意図が分からず思わず彼を見上げる。課長が楽しそうに笑った。
「大丈夫、クイズじゃないよ。気軽に答えて。ほんとに忘れちゃったんだよ」
「に、」
のどから声を絞り出した。
「にじゅう、ろく、さいです」
「そうかあ、そんなに若いのか。それでね、彼、二人目ができたんだよ」
矢口は一瞬息をとめた。
あはは、と突然課長は矢口の背中をばんと叩く。
「そんな葬式みたいな顔するなよ。めでたいじゃないか。ちゃんと祝ってやらなきゃ。あ、彼の事は誤解しないでやってくれ。まだ僕にしか報告はしてない。君の事を気にしていてね、いつ言ったらいいのか悩んでたから僕から皆に話すと言ったんだ。忙しくて中々機会がなかったんだけど明日にでも言うつもりだったんだよ」
笑い声のまま課長は
「これで――うちの課の既婚者は大体皆子供が二人になったね」
これ以上の苦痛は耐えられない。
それ以上を言われる前に、矢口は立ち上がって両手をばんと机に置き、がばりと頭を下げた。
「も、申し訳ございません!! 」
「矢口君のせいじゃない。そうだろう? 君は至って健康なんだから。ほら、座って座って」
課長がレストランのウェイターのようにパイプ椅子を矢口の後ろに寄せ、矢口は仕方なく座った。
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